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吉備野  作者: SHOW。
105/106

またいつもの朝になる

 水無月の煌々とした冷水が、混濁していた身体を奮い立たせる。気絶した後から吉備野は、自身がいつまで熟睡していたが不明だった。けれど丁度起床した時間が午前中という事が、窓越しの照射とアナログ時計を眺めておおよその時間が判かる。


 寝起きの身支度を整えている時。そういえば学校は、と吉備野は一瞬過り呟く。すると即座に鵜久森から、今日は休日だと洗面台からリビングに向かう途中に教えられた。


 一先ずは安堵する。

 しかし。となると一つ、疑問に思う事がある。


「なんで鵜久森、制服着てるんだ?」

「ん? ああなんか、着替える機会が無くてね。誰かさんがまた自分の術式に呑まれそうになってるし」

「……やっぱり、あれも鵜久森か?」

「うん。まあ、乗っ取られなかっただけマシではあったけどね」

「……っ」


 訊ねても良いのかどうか、そもそも触れても良いのかどうかと吉備野は悩む。彼が創り出した心象風景は、鵜久森の幼少期の一幕を表したものだ。謂わば鵜久森の過去を、図らずも勝手に覗き見てしまった。


 吉備野の過去も映し出した事からお互いの呪力を共有していたせいだろうけど、これまでの迷惑が祟り過ぎて、謝ろうにも別の言葉を選べなくて困る。


「それにしても、私の子どもの頃なんて知らないはずなのに、上手く再現出来ていたね?」

「んっ、あっ、ああ……――」

「――ふふっ、気にしてたんだ? そんなに慌てなくても良いのに。一応私の中では想定内だから、何も気にする必要も無いし、問題もないよ」

「……うん」


 浮かない表情のまま吉備野は首肯する。鵜久森は先んじてリビングへと踏み込み、見逃してしまう。

 出逢ってから現在に至るまで、吉備野が知り得る限りでも、全部返し切れないくらい鵜久森に救われてきた。密かに根回しした事情も一つや二つではない事くらいは、基本術者に対し、いくら無知な吉備野でも分かる。


 どれだけの負担、どれだけの労力、どれだけの知恵を絞らせてしまったんだろうと逡巡とする。

 吉備野家による古の結界を破り、暗殺計画を阻止、実質他方との和解まで成立させたのに、なによりいつも助けてくれたのに、吉備野は何もしていない。


 きっと鵜久森が現れていなければ、こうして目醒めて今日という一日を迎えられなかった。そもそも家にも帰宅出来ていないだろう。しがない道中で野垂れ死んていたって、別段おかしくない。


「あのさ鵜――」

「――あっ、そうだ。吉備野の両親はお仕事、源さんは学校の院瀬見を含めたお友達とプール掃除、庵さんは加賀見と図書館で勉強会と伝えて欲しいって言われてたんだ」

「……ああ、みんなそれぞれで用事があったのか。てっきり俺だけ家族の外食とかに置いていかれたのかと思ってたわ……助かるよ」

「いえいえ。私は居候の身ですからね」


 戯けた口調で鵜久森が半回転しながら答える。

 当然なことをしただけと体裁で表してるようだ。


 鵜久森はその後、リビングテーブルの上の平皿にラップで包めて丁重に置かれてある、バターを塗りハムとレタスを挟んだ四角形のサンドウィッチを指し示す。

 これが吉備野の朝餉だと言いたいみたいだ。

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