表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

4話

どうぞ、よろしくお願いします。

「私……死んでるのに!」


 少女は怒りや悲しみが含まれたような声音で叫びに近い声を放つ。俺はその言葉を聞いて理解ができなかった。彼女が何を言っているかわからず、困惑してしまった。目の前にいる少女が死んでいるとは一体どういうことだ?


「何を言ってるかはわからないが、死んでるはずはないだろう?だって現に俺の目には……」

「いえ、私は死んでます。これが証拠です」


 そう言いながら、彼女は俺に向かってタックルしてきた。俺はとっさに身をひねって避けようとしたが、いきなりの事だったので反応が遅れてしまう。まずい、ぶつかる。俺は彼女の動きをいなそうと手を掴もうとして──────すり抜けた。


「は?」


 思わず、素っ頓狂な声がでた。待て、どういうことだ?今確かに手を掴んだはずだ。自分の手のひらと、少女の腕を交互に見ながら困惑する俺を、少女は見たことかとでも言うように、俺を見ている。


「だから、言ったじゃないですか。し、死んでるって」

「……ああ。どうやら本当のようだ」


 驚いていない、というわけではない。内心ではいまだに疑問符が渦を巻いている。だが、目の前で起こった事象はその疑問符を掻き消すには十分すぎた。彼女の言葉を信じなかった俺を嫌うかのような視線を向ける。が、その琥珀色の目がだんだんと鋭さを失っていく。そしてしまいには、滲みだしたように見え、最後には、しゃがみ込み彼女は泣いてしまった。


「……ぅう。ぐすっ」


 なんともいたたまれない気持ちになってしまう。俺が泣かせたわけではないと思うのだが、目の前で人に泣かれる経験などあまりあるわけではない。何が彼女を泣かせる要因になったのか?どう対処すればいいのか?残念ながら全くわからない。


「あー、なんだ、その。とりあえず涙拭け。な?」


 迷った挙句、俺はついさっき家でポケットにしまったハンカチを差し出すことにした。これくらいしか俺にできることはないだろう。俺の手に乗っている水色のハンカチを、先ほどの鋭い目とは打って変わって、彼女は涙目で見た。


「……ぅ。あ、ありがとう、ございます」


 ハンカチを受け取ろうと彼女は手を伸ばす。


「「あ」」


 だが、その絹を思わせる繊細な手は、ハンカチをすり抜けてしまった。一瞬、困惑してしまうが、すぐにその原因は判明する。俺に触れることができないのにハンカチに触れるはずはないのだ。

 お互いに顔を見合わせる。彼女の瞳と目を合わせる事、数秒。


「ふっ」

「くすっ」


 小さな笑いが両者から零れる。自分で笑ってしまってから失礼だったのではと心配になったが、相手も笑っているところを見ると、どうやらそうではないらしい。


「お気遣い、ありがとうございます。少し、落ち着きました」


 彼女は涙をぬぐい、微笑んだ。今日は晴れていないはずだが、彼女のその微笑みを浮かべた顔はどこか眩しく見えた。そしてそれがなんだか特別に見えて、心拍数が上がったことは秘密だ。


「それはよかった。あんたには少し聞きたいことがあるんだ。ちょっと良いか?」


 己の心音が骨に響いて伝わるのを感じながら、何事もなかったように俺は言った。


もし少しでも面白いと思えば、☆☆☆☆☆を塗りつぶしてもらったり、ブックマークしたりしてくれると嬉しいです。号泣して喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