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いつか優しい未来  作者: 名月らん
白昼夢
5/20

青白い月明かり

今の声は…


広人は昼間、結に詮索はするなと言われたがどうしても気になり城の中を歩いていた。

誰かの叫び声、結の叫び声なのかそれとも他に誰かいるのか。

薄暗い城の中を慎重に広人は歩いていった。


窓から青白い光が差し込んでいる。ケイルはゆっくりとベットから抜け出しタオルで流れる汗を拭った。


また俺の寝ている隙に起こってしまった…


ケイルは悔しさのあまり壁を叩いた。その時扉が開き


今この辺りから音が…と広人が入ってきた。部屋中で青い月明かりを浴びてたたずむケイルはその気配を感じ振り向き


「誰だ!!」


と言った。


青白く光るケイルはあまりにも美しく一枚の絵のようで広人はただ見つめていた。


お前は…


ゆっくりと近付くケイルに驚いた広人は、見てはいけないものを見たようで急いで扉を閉めて逃げ出した。


いったい誰なんだ?

もう一人いるなんて聞いてない…どういう事だ…何なんだ


広人は混乱し早鐘のようになる心臓に戸惑いながら足早に自分の部屋へと去っていった。


ケイルは広人がさった扉のほうを切なく見つめていた。


やはり見つかったか以外と早かったな

あれほど結に詮索するなと言われたのに…

そんなところも君は彼と似ている

だからこそ今度は間違えない

変えられない運命を変えてみせる


美しいケイルの横顔に光が差し込んでいた。


「あの広人さんて人…叔父さんにソックリだった」


眠れずにいた麻衣子はベッドの中で呟いた。

そんな麻衣子に同じく眠れずにいた実加が暖炉の側の椅子に座り本を読んでいた手を止め


「そうね私は写真でしか知らないけどソックリだった」


と答えた。


「村の人達がここを城とか(やかた)とかいうのが分かる気がするな。ほらここって別の世界に迷い込んだみたいだもの…叔父さんはそんな所に魅いられたんだろうな」


実加は黙って聞いていた。


「だから叔父さんの手掛かりが必ずこの家の何処かにあると思う」


天井を見つめ言う麻衣子を実加は優しく見て


「そうだね…きっとあるよ」


突然なにかの叫び声が聞こえたがすぐに風の音にかき消された。


「なに今の音?声?」


と起き上がり言う麻衣子に実加が微笑み


「きっと風の音よ大丈夫そろそろ寝たら」


と言う実加の言葉に安心して


「うん分かったおやすみ」


「おやすみ…」


麻衣子はベッドに横たわり眠りはじめた。

どれくらいの時間がたったのか麻衣子の寝息が聞こえてきた。

実加は本を閉じ青白い月明かりが差し込む窓にちかより吹雪の音を聞いた。


大丈夫麻衣子は私が守る


実加は静かに目を閉じ胸元に隠してある何かを強く握りしめた。

不意に扉をたたく音がした。

実加が麻衣子を起こさないように静かに扉を開けると奈月がたっていた。


「あの~一緒に寝させてほしいんだけど…今日だけでいいからお願い」


声に気付き麻衣子が目覚めベッドから起き出してきた。


「実加どうしたの?」


麻衣子の言葉に


「ごめん起こしちゃった、でもさ~恐くって」

「奈月さん?」


眠い目をした麻衣子が言った。実加は奈月に


「とりあえず中に入る?そこ寒いでしょ」


と言い中に入るように促した。


「ありがとう」


