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いつか優しい未来  作者: 名月らん
パンドラの箱
8/20

光と影

麻衣子と実加が部屋に帰った頃、薄暗い廊下を携帯の灯りを頼りに歩く人影があった。


あの部屋は何処だったんだろう


それは広人の影だった。


彼ならみんなが俺を見て変な顔をする理由を教えてくれる


広人は暗闇の中をケイルを探してさまよっていた。

ふと見ると明らかに他とは違う豪華な取手と装飾が施された扉が見えた。


こんな片隅になんて豪華な扉なんだ


壁に掘られた装飾品にも見えるその扉を開け、広人はそっと入って行った。

中に誰もいないようで、奥の方に美しいドレープの紺色に金糸で飾ってあるカーテンが見えた。

広人はそっと近よりすぐ側にある金色の房のついた紐を引いてみた。

するとスルスルとカーテンが開き肖像画が現れた。


すごい


広人は息を飲んだ。目の前には畳一畳以上もある肖像画が2枚。


生き生きと描かれた肖像画な1枚は穏やかな表情の夫婦らしき中年の2人、もう1枚は結とおそらくケイルであろう少年の姿があった。

広人は食い入るようにその絵画に見入っていた。


すごい…こんなに大きな画があるなんて

なんて綺麗なんだ

まるで生きているみたいだ


広人は美しい色彩に見とれ感動していた。

隅から隅まで眺めていたとき右下に文字が書かれている事に気付いた。

広人は近寄りその文字を手でなぞり次の瞬間愕然とした。


60年以上前の日付じゃないか

まさかこの絵画は60年以上も前に描かれたって言うのか


広人は信じられなかった。何故なら、この絵に描かれている結が今と変わらない姿だったからだ。


どう見たって今と変わらない

あり得ない信じられない

でももしも本当に60年以上前に描かれたんだとしたら


広人は現実にあり得ないことが目の前で起きている事に混乱していた。


たしかに昔話で人魚の肉を食べたり胎児を食べて長生きをしたと何処かのテレビ番組で見たり聞いたことがある…

まさか2人も


広人は目を見開き肖像画をもう一度見上げ


2人はいったい何者なんだ

ここには何があるんだ


広人はそっとカーテンをしめ部屋を出ていった。

後には青白い光が部屋を照らすだけだった。


翌朝早く2人は奈月に夜の事を話した。


「だから実加が迷子になって本当に大変だったんだよ」


と麻衣子が言うと不思議そうに奈月が


え?実加さんが迷子?


