1話
何ぶん、初めて小説を書くのでやさしく見守ってください。少しでも面白いと思っていただけたら、嬉しい限りです。
六月上旬。梅雨前線が頭上にとどまり、バケツをひっくり返したように雨を降らしている。矢のような雨で、目の前がすりガラスのようにぼやけて見える。これが家の窓から眺めているならどれだけ良かっただろうか。
お気に入りの書店の前で俺は途方に暮れていた。
「今日は曇りのはずだったが?」
家を出たときは、太陽は見えなかったが、雨が降る様子は無かった。天気予報も確かに確認したはずだ。おかしいなと、手元のスマホで天気予報を見れば、傘のマークと100%の文字。
スマホを凝視し数秒考え、画面を何回かスライドさせる。どうやら、明日の天気予報を見ていたらしい。深くため息をつきながら、俺はスマホとは逆の手にあるトートバッグに目を向ける。
中には先ほど購入した、好きなラノベや漫画の最新刊。一度も手を付けていないのに、梅雨前線の集中砲火を受けるのは些か許し難い。折り畳み傘は持っているし、自宅まで距離があるわけではない。およそ十分ちょっとと言ったところか。だが、この土砂降りでは自宅にたどり着くまでに、本は全てびしょ濡れになり、死んでしまうだろう。
どうしたものかと、悩んで、悩んで、苦悩の末、俺はタクシーに乗ることにした。
本が雨に濡れないよう細心の注意を払いながら、俺はタクシーを捕まえる。
タクシーのガラスを雨粒が流れていく様子を見ながら、本のためと自分に言い聞かせた。歩けば漫画一冊分のお金は浮くが、そのために購入した本を濡らしてしまっては本末転倒としか言えない。バスとは違い、タクシーは家の前まで行けるので、本を濡らす可能性はほぼないはずだ。
窓の外、点滅する信号に急かされ、傘を差しながら横断歩道を渡る人を見る。あれでは傘の意味がないのではないか。そう思うほど、彼らは雨に打たれていた。
やはりタクシーを選んで正解だったな。俺は過去の自分の選択は間違って無かったと安心する。
「頑張ってね」
思ってもいないのに、外を歩く人を応援し、俺は再びタクシーの進行方向を見た。
歩いても十数分の距離だ。車ならなおさら早く着くだろう。案の定外を眺めていれば、すぐに自宅についた。タクシーが自宅前で停止したのを確認し、俺は財布から小銭を取り出した。ちょうどあることに嬉しさを感じながらもお金を払う。
「足元気を付けてくださいね」
運転手の声とともにドアが開く。その言葉に従い、足元を見れば、激しい雨だというのに水たまりがない。なぜだと疑問が湧くが、すぐに答えが出た。
「ありがとうございます」
運転手の人が気遣ってくれたのか、水たまりのない場所で降ろしてくれたらしい。俺はそれに対する感謝も含め、お礼を言う。
雨に濡れないようにと大股、早歩きで、玄関の雨よけに入り、タクシーを見送る。あのタクシー運転手良い人だった。そう思っていると風向きが変わり、雨よけの下まで雨が入ってくる。このままでは、せっかくタクシーに乗ったのに本が濡れてしまう。急いで入ろうと鍵を取り出したとき、向かいの公園に人影が見えた。
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