2話
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「なにをやってるんだ」
なぜ、傘も差さずに座っているのか。こんな雨のなか、傘を差さずに居たら数十秒で濡れたくたくたの紙のようになってしまう。正直言って、めんどくさい。あの人に傘を差し出したところで、俺に対する見返りがあるわけじゃない。だが、この時の俺はどうかしていたのだ。気づいた時には、折り畳み傘を取り出して、トートバッグごと本を玄関に置き、俺はその人影の元に走りだしていた。
土砂降りの中ベンチに座るその人影は少女だった。制服を来ているということは高校生の自分と同年代ぐらいか。その艶のある長い黒髪を持つ少女は、俺がいることに気づかずずっと俯いている。
「おい、濡れr、ますよ?」
さすがに初対面の人にため口で話しかけるわけにもいかず、不慣れな敬語で話す。雨で聞こえにくいので、かなり大きな声で話したつもりだが、いまだ俯いているのを見るとどうやら届いていないらしい。
「すみません、濡れますよ!」
さらに声を大きくし話しかけるも、全くと言って良いほど、反応しない。
「あの!」
「……」
普段では出さないような大声で呼んでも、一向にこちらを向かない少女にだんだんと俺は苛立ちを覚えた。
「……ちっ。もういいです。これ渡しときます。返さなくていいですから!」
俺は反応しない相手に呼びかけ続けるのが嫌になり、折り畳み傘を荒い手つきで開くと、少女に差し出した。自分の親切心を無下にされたと思った俺は、イライラしていたせいか、彼女が傘を受け取る前に手を放し、そのまま振り向かずに自宅へと走り去った。
重いため息をつきながら家のドアを開ける。公園から自宅までは走れば一分とかからないはずなのだが、もう全身濡れてしまった。
「風呂、入るか」
このままでは風邪をひいてしまうだろう。俺は洗面所に行くと湯船に湯を張り、ぐしょ濡れになった衣服を脱いだ。お湯に浸かり、外の雨音に耳を傾けながら、先ほどの少女に対する文句を呟く。
「あいつ、人の親切を無視しやがって」
感謝するために行った事ではないが、それでも無視されると少しは腹が立つ。
「結局、なんであんな所にいたんだろうな?」
脳内に先ほどの少女を思い浮かべる。雨の中、独りで俯き座っていた。深い黒髪とは対照的な透き通る白い肌。顔をしっかりと見たわけではないが、目鼻立ちはかなり整っていたはずだ。
「中学生だったか、高校生だったか。どちらにせよ学生だろうな」
いやそこまで、気にしてどうするんだと、俺は顔を両手でたたいた。甲高い音が浴室内に響き渡る。そしてその音もすぐに雨が地面を叩く音でかき消される。
「どうせ、もう会わないんだ。気にしてもしょうがないだろう」
この時の俺はただそれだけしか思っていなかった。
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