と不思議そうに首をかしげると実加がすかさず


「それは麻衣子です」


とキッパリ言った。麻衣子はバツが悪そうにてれ笑いをした。


「実加さんが迷子ってのはありえないね。それより大人しそうに見えた麻衣子さんが実はおっちょこちょいだったとは」


奈月が笑いながら言うと、麻衣子は少しムッとしたあと話を変えようと


「それより私が実加を探して迷っていたら誰かに引き留められたの」


麻衣子の言葉にピクリとした実加が平静を装い


「私も誰かの影を追っていたら麻衣子を見つけられたのよ」


と言った。


「それって広人さんじゃないの?」


と奈月が言ったが麻衣子は首を降り


「ちがう広人さんの声じゃない広人さんの声ならわかるしあの香り…それにあんなに急にいなくなるなんて無理だよ」


と言った。実加は何かの気配に気付いたように窓の外を見ていた。


「きっとまだ知らない誰かいるのね」


麻衣子が言うと実加がそうねと呟いた。

ふと麻衣子が思い付いたように


「もしかしたらあの人おじさんの事を知ってるかもしれない。何とかしてもう一度会いたい」


その麻衣子の言葉に実加が


「あまり無茶はしないほうがいいわ」


と、しり込みするような実加の言葉に麻衣子は


「そんなの無理…手掛かりがそこにあるのに諦めるなんて出来ない。お願いあの人を探すの手伝って」


麻衣子が言うと奈月も


「実加さんたら心配しすぎだって私もついていくから大丈夫」


と言った。引き留めるのは無理だと分かった実加が


「わかった私が探すから」


と言うと何を言うんだという顔をした麻衣子が


「私も探すに決まってるでしょ。これは私の問題なんだから」


そう言われて何も言えなくなった実加が


「分かった、でも本当に無茶な事だけはしないでお願い」


と言うと麻衣子は分かったと言い頷いた。そして3人は朝食をとりに部屋を出た。

3人が朝食をとる部屋にはいると少し顔色の悪い結が広人と共に待っていた。


「おはよう皆さん」


結の挨拶に3人はおはようございますと言い席についた。

それを確認したあと結は先程まで広人としていた話の続きを始めた。


「その食材の調達に料理長達と田所が村に行くんだけれど、広人さん本当に手伝ってくださるの」


結によると、今日は1ヶ月分の食材やら必需品を買い出しに行く日なのだ。

そして広人に風邪で休んだ手伝いの者の代わりに料理長達と一緒に村に買い出しに行ってもらいたいと頼んでいた。


「はい手伝いますよ。それで何時から行くんですか?」


と広人が聞くとばあやが


「30分後に玄関においでください」


と言った。


「わかりました、じゃあ用意してきます」


広人は部屋へ去っていった。そして残った3人に結が


「皆さんの昼食の用意はしてあるらしいから、ばあやに聞いて皆さんでお願いするわ」


3人が頷くと、今日の結は少し疲れているらしく


「ごめんなさい私はこれで失礼するわ皆さんゆっくりしてね」


と言い部屋に去っていった。結の具合の悪さに気付いていた実加がばあやに


「結さん顔色が悪いようでしたけど大丈夫ですか」


と聞くとばあやは


「時折、体調が悪くなるのです。いつもの事ですので心配なさらないでください、すぐに良くなります」


と言い部屋を出ていった。

食後のデザートを嬉しそうに食べ終わった奈月が


「じゃあ私達もそろそろ部屋に行く?」


と言い3人は席を立ち部屋に向かった。

その3人の後ろをついていく影があった。

部屋に戻った3人は暖炉のそばのソファーに腰掛けた。そして奈月が


「っていう事は今日はこの家には私達と結さんとばあやさんの5人だけなんだよね」


と言うと麻衣子が


「もう1人いる」


と言った。


「そっかそうだったよねもう一人」


奈月がいつになく真剣な顔をして言うと突然麻衣子が


「そうよ、こんなチャンスって滅多にないわ。私今からもう一度城の中を探ってくる。その人の事も探すわ」


と言うと実加が焦って言った。


「麻衣子待って」


そんな実加に


「大丈夫、夜中じゃないんだから、それに明るいうちから探せるなんてもう無いかもしれないんだよ」


「そうだけど」


「でしょ、奈月さんも手伝ってもらえる?手分けするのもいいと思うから 」


と麻衣子が言うと


「任せて、私ね昨日地下があるって知ったんだ」


奈月は昨日夕食をとったあとだというのにお腹がすき、調理場に向かっていたときにばあやを見かけた。

ばあやが壁の何かをさわると今まで壁だと思っていたものが扉のように開き、ばあやの姿が消えていった。

徐々に閉まりだした壁を慌てて奈月が除き混むと階段らしきものが奥に続いていた。

本当に偶然に凄いものを見たという奈月に地下があると言うことに納得した麻衣子と実加。麻衣子が


「わかった2人は地下を、私は隠し部屋を探ってみる」


隠し部屋?


奈月が隠し部屋なんてあったんだと言うと麻衣子は慌てて


「ほらお城とかって地下と隠し部屋はセットのようなものじゃない」


と誤魔化すと、奈月はどこに納得したのか


「隠し部屋よろしく」


と言った。麻衣子はほっとして


「本当に2人と一緒でよかったありがとう」


と微笑み言った。

その会話を扉の外で聞いていた影がいつの間にか消えていた。


広人はコートを着ながら村で何か情報をつかめないかと考え携帯をポケットに突っ込み部屋を出た。

玄関につくとすでに田所が待っていた。

田所は広人に車に乗るように言った。

スタッドレスタイヤにチェーンの巻かれた高級ミニバンに運転手と田所、料理長と2人の調理師と一緒に広人は乗り込んだ。


真っ白な雪のなかを2時間ほど下っていくと広人がはじめに通った村についた。


広人は車からおり料理長らが品物を選んでいる間に建物の影に隠れ携帯の電源を入れた。


ここは圏外じゃないはずだ


城の中とは違い電波状況は良好だった。広人は急いで電話をかけ繋がると大きな声が


「お前、何処にいんだよ!叔母さんが心配して何回も俺んとこに電話してきたぞ!!」


相手は従兄弟の巧馬だった。


しまったと広人は思った。いつもは旅に出ても1週間に一回は連絡をしていたが、今回はなかなか目的地が見つからず、タイミングも悪く1ヶ月以上連絡をしていなかったのだ。


「悪い圏外で…そうだ巧馬お前年上の彼女とはうまくいってるのか?」


と広人が言うと


「うるせーうまく行ってるよ。てか何でお前いつも俺んとこに電話かけてくんだよ、まあいつもの事だからって叔母さんは分かってるけど、今度の所って地図に載ってないんだろ心配してたんだぞ直接電話しろよ」


