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吉備野  作者: SHOW。
102/106

みんなの無事と帰路

 梅雨の夜風の冷ややかさを知らしめられる。大広間で遮断されていたせいで、日時の移り変わりに鈍感になっていたとすぐに気付かされた。讃州山家を後にして、山道を下る。

 術式で一足先に下山可能な者も居るけど、吉備野、鵜久森、井手原、瓜実、水戸部の五人は途中までは普通に下りる事を選択した。


 理由としては二つ。一つは呪力が磨耗していて、一定量の回復にまで努めないと全員を安全に運べないと鵜久森が述べた事。もう一つは、この讃州山を訪れている一人と一匹の術者を捜さないといけないからだ。


 しかし後者の方は、思いの外あっさりと同時に見つけ出す事が叶う。何故なら両者共々、鵜久森の転移術により移動していたからおおよその場所の目星が付き、お互いに位置も把握しており、先に合流を果す事に成功する。


 その一人が綾瀬で、もう一匹が柴犬のポチだ。

 双方とも毛先に沢山の小枝が絡んでいる。


「おい鵜久森っ! お前自分が何をしたか分かってるんだろうなっ」

「ああ、ごめんなさい? どうしても吉備野と二人になりたくて、綾瀬さんが邪魔だったので?」

「どうして疑問形なんだっ! いきなり人を吹き飛ばすやつがあるか! どれだけお前達を援護してきたと思ってる――」

「――ああっ、ポチーまた逢えたねー」


 綾瀬の鵜久森に対する怒号に目もくれず、挙句には遮り、まだ体力が有り余っている瓜実は颯爽とポチを迎え抱き上げる。そんな瓜実のお迎えに応えるように、ポチは一回だけ優しく吠える。頭から首筋辺りまで撫でられると心地良さそうに目元を垂らして、もっとして欲しいとおねだりをする。


 水戸部も再開早々に癇癪を起こす綾瀬を面倒くさがるように避け、すれ違い様に瓜実が抱くポチの腹部を撫でると、そそくさと山道を歩いて行く。


「……アイツらには犬しか見えてないのか?」

「いえ。一応は綾瀬さんが死んでいないか気にしてましたよ? でも気軽に触れ易いのはポチの方ですから、綾瀬さんが抱き上げられたり、お腹を摩られるのは嫌でしょ?」

「馬鹿か、当たり前だっ!」


 綾瀬の不満気な発言を、井手原が訂正する。

 そうしている間に鵜久森は最後尾を歩いていた吉備野の元へと踵を返し訊ねる。


「さっきから歩くのも辛そうだけど、大丈夫そう?」

「ああ……ずっと足が震えてる、やばいかも」


 吉備野と鵜久森は一緒に歩みを進める事が多かったせいか、明らかに遅れを取る吉備野に逸早く気付く。


「そっか……うーん、少し早いかもだけど綾瀬さんもポチも見つかったし、水戸部は自分独りでも帰れるから……この辺で私の術式を使おうと思う。安定感には欠けるけどいいかな?」

「鵜久森に、任せるよ」

「うん、分かった。吉備野が立っているのも辛いなら座っても寝転んでいても問題ないからね?」

「……悪い。そうさせて、貰う……」


 吉備野は鵜久森に断りを入れ、疲労の叫びと共に膝から崩れ落ちるように四つん這いになる。すると何故か鵜久森も、吉備野と目線が同じになるようにしゃがみ、お互いが真夜の最中に向き合う。


「……どうした?」

「ん? まだ痺れも残ってるのかなって?」

「何十分経ったと思ってんだ。そっちは……いや、もうどれでこうなってんのか、分かんなくなってるわ」

「……うん、今日は大変だったもんね」


 吉備野の吐露に鵜久森は親身になって頷く。

 こうしている間に、鵜久森は術式を展開している。

 勿論綾瀬も井手原もこの行動に気付いたが、項垂れる二人を静観する事にしていた。


「もしかして、いつもこんななのか?」

「ううん、今日のは特別。多分だけど暫くは平和な日々が続くはずだよ」

「……なんか、鵜久森が言うと不安になるな」

「まあ絶対じゃないから、ちょっと反論し難いね」

「……でも、側に居てくれると安心してる俺が居るかな……色々と凄く、鵜久森に助けられたからかな?」


 吉備野はそう言うと、緩やかに意識が朦朧になっていくのが感覚的に判る。これはどちらかというと睡眠に近い衝動だとも知覚出来る。だけどそのせいで鵜久森の返事が聴けず仕舞いになり、術式で飛ばされた事実にも気付けず、疲労困憊の質の悪い睡魔に吸い寄せられてしまう。

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