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おやすみ

作者: take

一日目

日記を書き始めた。

特別記録したい事柄は無いが一日を振り返る切欠になるだろう。

将来荷物を整理した時に見つけて「懐かしいなあ」なんて思えたら楽しい気がする。

まあそこまで続けられるかどうかって話はあるけども。

そこまで気にしても仕方がないので気楽にやっていこう。


二日目

平和な一日だった。

当たり前だが日常を揺るがすような事件など起こっていない。

あっても困るが。

家の周辺にはまだ自然が多く残っていて色々な動物を良く見つける。

特に兎が多く生息しているようで、今日一日だけでも何回も見かけた。

兎って鳴き声とか聞かない気がするけど仲間同士での意思疎通とかってどうしてるんだろうか。

気が向いたら調べてみようか。


三日目

季節に合わせてって訳でも無いけど、今日は餅を食べた。

偶に食べると中々美味しく感じて良い。

餅と言えば、これを喉に詰まらせて窒息する事案は後を絶たない。

寿命が長くてもそんな事になってしまったら残念な話だ。

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十六日目

やんごとなき身分のお姫様が法に触れて、その地位を追われたらしい。

罪状は不明。

我々のような下々の者には情報は入ってこない。

正直どうでも良い話だけど、周りの人々はあれこれ想像して盛り上がっている。

外部からの圧力だの権力者の陰謀だのと内容は様々。

良く分からないけど、こういうのって時間が経ったらまた戻ってくるものなのでは。


十七日目

追放されたお姫様の情報が日々入ってくる。

自分達で追放しておきながら、後の動向を追いかけるなんておかしな話。

何をしたかは知らないけどお姫様にも同情する。

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百日目

どこに行ってもお姫様の情報ばかりで辟易する。

この国は他にやることがないのかと思ったけど案外何もないかもしれない。

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四千百三十二日目

いつだったか追放されたお姫様が居たけど今度はその人を迎えに行くらしい。

自分達で追放しておきながら、わざわざ大行列で迎えに行くなんて上流階級のやることは

わからない。

しかも追放されたのはついこの間。

こんな短期間で連れ戻すってことは、最初から計画通りだったんだろう。

「十分に罰を受けました」と言う事実を作るためか。

やっぱりわからない。


四千百三十三日目

お姫様が帰ってきた。

追放された先では幸せに暮らしていたらしくて、泣いて縋る人々を振り切って連れ戻したらしい。

残酷な事をするものだな。

我々と違って彼等の寿命はとても短い。

悠久の内の十年と、百年の内の十年とでは時間の重さが随分と異なるだろうに。

あちらで付けられていた名前も奪われてしまったとか。

こちらは長すぎる寿命のせいで個の区別が曖昧で、個体に付けられる名前はない。

これで彼女はただのお姫様に戻ってしまった。

せめてあちらの関係者が死に絶えるまで待てばよかっただろう。

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一万三千五百九十一日目

摩訶不思議な事が起こった。

大通りを歩いていた一人が馬車に跳ねられて死亡した。

それ自体は珍しい話ではなく数十年に一度程度の頻度で起こっている。

しかしながら明らかに死亡した筈なのに、直後に目を覚まし起き上がっていた。

本人も状況が理解出来ていなかった。

我々は寿命が極めて長く不老とも言えるが、決して不死ではない。

何があったのか。

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一万八千九百八十一日目

以前に馬車に轢かれ死亡した者が蘇って以来、その現象は国中に広がった。。

死亡した筈の生物が直後に蘇る。

外傷、内傷、病気、自殺、他殺問わずありとあらゆる要因において見受けられている。

もはやこの国から死という概念は消えた。

国全体で総力を挙げて調査が行われている。

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一万九千二百七十二日目

件の現象について原因が判明した。

先日の追放された姫はあちらからの去り際、当時の王に我々の国の薬を土産として渡していた。

その薬は我々と同様の命を得る物であったが、王はその薬を服用する事なく自死した。

曰く、姫の居ない世界を生きる意味はない。

王の亡骸と薬は、その国の最も高い山に葬られたらしい。

姫を奪われた王の執念の為せる技なのか、本来ならば届く筈のない煙は不死の呪いへと姿を変えて我が国に届いた。

信じがたいがそういうことのようだ。

元々長命な我々が不死をも併せもってしまったが為に、世間は大いに乱れて争いは絶えない。

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四万二日目

不死同士が争っているので当たり前だが、争いは終わらない。

頑強な檻へ閉じ込めたとしてもやがては抜け出せる。

あらゆる娯楽は失われた。

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四十三万二千六百六日目

もはや争いすら起きる様子もなく人々は只生きている。

生きている筈なのに生気も感じられず亡者のように歩き続ける。

時折、立ち止まって座り込んでは動かなくなる。

かろうじて機能している機関からの情報によると、彼の国は船を使用して我らの国に来たらしいが、もはや人々の心には届かない。

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七百五十二万一日目

先日、夢を見る事なく眠り続ける薬が配られた。

周囲に動く影は無く、国中を探しても片手の指で足りるだろう。

この日記もここで終わるとする。

では、おやすみ。


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