奈月は喜んで部屋の中に入り暖炉のそばを陣取った。


「恐いって何が」


と聞く実加の言葉に実加が読んでいた本を読もうとしていた奈月は手を止め


「そうそう聞いてよ。犬の遠吠えとか風の音がこう襲ってくるようでさ恐いじゃない」


と奈月が言った。


「確かに不気味よね」


麻衣子がカタカタと鳴っている窓を見ながら言った。


「でしょ~私ね6人兄弟の長女でさ、いつも皆でくっついて寝てるの。だからあんな広い部屋だと居心地悪くって。

今日だけだから一緒に寝かせて」


と必死に言う奈月を見て麻衣子と実加は顔を見合せ微笑んだ。


「じゃあベッドが動くようならくっ付けて3人で寝る?」


との実加の提案に奈月は凄く嬉しい顔をして


「やる私がやる」


と力一杯ベッドを押し2つのベッドをくっ付けた。


「よし出来たぁでも疲れた」


あまりの奈月の張り切りように麻衣子と実加は唖然と見ていた。


「奈月さんって本当にいいキャラね」


と麻衣子が言うと


「えっ私って変?よく空気が読めないって怒られるんだよね」


「ちがうの何て言うか…なごむ安らぐ違うな…安心するかな」


麻衣子が言った言葉に感動した奈月は麻衣子に抱き付き


「ありがと本当に良い子だね。うちの高校においで私待ってるから」


一瞬の沈黙の後に実加がたまらず笑い出し言った。


「奈月さん私たち大学生よ」


実加の言葉に驚いた奈月が慌てて麻衣子を見ると


「良いんだけどね…でもまあ中学生に間違われるとは思ってなかったな」


落ち込んでいる麻衣子がいた。

青ざめていく奈月を横目にやっと笑いの止まった実加が言った。


「まあまあ若く見えるのは麻衣子の特技でしょ。

だから奈月さんは気にしないで、私にすれば奈月さんが高校生って事の方が驚きだわ」


美加の言葉に目を見開いた奈月は詰め寄り


「ねえ私ってそんなに老け顔?本当にちょくちょく言われるのよ、職場どこですかとか何処の大学を卒業したんですかとか」


ちっ近い


固まる実加を気にせずに兄弟の世話をしていたから老けたのかしらとか、どうしたら若く見えるのと喋り続ける奈月の肩を麻衣子はポンポンと叩き


「奈月さん大人っぽいだから、オバサンじゃなくて老け顔でもなくて大人っぽくて素敵ってことだから」


と言った。奈月は麻衣子の言葉に驚き振り向き


「そうなの?大人っぽくて素敵なの?それって色っぽいって事だよね、いい女ってことだったのね」


奈月が嬉しさのあまり瞳をキラキラ輝かせて言うので麻衣子は


「うっうん…そうだね」


とひきぎみに言った。


そうか奈月さんは素敵でいい女で色っぽいって言うと喜ぶのね。

そう言うところは女の子ね可愛い。


実加はフフッと微笑んだ。

麻衣子に促されて落ち着きを取り戻した奈月は思いきって2人に話し出した。


「突然なんだけど笑わないで聞いてくれる?私ね女優になりたいんだ」


突然の奈月の告白にキョトンとした麻衣子と実加。麻衣子が


「女優!?」


と聞くと


「幼稚園の頃からの夢でさ。でもけっこうお金かかるのよレッスン代やら何やら。

うち家族が多い上に親父が借金残して失踪しちゃってて、大変だから無理が言えなくて諦めようとしてたんだ」


2人は奈月の話を黙って聞いていた。


「そうしたら、このバイトを見付けたの…だってバイトなのに交通費支給あり前払で1日5万の14日だよスゴくない?でもここまでの交通費が20万もかかるとは思ってなかったけど」


