特進クラス
メリーとアリスは食事の準備を終え、ルイに声を掛ける。
するといつの間にか正午を過ぎていることに驚いていた。
アリス「それでは頂きましょうか」
ルイ「ありがたく頂きますけど、その、この方が誰なのか教えてもらいたのですが」
アリス「そうでしたね。それではメリー、よろしいですか?」
メリー「ええ、大丈夫よ。それでは初めまして、ルイ・ゼノン君。私はこの学園でアリスの補佐をしているメリー・ケイズよ。アリスとは血は繋がっていないけど、姉妹の様なものね。ルイ君の事はさっきアリスから聞いたわ」
ルイ「そうですか、それなら僕の自己紹介はいらない様ですね。それにしてもどうしてケイズ先生がここで昼食を?教員室で食べないのですか?」
メリー「私もそうするつもりだったのだけどね、アリスがどうしてもって言うから仕方なく」
ルイ「分かりますよ。アリスさんは人の都合考えてくれませんよね。昨日と今日だって無理やりここに連れてこられて」
メリー「あら、うちのアリスが迷惑かけた様でごめんなさいね?」
ルイ「いえ、ケイズ先生が悪いわけではないので大丈夫ですよ」
アリス「何か私が悪い様な感じになって、少し納得できないのですけど…」
ルイ「悪い様なじゃなくて悪いんですよ。全く、この魔導書がなければ僕はここにきイェないですからね」
アリス「そんなこと言うのなら、他に見せてあげようと思っていた魔導書、見せてあげませんよ?」
ルイ「ぐ、貴方は魔女ですか…」
アリス「あら?私は聖十聖騎士ですよ?」
ルイ「そう言う事を言ってるわけじゃないんですけど」
アリスが自分以外に心を開きかけている。メリーはその事に少なからず驚いていた。
アリスは愛想は良い。ただそれは上辺だけの装いであって本心は別だ。
メリーは最初からアリスの本心に気づいていた。だから最初はあまり関わろうとしなかった。
しかしある出来事をきっかけに二人は親しくなるのだが、それはまた別の話だ。
アリス「メリー!どう思いますか?私は何も悪くないですよね?むしろ魔導書を見せてあげているのですから」
ルイ「それは結果論です!その過程がおかしいと言っているんですよ!確かに魔導書の事はありがたいですけど…」
メリー「まぁアリス、ルイ君が大好きな事は分かったから、少しはルイ君の事も考えてあげなさいね?」
アリス「メリーまで、良いですよ…、私は結局自分勝手ですよ…」
メリー「あら、落ち込んじゃいましたね?どうしましょうかルイ君」
ルイ「そのうち機嫌も直るでしょう。それよりもケイズ先生の紹介は本当にあれだけですか?」
メリー「あよく分かったわね。それも紹介しなければね。ほらアリス、これは貴方が言う事よ?」
アリス「分かったわよ。さて、ルイ君。貴方は現在この魔法学院で最も優秀であると判断されたAクラスに在籍しています。しかし、あなたの技量、知識、発想、応用力、そして恐らくその他の要素もこの学園ではAクラス以上の逸材だと私は判断しました」
さっきまで落ち込んでいアリスとは打って変わり、今は魔法学院の理事長として話をしていた。
その姿は凛としており、聞いているだけでもどこか吸い込まれる様な魅力を、ルイは感じていた。
アリス「そこで現時点を持って、魔法学院理事長、聖十聖騎士第三部隊隊長アリス・リア・シーナの権限により、ルイ・ゼノン君。あなたを特進クラスへの昇格を認めます」
アリスが何を言っているのか全く理解できなかった。
アリスが聖十聖騎士第三部隊の体調を務めているのも知っている。それはあまりにも有名な事だからだ。
しかしルイが何を理解できていなかと言うと、それはアリスの言った特進クラスという単語だ。
ルイ「アリスさん、この学院にはAクラスまでしか無かったはずです。説明をして貰えると助かるのですが」
アリス「そうですね。まぁ私も昨日決めたの大雑把な事しか決めてないですが」
ルイ「それって大丈夫なんですか?」
アリス「はい、私の権力ならいくらでも」
ルイ「ケイズ先生、これって良いんですか?」
メリー「まぁ、良くはないわね。でもこれがアリスだから」
アリス「まぁそれはさて置き」
ルイ(置いといて良いのか?)
