出会い
(おい、あれって噂の魔盲じゃね?)
(あいつが?何でこの学院に入れてるんだ?)
(さぁ?金で入ったって言われてるぞ)
(マジで?そんなのあのアリス様が許すのか?)
(許さないだろうなぁ。でもそれ以外あるのか?)
(んん、それじゃあの噂はどうなんだ?)
『魔法が使えるって』
ルイ・ゼノンは魔盲である。
魔力を持たず、魔法を使えず、魔力機関という物が備わっていない。世間では欠陥品とすら呼ばれる始末。
ルイは親というモノを知らない。貴族であると言う話は聞いてるが顔を覚えていない。最後に会ったのはルイが2歳の時らしい。
それ以来ルイの世話は使用人に任せて一切顔を出さない。
ルイは愛というモノを知らない。家族も友人も使用人さえもルイをゴミを見るような目で見る。唯一、顔を知っている血縁の伯父でさえも自分を人として見てくれないのだ。
ルイは褒められた事がない。魔盲である自分がルーンを習得した時も、そのルーンを使って魔法に似た現象を起こしたその時でさえ。まるでそれを無かった事のようにされた。
ルイ(また僕の事を言ってる人が沢山いるなぁ…。やっぱりシャードーボールとは言え、初級魔法を詠唱ありきで発動させたから??でもルーンを使っての魔法行使自体、世界では僕にしか出来ない事。んー、良くない事を言われてるのは分かるけど何を言われてるのか分からないのが気になるなぁ)
そしてルイはいつも通り、自分に向けられたその言葉が当たり前かのように、それが自分の存在意義かのように今日も生活していた。
教師 「はぁーい皆、静かにして。これから授業を始めるよ。とは言っても今日はガイダンスみたいなモノだけどな。それじゃ始めて行くからな〜」
生徒 「なぁ先生、何でここに魔盲なんてゴミクズがいるんですかぁ?」
生徒 「そうですよー。こんな奴と同じ空気を吸ってたら俺達も魔盲になっちますよー」
そこから笑いが起きる。そんな笑い者にされている僕本人はルーンの研究の為に本を読んでいる。周りの笑い声はまぁ、気にならないと言えば気にならない。僕にとっては鳥のさえずり、風の音と何ら変わりない事だ。
生徒 「おいおい、話聞いてんのかよ。こんな本なんて読んでないで何とか言ったらどうだよ」
ルイ 「あ、返してください。その本結構高いんですよ」
生徒 「へぇ…なら、こうしてやるよ」
そうすると本を取り上げたクラスメイトは火属性の魔法を使って本を燃やす。あぁ〜…僕の三ヶ月分の生活費と同じなのに…。
教師 「おーい、俺の許可無しにあまり魔法は使うなよー。それとそこの魔盲、俺の話を聞かないで本なんて読んでるんじゃねえ」
ルイ 「はい。すみませんでした」
教師 「ったく魔盲風情が…。それじゃ始めるぞ〜」
全てのガイダンスが終わり、教室には誰もいなく、僕だけが1人で独占していた。そして外に目を向けると日は沈み始めて空は綺麗なオレンジ色に染っていた。
僕はこの時間がとても好きだ。どこか切なく悲しいこの時間が。僕の虚しい人生が少し薄れる感じがする。
とは言ってももう17時半、そろそろ家に帰らなければ行けないので読んでいた本を片ずける。
そんな時、外からカツン、カツンと誰かが近づいて来る音が聞こえる。
この気配は?只者の気配ではない。かなり手練の人だ。一定感覚で鳴り響く足音、そしてその音の大きさにばらつきが無い。流石は世界最高峰の魔法学院、教師のレベルがとても高い。
ルイ 「さて、鉢合わせにならないように帰りますか」
「あら、そんな釣れないこと言わないでくれますか?」
ルイ 「っ!?!?」
突然後ろから聞こえた声。急いで距離を取りその人の顔を確信した。
ルイ 「り、理事長?なんでこんな所に…ていうかどうやって僕の背後に…」
アリス 「なんでと言われましても、貴方に会いに来たとしか。それと背後を取れたのは転移魔法ですよ?」
サラリと爆弾発言を…、転移魔法なんて普通発動に数分はかかる大魔法なのですが…。
ルイ 「僕に会いに…ですか。まさか登校初日から退学宣言をしに来たとは言いませんよね?」
アリス 「まさか、そんな酷い事はしませんよ。それに貴方をこの学院に入れたはのは他でもない私です。その貴方を退学にさせるのであればまずは私を完全に納得させなければいけませんからね」
ルイ 「それじゃ何をしに来たんですか?」
アリス 「だから貴方に会いにと…」
ルイ 「え、それだけ?」
アリス「はい、それだけです」
ルイ 「そ、そうですか…それでは僕はもう帰ります」
アリス 「そうですか。分かりました。ですが明日のお昼、理事長室に来てください。分かりましたね?」
ルイ 「………そういう事ですか。分かりました。ただし、僕に答えられる事があるか無いかは別の話ですけどね」
アリス 「そうですか。それでは楽しみにしていますね」
これが僕と神童アリスの出会い。物語の1ページ目の始まりだった