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第48話 土産屋にある龍

 ギルドの中は、外の喧騒とは程遠い静かな空間だった。外から漏れ聞こえる人の声が遠くに聞こえる。何と言うか、もっと活気溢れているのかと思っていたが、年末も近いのだから冒険者も休むのかもしれない。


 受付だろうカウンターにクンラートが進んでゆく。それについてゆくが受付は不在だ。ベルを鳴らすとしばらくして奥から男性が出てきた。


「ああ、すみません。年末ですからもう人は来ないかと思っていたので、席を外していました。申し訳ない」


 出てきたのは、少々気弱そうな顔つきの壮年の男性だった。ギルドに登録をしたいと申し出ると、何か用紙を用意していた。受け付け表か何かか。


「珍しいですね。この時期に登録だなんて」

「ちょいと立て込んでたんでね」

「そうですか。それぞれお名前を書き込んでいただいて、よっと、この水晶に血を少々つけていただきます。それで登録は完了となりますので」


 両手で持てるサイズの水晶をカウンター内から出してカウンターに置く。理由がある冒険者など数多居たのだろう。特に深い理由も聞かれずスムーズにことが運ぶ。


 ペンを渡されて偽名を書き込み、男性は始めにクンラートの名前の書かれた用紙を水晶に当てると、ほろ、と紙が砂のようにさらさらと分解されてゆき水晶に吸い込まれていった。そうして針をクンラートに渡しクンラートは指に針を刺す。血が垂れて水晶に落ちると、水晶が淡く光った。


「お次の方どうぞ」


 ディーデリックとマレイケも順に済ませて私の番になる。紙が水晶に吸い込まれてゆくのを見た後、指に針を刺した。血の付いた指をぺとりと水晶に当てると再び淡く光る。


「はい、これにて登録は完了となります。皆様方はパーティでよろしいのですよね?」

「ああ」

「でしたら、こちらで登録は済ませておきます。ランクの説明は必要ですか?」

「わたくし聞きたいわ」

「でしたら、皆様は現在一番下、青銅のランクになります。上には銅、銀、金、白金とあります。白金が最上級になりますが、そう数は多くはありません。皆様は青銅ですので、市井の依頼から討伐など受けて行き、評価などを加味してランクが上がります」

「その水晶はなんなんだ?」


 ディーデリックの問いに男性が答える。


「この水晶は各ギルドと繋がっておりまして、皆様の生体認証で識別出来るものとなっています。以後血は必要ではありませんのでご心配なく。ああ、これとは別に冒険者の証としてタグをお渡しします。水晶が無い場での身分証明としてお使いください」


 そういう時カウンター内からかちゃかちゃと金属音が聞こえ、ドックタグのような物を渡される。


「そちらはランク証明、身分証明となりますので、紛失にはお気をつけて」


 タグを受け取り、革紐を結んで首にかけて服の中へとしまう。


「以上となりますが、他に聞きたいことなどございますか?」

「いんや、大丈夫。年末にご苦労さん」

「いえ、仕事ですので。どうぞ良いお年を」


 その言葉と共にクンラートは背を向けて出口へと向かっていく。受付の男性に会釈をしてからクンラートに続いた。


 外に出れば街の喧騒が戻ってくる。さて、とクンラートが振り返る。


「これからは神殿からくすねてきた金で色々揃えるぞ。まずユウキ」

「何かしら」

「お前そのセーラー服とか言うの脱ぐ気無いんだな? だったら外套を買え。目立つ! 次にディーデリック!」

「何」

「お前料理出来るんだよな。最低限の調理器具で目ぼしいもの見つけるぞ。で、マレイケ」

「何ですか」

「お前は治癒魔法を使えるなら魔力量は多いだろう。収納魔法も使えるか?」

「既に会得済みです」

「言うこと無し! じゃあ今日はまずユウキとディーデリックの装備と用品を揃えるか。その他は気になったら買い足して行くぞ」


 クンラートの指示通り動くこととなり、まず私の外套探しから始まった。衣料品店へと向かうと年末セールと銘打たれた看板が建てられ、店内は賑わっているようだった。そこまで大きくもない店の中へと四人で入る。


「ユウキ以外は神殿出る時前もって服を揃えてたからな。ユウキ、お前の見目は認識阻害の魔法具があっても認識されれば目立つ。フード付きのもの見繕ってやるから選べ」


 そう言ってクンラートたちはそれぞれ店内へと散ってゆく。ぽつりと残された私だったが、まあ自分でも探してみるか。と店内をうろつく。そうして私は見つけてしまった。


「こっ、これは!」


 それはなんと、特攻服じみた長丈のコートに、背にはドラゴンが刺繍された厨二爆発コートであった。私は瞬時に欲しい! と思ってしまったのだった。これ夜露死苦とか自分で刺繍してカワサキに乗ったらいい感じにワルになれるのでは!? と相当頭がイカれていた。


 いそいそとそのコートを回収して近場に居たディーデリックに見せに行く。


「ディーデリック、これどうかしら」

「それいいね」


 ぐ、と無表情でサムズアップしてくれたディーデリックに、これにしようと心に決める。が、財布の紐を握っているのはクンラートとマレイケである。あの二人を突破しなければ購入は叶わない。ディーデリックにそれとなく説得に協力してくれと頼むと、かまわないと返ってきた。話しあっていた二人の元へと向かうと、こちらを向いた。


「マレイケ、クンラート。これがいいです」

「黒地のコートか。いいんじゃないか? いや、でもフードがあるものの方が」

「……待ってクンラート。ユウキ様。背面を見せてください」


 マレイケの言葉に背中に刺繍されているドラゴンを見せると、二人は無言で頭を抱えた。


「俺はいいと思う」

「ふざけんなクソガキ共。そんな主張が強過ぎる服なんざ着たら見つけてくださいお願いしますだバカヤロー」

「これに、刺繍を加えたいの。糸も欲しいわ」

「買わねえってだから! お前はこれを着ろ!」


 クンラートが濃紺色の外套を突き出す。


「これに刺繍するならいいかしら」

「刺繍しないでください。ソーイングセットには絶対触らせません」

「俺はこっちのドラゴンの方が格好いいと思う」

「うるせえ馬鹿! はいはいはい! クソガキ共は店出てろ! マレイケこれ会計!」

「ええ」


 マレイケに濃紺の外套を渡すとクンラートは私とディーデリックを店の外へと追いやった。ぶーぶーと抗議するがうるさいからやめろと怒鳴られる。


「旅行に来てるんじゃねえんだぞ! 浮かれられちゃあ困るんだよ!」

「別に浮かれては居ないわよ。ねえディーデリック」

「そうだ。純粋にあれがいいと思った」

「お前らの感性どうなってんだよ! たあっく……」

「戻りました。こちら今すぐに着用なさってください」


 会計を終えたマレイケが店を出てきた。外套を渡され、ちぇ、なんて思いつつ身に纏う。案外着心地は良いもので、重いわけでもなく肌触りもいい。これはこれでいいか。と少し残念に思いつつも納得する。


「で、次はどこへ」

「雑貨屋にでも行きゃ鍋なんかあるだろう。後、調味料に保存食も必要だ。デカいところはあるってさっき店主に聞いてたから場所は分かる。行くぞ」


 クンラートの案内についてゆく。が、やはり後ろ髪は引かれるのだった。あの厨二コート、欲しかったなあ〜。

どうして子供の頃はあれが格好良く見えたんでしょうね。お読みいただきありがとうございます。

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