金のリンゴを持ってきなさい②
スラッと伸びた長い脚、エメラルドの瞳に整った顔は全ての女性を虜にしてしまうだろう。その上、誰にでも分け隔てなく接する優しい性格となれば申し分ない。
そう、それがこの国の王であり、たった今、声を発した人物。
『何を、、食べているのかな?』
召し使いは慌てて後ろを振り返る。なぜ今ここに現れたんだ!!くそっ!!顔色を悪くした。
「ごきげんよう。珍しいですわね、こんな時間に王様がわたくしの部屋にいらっしゃるなんて。これは金のリンゴよ、美しいでしょう?これからいただくところですの」
「へぇ、金の、、珍しい物があるんだね。僕もいただこうかな?」
「えっ、、い、いえ。このリンゴはわたくしがいただきますので。。そうですわ!先日わたくしが殿下の為に焼いたリンゴタルトを召し上がってくださいな。」
王妃が話している間も、話など聞こえていないかのように近寄り金のリンゴが入った皿を持ち上げ、床へと落とした。
カシャッン!!
「あぁ、すまない王妃。大事なリンゴを落としてしまった。金のリンゴはまた今度でもいいかな?それよりも君が作ってくれたという、タルトを一緒に食べよう。ね?」
王妃は驚きながらも、え、えぇ。構いませんわ。今準備致します、と立ち上がり侍女に指示をだす。
召使いはヒヤリとした空気を感じ少し目線を上げると、エメラルドの瞳がこちらを見ていた。
この王はこんな顔をする王だっただろうか、人をも殺めかねない今まで見たこともない顔に、恐怖のあまり動けなくなった。
「君があのリンゴを取ってきてくれたのかな?お疲れ様、大変だったでしょ。もう戻って構わない、部屋でゆっくり休むといいよ。」
『次はないよ』
……声が聞こえたが目線を上げる気力は残っていない。なんとか立ち上がり扉へと向かう無言のまま部屋を出ると、どっと汗が沸き上がる。逃げるようにその場を去った。