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いつか優しい未来  作者: 名月らん
白昼夢
6/20

ケイル

翌朝、麻衣子と実加と奈月の3人は厨房へと向かった。

その途中で迎えに来たばあやと出くわした。


「どちらへ、いらっしゃるのですか?」


ばあやに聞かれて麻衣子が


「えっと配膳の手伝いや掃除とかをしようかと」


と言うと3人をゆっくりみて、ばあやが


「食事の心配はございません。皆さま方の主な仕事は結さまの話し相手と身の回りのお手伝いです。後は用事が出来しだい申し上げますのでお気になさらないように」


その言葉に奈月が


「でもそれじゃあ遊びに来てるみたいじゃないですか、結構高いバイト代もらってるのに」


と言うとばあやは驚き

今までの者達は喜んでいたのに変わっていると思いながら


「こんな山奥にわざわざ来ていただいているのですから、あれでも足りないくらいです」


そう言うと向きを変え


「すでに朝食の用事が出来ております皆様こちらへ」


と歩きだした。そんなばあやの後を3人は顔を見合わせながらついていった。

扉を開けると結と広人がいた。


「おはよう皆さん昨日はゆっくり休めたかしら」


結の言葉に実加が


「はい、ゆっくり休ませてもらいました」


「それはよかったわ」


すると奈月が


「あの結さん私達何をすればいいんですか?先にバイト代をもらってるのに何もしないなんて居心地が悪くって」


と困って言うと麻衣子も


「私も困ります言ってください」


と言うと、ばあやが結に耳打ちをした。


「本当に珍しい人達ね、今までの人達は喜んでいたのに…じゃあ今晩の夕食をお願いしようかしら何でも作っていいわよ」


と結が言うと


「うち特製の鍋なんかどうですか、闇鍋なんで何でも入ってるんです」


闇鍋…


皆が声を失っていると嬉しそうに奈月が闇鍋がなぜ特性料理になったのかと説明を始めたので長くなりそうだと気付いた広人が


「分かった俺も何か手伝うよって言っても運ぶくらいだけど」


と言うと


「本当ですか、コキ使いますからね覚悟してくださいよ」


と嬉しそうに奈月が答えた。

和やかな空気のなか朝食が終わり3人は部屋へと帰っていった。

結と2人になった広人は


「結さん、もしかしてこの家にはもう1人住んでいるんですか」


紅茶を飲んでいた結の手が止まった。


「なんの事かしら…」


明らかに動揺して答える結に


「見たんです、あれは誰ですか」


結が満面の、しかし張り付いたような笑顔で広人を見て言った。


「夢でも見たんじゃないかしら、でも居るならそのうち逢えるかも知れないわね」


結の言葉に広人は冷たさを感じた。


知られたくない事なのか

何を隠しているんだ


広人はそれ以上のことが聞けずに黙りこんだあと


「あの失礼していいですか」


と言い椅子から立ち上がり去ろうとしたとき


「生きていればね」


と結が呟いた。

広人は驚き振り返ったが、そこには穏やかな表情の結が紅茶を飲んでいるだけだった。


今のは聞き間違いか?

生きていれば…

結さんあなたは何なんだ

この家には何かあるんだ


広人は聞きたい思いを飲み込み部屋を後にした。


「思ったより侮れない男ね、本当に新一郎によく似てること」


と結は呟いた。

広人は自分の部屋に入ろうとしたが昨日の部屋と人物が気になり


結さんに聞けないなら本人に聞くまでだ


と振り返ると


「どちらへ、いらっしゃるのですか」


いつの間にか背後にばあやがいた。

うわぁと思わず広人は叫んだ。


「すみませんビックリして」


ばあやは無表情で広人の横を通りすぎた。


「待ってください」


広人は思わず呼び止めた。そして思いきって聞いてみた。


「あの人は誰ですか?」


広人の問いかけにばあやの顔が一瞬不気味に歪んだ。


「どなたの事でしょうか」


動揺するばあやに広人はもう1人の存在を確信した。


「あの人の事です…結さんが名前を教えてくれないので教えてもらえますか?」


ばあやの様子をじっと見つめ聞いた。

ばあやのグレーの瞳は落ち着きがなくなり小さくため息をつき言った。


「それを聞いてどうなさるんですか」


心の奥まで除き混むようなばあやの視線にも広人は目をそらさず


「はじめてここに来た日、あなたも俺をみて驚いていたでしょ」


広人は1人2人ではなく会う人会う人に驚かれていた。

ある人は懐かしそうに、ある人はいぶかしげに、ある人は悲しそうに涙を浮かべて見てくる。

こんなことは生まれてはじめてで、その全ての視線が気になっていた。

その答えはこの家の中にある、そして答えの鍵はあの人なのだと確信したのだ。


「俺は建築のこと以外は無頓着で他人なんかどうでもよかったんです。でも結さんとあの人、それに俺に似た人のことは知らなくちゃいけないそう思うんです」


広人の強い言葉にばあやは目を閉じ頷き


「分かりましたお教えしましょう、あの方は結さまの兄のケイルさまです」


と言った。


ケイル…結さんの兄…

やっぱり夢じゃなかった


ばあやは続けて


「ケイル様のことは結様の前ではおっしゃらないでください」


と言ったが広人の耳には届かず、興奮気味の広人は


「ケイルって不思議な名前だな日本人じゃないみたいだ。どういう事ですか」


とばあやに詰め寄った。ばあやは驚きながら


「それは本国の名前でございます。ケイル様には日本名はございませんので、それでは」


「本国の名前」


会釈をして歩き出したばあやを慌てて追いかけ、目の前に走り出た広人は


「もうひとつ聞きたい事があるんです」


ばあやは足を止め広人を見た。


「この前の政治家の平岩さんですよね、何しに来てたんですか」


ばあやは広人から目をそらし前を見据え


「これ以上の詮索は止めて今すぐこの城から出ていくこと、それがあなたの為です」


そう言い一瞬広人を鋭い視線で睨み付けた。

あまりの事に広人は立ち尽くした。

ばあやはすぐに無表情にもどり


「今すぐにですよ、分かりましたね」


と言いその場から去っていった。

広人は去っていくばあやを見つめながら言われた言葉の意味を考えていた。


詮索はするな…今すぐ出ていけ


ここに何があるんだ?そんなに必死に隠さなければならないほど重大な事なのか。

確かに今すぐこの家から立ち去ればいいんだろう、そうすれば色々と考えなくてすむと分かっている。

それでも出来ないのは多分…知りたいから。

結さんを時おり冷やかにする物が何なのか、ケイルはなぜ隠れなければいけないのか。

この美しい城に何が隠れているのか…


広人ははじめて感じる自分でもはっきりしない感情に霧のなかを歩いている様な気分だった。


この家はいったい何なんだろう何かが違うような時間の流れ方が違うような…深い闇の中のようで甘美な香りを放ち人を引き付けてやまない

俺もとらわれた1人だ


柔らかな光の差し込む窓から広人は空を見上げて呟やいた。

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