表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

突然『あなたが生贄です』と言われても困る。

何でもない日常の中で、少し不思議な体験をした事はありませんか?

「前に見たこと(会ったこと)がある気がする」はよくある事

「ここは夢で見た事がある」や「亡くなった人の声が聞こえた」

うーーん。ちょっとヤバい人みたいだけど、まぁあるかも。


では『あなたが生贄です』ってイケボで言われたら?

あなたは既聞(読)無視できますか?

その日は季節外れの暑さだった。


いつものように仕事に行こうとして、さとりはもう一度薄手のカットソーに着替えなくてはならなかった。


「もぅ!なんで急にこんな天気になるのよぉ」と呟きながら駅に向かった。


さとりの住む街は、新しくもなく古くもなく、ちょうど良い色合いの街だ。

住むところを決める時、2月の夕方があまり寂しく感じられなかったのが決め手になった。

駅にも近い。


街路樹は花水木で、春になるとピンクや白い可憐な花を咲かせる。

その枝の細さや黄緑色の葉が、春の空気を更に軽くしてくれるような気がした。


朝は慌ただしいが、駅までの自転車での8分間は気持ちの良いものだった。


さとりにはこの3日間というもの、気になる事があった。


何の変哲もない職場とアパートの往復の毎日でもさして不満もなく、元々社交的でもないので、絶賛お一人様満喫中のさとりには、何か「勘」みたいなものが昔から少しあった。


例えば、人(そんなに親しい友達ではない人)と世間話をしていて名前の話題になり、何となく言った名前が、その会話中の人の最近別れたカレシさんの名前だったり、

一度だけ行った海外旅行では、とある美術館の廊下を歩く夢を3ヶ月ほど前に見ていたりした。

亡くなった叔母の「あんたは良く頑張ってるよ」と言う声も聞こえた。(亡くなったと連絡が入る前の日)


まぁ、どうと言う事もないといえば無いし、カレシさんの名前を言ってしまった時はちょっと気まずかったが、偶然とも言えるし、美術館の廊下だって、本当にそこだったかはっきり確認しようもないし。

(でも本人は怖くなって、その後買おうと思っていた美術館のDVDを何故か買えなかったが)

叔母の声だって空耳だ!


とにかく、毒にもクスリにもならない程度のもの、と思っていたし、思いたかったし、そうだった。

今までは。


一応、日頃はなるべく感じないように気をつけていた。

寝る前のおまじないは

「変な夢は見ません。変な事も感じません。変な声も(叔母ちゃんゴメン)聞こえません。」×3だ。


でも先日、ふと「それ」が来たのだ。


それが3日前だった。


いつものように仕事を終えて、笑顔で「お疲れ様、お先です」と挨拶して、家路についた。


電車でひと駅、それから自転車で約8分の道のり。


その間のどこでだろう、いきなり入ってきたのだ。

「しまった」と思った。

最近少し気を緩めていた。スキがあったのだ。

おまじないもサボっていた。


この「感じ」が入ってくると、やっぱり気にはなる。


何かに関連付けて(例えば最近観たTVやビデオの影響とか)

気にしないようにしようとするのだが、今回はちょっと違った。


うまく関連付けることができなかったし、今のところ自然に忘れる事もなかった。


だって、その「いきなり入ってきたもの」って


『あなたが生贄です。』だったのだ。


全力でイヤですよっ!!!


いつの時代だ?どこの国?

いつだったか、どこかのドキュメンタリーで見た事がある?かな?


日本では、鬼が出るだのヤマタノオロチなどで生贄ワードが出ていた?かな?


で、

何で、今?

何で、わたし?


いやいやいや笑笑だな。


と何度も茶化すのだが、なんともリアルな声だった。

しかもイケボ(いわゆるイケてるボイス)だ。


日本語。


じゃ、例えばわたしはヤマタノオロチの生贄?

あれはどなたかの神さまが助けてくださるのよね?

えーと。確かスサノオノミコト。

で、あわや生贄にされかけた姫は誰だっけ?


じゃ、わたしはその姫か?


うーん、ムリがある。


姫キャラではないと言う残念な自覚はある。


女の子は、自惚れがあってもいいと思う。

さとりの母は、現実主義でちょっとイジワルだった。

自分は「モテた。」と言いつつも、娘がモテるのは許せなかったようだ。


さとりは背もスラっとしていて、色白。

髪もサラサラで、性格も良い。


なかなかのモテキャラだと思うのだが、教育と言うのは恐ろしい。

本人に自信がないと、やっぱり目立たない。

母の言葉の呪縛はなかなかの効き目で、すっかりいわゆる陰キャラになってしまった。


母はさとりが大学を出て就職した年に再婚したので(やっぱりモテるんかい!)その呪縛は少し薄まったが、本当に素直で真面目な子ってある意味損をする。


母はもう近くにはいないし、直接毒を吐く事もなくなったが、内面的なところで繰り返し未だにさとり自身が自分に言っている感じがあるのだ。


しかし、一時期は見た目もいかにも「暗い人」だったが、仕事で自立すると「暗い人」からは多少は脱却した。


仕事はできるし、自信も持てるようになり、元々は(父のいた頃は)ユーモアのある元気な子だったので、その感じが戻ってきたかな?とも思われた。


と、そこで『生贄』だ。

やだやだやだやだ。


誰にも言えないし(そんな友達はいない)誰かに言ったところで「だから?」と言われるのがオチだ。

確かに。


それでいいやん。


さっさと忘れて、ご飯食べてTVみてLINEチェックして、最近見始めたお気に入りのYouTubeの視聴者数を確認して、お風呂に入って寝よう。


そうしよう。そうしよう。


『あなたが生贄です』


また来た!


だから!何がわたしを食べるのよ!


そんなら、イケボのあなたが助けてくれりゃいいじゃない!


元陰キャラだからって、なめないでよね!


『なめてはおりません』


わ!返事が来た!


脳内LINE?


『じゃあ、どういう事ですか?』

イケメンかもしれないので、一応言葉には気をつける。


『ここへ来ればわかります。』


『誰が行くもんですか!』

いや『どうやって行くのですか?』

『行きたくありませんけど、念のため』


『このまま寝ると来ることができます。』


やーめーてー!!!

安眠妨害!!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