という奈月に実加が


「そうね、ここは秘境だから飛行機やらハイヤーやら色々乗り継がないとだもの」


と言うと奈月はうなずき


「だね本当に秘境だよ。でさぁヤバイ仕事かな?大丈夫かなって心配したんだけど村が募集してたでしょ、だから信用出来るだろうと思ってきたの」


思い出した麻衣子が


「たしか特別期間職員とかで、この村だけの制度って書いてあったね」

「そうなのよ~だから頑張る、女優になるためにやるよぉ」


拳を突き上げる奈月の肩に麻衣子が手をおき


「大丈夫、奈月さんならきっとなれる楽しみにしてるから」


と言うと奈月は照れくさそうに


「ありがと頑張る諦めたらそこで終わりだもの」


と答えた。


この2人を守るんだ何があろうと絶対に…実加は2人を黙って見つめていた。

自分の話が終わった奈月は麻衣子達に


「さあ私は話したんだし今度は2人がどうしてここに来たのか教えて、お金目当てって感じじゃないから気になってたのよね」


麻衣子と実加は呑気そうに見える奈月が意外に鋭いことに驚いていた。


「何よその顔、あーバカにしてたの?変なやつだって」


図星とはいかないが近いところを突かれて2人は顔を見合わせた。

そして頷き合ったあと麻衣子は思いきって話しはじめた。


「私の叔父、天野新一郎は写真家で特に風景や建物の写真が得意だった」


麻衣子は自分をすごく可愛がってくれていた叔父が、仕事先でとったお気に入りの写真を何時も送ってくれていたこと。

その叔父が10年前に突然行方不明になった事を話し


「最後に届いたのが行方不明になる直前のこの家の写真だった」


と言うとふっと窓から青白い月明かりが差し込んだ。


「叔父はここで何かがあったんだって思った」


叔父がなぜ失踪したのか家族で手分けをして探したが何の手がかりも見つけられなかった。


当時の麻衣子はまだ幼く何もできず悔しい思いをしていた。


そんな記憶も薄れかけていた頃、叔父の写真に似た建物の写ったチラシを誰が張ったのか大学の掲示板で見掛けた。


たった2週間だが破格の値段のバイト…

麻衣子はやっと見つけた叔父の手がかりに、探しに行くなら今しかないと覚悟を決めてここに来たのだ。


奈月は凛々しい麻衣子を驚いて見ていた。そんな奈月に実加が続けて


「私は麻衣子が心配で1人より2人の方が安心だからついてきたの、何がおこるかわからないから」


実加が青白い月明かりの差し込む窓を見ながら言った。


2人は相当な覚悟で来てたんだ

私なんかとは違う覚悟

次元が違う

ここであったのも何かの縁だ

私も何か役にたてないかな


ふと奈月は思い付いたらしく


「そっかわかった、ここで会ったのも何かの縁だよ私にも何か手伝うから何でも言って力には自信があるのよ」


と真剣な目をして言うと麻衣子が


「ありがと奈月さん、でも奈月さんを巻き込むことは出来…」


いや、もうここに来ている時点ですでに巻き込まれているのか


麻衣子が口ごもると実加が


「とりあえず今日はそろそろ寝る?このままだと夜が明けるし」


と言った。奈月は壁の柱時計を見て


「うわっ3時って寝ようさっさと寝よう、じゃあ私は真ん中で」


と言いベッドに潜り込んだ。


「いつも真ん中だから落ち着くんだ」


嬉しそうに言う奈月を二人は呆然と見たあと顔を見合わせ微笑んだ。


奈月さんとここで会えてよかった巻き込んでしまう事になったけど


と麻衣子は思った。


「実加も…休もう」


麻衣子が窓際にいる実加に声をかけると


「そうだね…今日だけはゆっくり休もうか」


実加は窓を振り返って見てからゆるゆるとベッドに向かった。そして3人は眠りについた。


静かな寝息が部屋に響く中、実加だけが1人眠れずにいた。


実加はそっとベッドを抜け出し胸元から少し大きめの十字架のアンティークのペンダントを出した。


「父さん私に二人を守ることが出来ますか?どうか力を貸してください…まだ何の力もない私だから」


青白い光の中、実加はペンダントを抱き締めた。


「やはり君がそうか」


青白い光と七色のステンドグラスの光が重なりあい複雑で美しい輝きの中でケイルが呟いた。


「ケイル…開けて」


突然、結の声が


「お願い、ここを開けて」


ケイルは身じろぎもせず


「この部屋には来るなと言ってあるだろ」


「ケイル…私にはあなたが必要なの。この間は無理をさせて悪かったわだから謝りに来たのよ。

もう突然の仕事は入れないようにするだからここを開けて」


優しい声で結が言った。

ケイルはその瞳に悲しみと怒りをまとい


「結、君は何もわかっていない、いやワザと目をそらしているのか。俺達に未来なんてない…未来なんてないんだ」


ケイルの言葉に結はクスクスと笑い出した。


「未来…私達に有るのは永遠よ。あの日から永遠に私達は2人で1人。

今日はもういいわ、でも忘れないで私達はけして離れられないという事」


そう言い去っていった。


「結の事は言えない俺も逃げてきたんだから」


あの頃は幸せだった

だがあの日からあの時から全てが狂ってしまった

でももうすぐ終わる


ケイルはいつまでも光を浴びながら立ちつくしていた。

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