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第一章 深海の魔女

以後、連載を週一回とします。

《現在、深度三〇〇〇、目標は本艦とボーンフィッシュに挟まれています》


米国艦隊の潜水艦、キラーホエールの中で、レーダー係のサム・ブラウン少尉は、艦長を振り返って言った。

「あぁ………!?」

瞬間、サムは全身の細胞が活動を停止したように感じた。

彼が今恐れているものは二つ。死と、艦長。

「よぉし、ボーンフィッシュに間合いを詰めるよう伝えろ、両側から雷撃でヒラメみたいにしてやる…」

フィリップ・アームストロング艦長は頷いて正面を向き、口元を鮫のように吊り上げて叫んだ。

艦長の四十年海の戦士を続けた男の声と、ムラなく鍛え上げられた肉体は、軍学校入学から今までずっと保ち続けてきたものである。

サムが憧れる軍人の一人だが、もともと小柄で、まさか自分が徴兵されるとは思っていなかったため、全く鍛えていない華奢な体のサムは、訓練でも成績が悪く、彼にあるものと言えばこうしてレーダーを根気よく監視しながら、随時アームストロング艦長に連絡し、その後の命運を彼に委ねることだけである。軍にさえ入らなければ成績ももっと良かっただろうし、こんなに毎日死の恐怖に晒されなくても良かっただろう、おばあちゃんが作ってくれるおいしいミートパイや、彼女と自分と両親の家族皆で食べる夕食のミートパスタ、もし今日俺たちが骸になるならば、せめてパスタくらいは食べておきたい。そうして沸き起こってきた食欲は、指令室に充満するアンモニア臭に掻き消された。何日も、食事さえここで取りながら、このカニの殻の中のような閉鎖空間に引きこもり続けた結果、指令室には兵士たちの糞尿や汗の臭いがむんむんと立ち込め、公衆トイレの数倍臭い様となっている。だが一番怖いのは、このアンモニア臭が鉄分の臭いに変わったときだ。

「魚雷発射!!!!」

座席五人分ほど左の兵士が叫び、間もなく発射の衝撃が機体を貫き、男たちの足場を揺るがす。

六発放たれた。

反対側のキラーホエールから放たれたものを足して十二発だ。

数秒後、より激しい着弾音で、命中が確認される。

だが、レーダーを見たサムの脊椎を衝撃が貫く。

「全弾命中、爆発は確認できず……!!」

「なに………!!」

アームストロング艦長は奇声に近い声を挙げた。そうだ、魚雷が横っ腹に直撃して沈まない戦艦はない。潜水艦も同じだ。しかし、ヤツは違うのだ。

「ローレライ健在、報復してきます!!!!」

「本艦に着弾、四発、五発、六発!!!!」

声と同時に船員たちは艦橋が折れる音を聴いた。


津波に呑まれたような振動に兵士たちは転び、その肉体を壁から剥がれ落ちた精密機械が押し潰す。たった五秒で、兵士たちの鮮血の臭いは、アンモニア臭に勝った………。

指令室が赤く染まり、サムはデスクから引き剥がされ、椅子ごと転び、鮮血の池に頭を打ち付ける。そして、頭上に迫る、重量200キロのレーダー。

「神よ………」

それが、助からない命と知った十七歳の少年の最後の言葉となった。


□□□


第二次対戦中期の太平洋に、連合国が最も恐れた戦艦があった。

自由自在にレーダーから姿を消し、200メートルの機体をシャチのようなスピードで操り、魚のように機敏な動きで魚雷を回避し、もし当たっても、沈まない。


ドイツにこんな伝説がある。

海の果てに、人魚の住む岩礁がある。そこに近寄った船乗りの男たちは女の人魚の美しい歌声に魅入られ、もっと近くで聞こうと岩礁に上陸する。しかしそこに要る人魚は地獄の悪魔のような醜い姿をしており、細い腕に似合わない強い力で男たちの足を引っ張り、深い海の底に引きずり込む。


その伝説にちなみ、正体不明のその潜水艦はこう呼ばれた。

深海の魔女、ローレライ。


動き出した時間。ローレライは、極東の島国に向かう!!!!

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