いつもの巧馬の話っぷりにほっとしたが耳が痛かった。


「そのうちな、とりあえず無事でいるから今のところ大丈夫だって伝えてくれ」


そう広人が言うと巧馬が


「広人お前まさか変な事に巻き込まれてないよな」


と聞いた。広人は慌てて


「大丈夫心配すんな、ちゃんと帰るから」


と言うと巧馬はため息をつき


「わかった、いいかヤバくなったらサッさと逃げろよ。無理するなよ待ってるからな」


「ああ、分かってるじゃあな」


広人はフッと笑い電源を切った。見上げるとハラハラと雪が降りだした。


広人は買い出しの荷物を手際よく車に積み込み近くの食堂で昼食を済ませた。

まだ少し時間があると言われた広人は1人で村の中を見て歩くことにした。


初めてここに来たときは誰もが幽霊でも見たような異様な目で広人を見ていたのに、今日の村人達は広人が昔からここに住んでいたかのように、にこやかに親しげに話しかけてくる。


「逆に気持ち悪いな」


広人は村人達の態度の変わりように不気味さを感じていた。


だが1人だけ前と同じように訝しげに広人を見ている青年がいた。

それに気付いた広人は青年に近寄り話しかけた。


「君はみんなと違うんだね前と同じ目で俺を見てる」


その青年はだまって広人を睨み付けた。広人はその青年のあまりの形相に驚いていたが思いきって


「なんで村の皆は突然俺を住人扱いしてくれるんだ、初めは幽霊でも見たような異様な顔で見ていたのに逆に気味が悪くて」


一瞬動揺したように見えたが青年は重い口を開いて言った。


「そうする事に決まったからそれけだ」


と言い去ろうとして青年は立ち止まり


「とっとと出ていけ」


そう言い捨てて青年は去っていった。

何を隠しているんだ?


広人は物陰に隠れ地図に載っていないこの村と平岩家を携帯で検索した。平岩家は情報があるのに村の情報がない。


もしかしたら名前が違うのか


広人は平岩家の住所にのせられている村の名前と思い付く限りのキーワード、平岩家、城、不気味、歳をとらない人、バイト、山奥、名前のない村、地図にない村、〇〇県の山奥、異世界…他にも思い付くもので検索をしてみた。


山奥の辺鄙な村なのに村人達はみな満ち足りているように見える。この村はただの山奥の村なんかじゃない。


「平岩家が関係してるはずだ」


詳しい情報はなかなか見つからない…そんな時ある過疎ブログを見つけた。

そこには平岩家が政治家だけではなく大手企業の会長一族である事が書かれていた。

しかも平岩家が力を持つようになった時期は約80年前からで、その頃から村が地図から消えた。全ては80年前から始まっていたと。

その文章を書いた者の名前を見ると一文字で光と書いてあった。


光って誰だ


広人は急いでさっきの青年を探した。

さっきの青年ならこの村で起こっている事やこの光という人の事を知っているかもしれないと思ったのだ。

広人は時間の許す限り青年を探し続けたが帰りの時間は迫り降り続く雪も強さを増し風も出て来はじめた。

広人はここまでかと諦め車へと帰っていった。

そんな広人を青年は物陰から見ていた。


光…あの人なら信用出来そうだ。お前が出来なかったこの村を闇から解放するという事を果たしてくれるかもしれない。

でもそれは何不自由のないこの村の生活を捨てるということ。

いままでの生活の全てを捨てる事が出来るのか…

幸せになれるのか…


「光…何が正しいんだろう俺には分からない」


青年は携帯を握りしめ空を見上げた。

そして雪の降るなか、静かにさっていった。


広人が車にもどると田所が待っていた。


「何処まで行っていらしたんですか帰りますよ」


田所にうながされ広人は急いで車に乗り込んだ。

帰り道、広人はこれまでで分かった事実のパズルを頭の中で組み立てていた。


80年前に結さん達の家族はこの村にやって来た。

そして何らかの理由でこの村に残ったのが結さんとケイルの2人だ。

いや残らされたのだろうか…何かに。

そしてその後に俺に似た人物がここに来た。その人物はどれほど強烈な印象を村人に残しこの村から去ったのだろうか。

何がその人物にあったのか…結さんが話してくれるとは思えない、でもケイル、君なら


突然、空が真っ暗になり風も強くなり雪で前が見えなくなってきた。


「急げ」


あせる田所を横目に広人は全てを真っ白に染める雪を先の見えない運命の様に感じ眺めていた。


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