アリス「このクラスは察しての通り、Aクラスより上のクラスです。そして担任は私、副担任はメリーにしてもらいます。教室の空きはないのでここの部屋を使います。授業内容は決めていません。座学で私がルイ君に教えてあげれる様なものもある様に思えないので」
ルイ「それでは僕は何をすれば?まさか何もしないなんて言うわけでも無いとは思いますけど」
アリス「もちろんちゃんとする事は考えています。まず座学は私が持ってきた魔導書を読んでください」
ルイ「……」
アリス「……」
ルイ「…え、それだけ?」
メリー「ルイ君はそう思うかもしれませんが、魔導書を読んでいた時の集中力ははっきり言ってとてつも無いものでした。それに本体魔導書を理解すると言うのは優秀なんて言葉で片付けれるものではありません」
アリス「メリーの言う通りにです。先程のペースで行くとあなたは3ヶ月あればさっきの魔導書の8割は理解できるでしょう」
ルイ「そうですね。もう少しペースを上げれれば良いのですが流石魔導書ですね。難しくて思う様に進めないです」
アリス「これ以上あげられては困るのですが…」
魔導書。これは前にも話した通り第四から第八までは聖遺物と言われる。
そしてその内容は、1ページだけでも魔法学を約五年近く進歩させれると言われるほど濃い事が綴られていた。
それれは、1ページ理解するのに魔法学に特化した優秀な魔導師10人が、半年かかってようやく解読が終わると言う事なのだ。
アリス「本来、この第五魔導書を解読するのに最低でも十年はかかると言われています。解読が進めば進みほど、後の解読の時間はかなり短縮はできると言われてますが、それでも1冊に十年はかかるのですよ?それをあなたは約3ヶ月、はっきり言って意味がわかりません」
ルイ「あたなに言われては終わりですね」
メリー「いえ、今回はアリスの言う通りよ。あなた一体何者なの?アリスから聞いた話だと、ルイ君がしている事は偉業なんて言葉じゃ足りないわ」
ルイ「何者何も、僕はただの魔盲ですよ」
アリス「まぁ、ルイ君の事で驚いていてはキリがないものね。それで魔法戦の実戦は私とメリーが相手をします。しかしこれもあなたに教えれることがあるのか分からないですが、場数が違えばそれだけ有利になります。どうですか?この件は強制ではありませんので断ることもできますが」
ルイは深く考える。自分のメリット、デメリットを天秤に掛ける。
慎重に、思考を巡らせてどちらが自分の利益になるのか。
ルイ(慎重に…冷静に…そうだ冷静に…)
はっきり言おう、ルイは全く冷静では無かった。それはアリスが最初に言った言葉が原因だ。
【まず座学は私が持ってきた魔導書を読んでください】
この一言でルイの頭の中が魔導書で埋め尽くされていた。
通常なら一生読むことが出来ない魔導書をこれからも読めると言うのだ。
こんなに夢の詰まった話はない。
アリス「どうしたのかしら?そんなに考え込む様な事ではないと思うのですけど」
ルイ「……本当にいい性格してますね」
メリー「アリスは昔かた欲しいものは何が何でも手に入れるタチよ?」
ルイ「それはもう少し早く言って欲しかったですね」
アリスの性格を聞いてルイは納得するしかなかった。
今までのアリスの行動を思い返してみれば心当たりしかないのだから。
ルイ「分かりました。その話、受けます。魔導書を手放すわけにもいきませんからね」
アリス「それは良かったわ。それではメリー、この後の手続きは任せてもいいですか?」
メリー「ええ、一週間もあれば大体は終わると思うわ」
アリス「ありがとう」
こうして魔法学院に、担任は理事長、副担任は理事長補佐、ただ一人の生徒は魔盲と言う前代未聞の特進クラスが誕生した。