入学
統一歴以前、即ち神代歴2983年に邪神戦争が始まった。それから世界は約100年の間最悪とも言える時代を生き抜き邪神を封印した。それから人類と魔族は新しい歴史を共に歩む為に『平和条約』を結ぶ。そして人間界と魔界の友好関係の証として暦を新しく『統一歴』とした。そして人類、魔族は200年に一回封印の補強をしてきたが39年前に邪神の復活が予期された。
「そしてその邪神の復活に備えてこの魔法学院に入学してきてくれた皆様には心から感謝しています。私もこの学院の理事長としても聖十聖騎士、第三部隊の隊長としても皆様には期待しています。ですが16才と言う若さでその全てを国に捧げろとは言いません。ただ、皆様の力の一つ一つをこの国、ひいてはこの世界を救う力の源である事を忘れずにこの4年間を有意義に過ごして下さい。」
そう言うと女性は千人はいるであろう入学生の前にある教壇から降りる。その女性はとても若く、27歳である。
栗色の柔らかい雰囲気を纏った長い髪を揺らし、その青い瞳は不純物を一切含まない絵に描いたような水の様な色をしている。一言で言うと容姿端麗である。スタイルも抜群、胸も十分にありくびれもくっきりしている。
そんな彼女に新入生の男子は愚か、女子でさえ見惚れてしまう程である。千人いれば千人が見惚れるほどの美貌。
しかし誰もが彼女に見惚れる中でただ一人、彼女を見ていない者がいた。
2ヶ月前の魔法学院入学実技試験。この日は世界中から人類と魔族が学園に集まる。世界最高峰の魔法学院であるが故に倍率は恐ろしく高い。しかし入学できるのは才能がある者だけではない。逆に言うと才能があると『言われる者』でも落とされる事がある学院であるのだ。入学基準を決めるのは理事長の2つの魔眼『導きの瞳』と『千里眼』による選別で決まる。
『導きの瞳』は見た者の潜在能力を見極める目である。語弊を恐れないで言うのであれば「才能を見抜く目』である。
『千里眼』は本来は遠くの景色、風景など本来では見ない場所を見通せる目であるがこの者の千里眼は違う。この者が見るものは人の未来である。断片的にしか見えないがそれでも導きの瞳と合わせれば驚異的な精度を発揮する。
試験官「今から試験を開始します。今回は筆記試験の時は違い当学院の理事長であるアリス・リア・シーナ様が御見学されます。皆さん、気を引き締めて試験に臨んで下さい。理事長様からも一言お願います。」
アリス「はい、それでは一言。皆様、ご紹介にお預かりしましたアリス・リア・シーナです。私のことはお気になさらず肩の力を抜いて試験に臨んで下さい。とは言ってもそう簡単にはできない方もいますでしょう。なのでこれから10分の時間を空けて試験を行います。こちらで用意いたしました紅茶やコーヒーななどをお召し上がり下さい。リラックス効果のある物を用意したので皆様のお役に立てると思います。それでは皆様、頑張って下さいね」
そう言うとアリスは綺麗に一礼をしてからその場を後にした。彼女なりの気遣いで試験を受けにきた生徒達の目に入らないようにと考えたのだろう。
そして紅茶やコーヒを飲み始めた生徒達はあまりの美味しさに声を出していた。さっきまで『あの』理事長がいた事に緊張していたがその緊張も解れつつあった。
そして10分後、全員の緊張が解れた所で試験が開始された。
試験の方法は簡単、20メートル先にある半径50cmの的に初級魔法を一発放つと言う物だ。
流石世界でも最高峰と言われる学院に入ろうとする者だけあって発動スピード、魔力コントロール、魔法の威力など、どれを取っても実力は確かなのが分かる。今年はかなり期待できるとアリスが思っていると30cmも程の杖を持った一人の少年がその目に止まった。
試験官「それでは最後!ルイ・ゼノン君!」
ルイ「はい」
試験官「ゼノン君、その杖は一体?」
ルイ「僕は魔盲なので、この杖を使わせて頂きます。いけなかったでしょうか?」
魔盲、その言葉を発した途端周りの空気が凍ったように錯覚した。アリスもその言葉には驚きを隠し切れなかった。
試験官「そ、そうですか。分かりました。使用を許可します」
ルイ「ありがとうございます」
そう言うとルイは目を閉じ、杖の先端を的の方に向けた。そうするとルイの周りに風が起こる。そして目を開けて魔法の詠唱を始めた
ルイ「我、原初の理に従いこの世に光を照らす者なり。その光は希望を生み出し、影を生み落とした。そして我はその影を背負いし者なり」
ルイが詠唱を始めると周りの生徒がクスクスと笑い始める。ここまで詠唱をする者はいなかった。それは無詠唱と言う技術だがそれはそんなに珍しい技術でも無い。寧ろ当たり前にできて当然の技術である。詠唱とは魔法のイメージができていない初心者が行うものであり、16才になると詠唱を使う者はいない。
そう、ルイは馬鹿にされているのである。詠唱するのは5才などの子供のみである。なのに16才のルイが詠唱しているのだ。笑われるのは当然である。しかしそんな中でもルイは詠唱を終わらせ魔法を放つ。
『シャドーボール』
その魔法が放たれ的に命中、その瞬間に突然笑い声が消えた。そもそも笑い声が消えたのが放った瞬間なのか的に命中した瞬間なのかも定かでは無い。何故なら放たれた初級魔法「シャードーボール」は通常じゃあり得ないスピードで放たれた。そして1秒も経たない内に的に中する。
ここも通常では爆発、拡散などして的に傷をつける程度の威力しか無い。しかしルイの放ったシャドーボールは的を綺麗に貫通し、その後ろにある暑さ10cmはある壁も貫通した。
その光景を目にした生徒、試験官、そしてアリスはあり得ないと言う顔していた。初級魔法でここまでの速さとスピードを16才の少年が出すなんてあり得ない。
ルイ「以上です。もういいですか?」
試験官「あ、はい。もう大丈夫ですよ」
ルイは他の生徒から不快な視線を受けながら元にいた位置に戻った。
そしてアリスはそんなルイに興味を持ち、ルイの書類を探す為に書斎に戻って行った。
そしてその1ヶ月後、ルイの家に魔法学院の入学合格の通知が届いた