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いつか優しい未来  作者: 名月らん
訪問者
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訪問者

食事をしたあと部屋へ案内された広人は、扉を開けて部屋へ入るなり言葉を失った。


信じられない

ここは本当に日本なのか?


穏やかな淡い花柄の壁紙に装飾が細部まで美しい暖炉、天井の小振りのシャンデリアにも側面のライトにも一切手を抜かず美しい装飾がされていた。


まるで別世界だな、ここは


広人は携帯を取り出し電話をしようとして動きが止まった。



圏外か…まあこんな山奥だし仕方がないよな。しばらく滞在するって連絡したかったんだけど



広人は部屋にあるアンティークの電話を見付け


これって、かけてもいいのかな?でも通話料とかいるよな。明日電話を貸してくださいって言ってから使うか


広人は疲れた体をフカフカのベッドへと沈ませた。

シーンと静まり返る部屋のなか、外では雪が全てを覆い隠すように静かに降り続いていた。


「本当に別世界だ」


そう呟いた後、広人は気付くと深い眠りに落ちていた。

翌朝ゆるゆると起き出した広人は着替えを済ませるとスケッチブックとデジカメを持ち部屋を出た。


「さむっ」


廊下にも暖房は入っているのだが部屋との温度差に広人は身震いをした。

今日も外にはハラハラと雪が舞っていた。

広人が薄暗い廊下を歩いているとステンドグラスがはめ込まれた円形の高窓から和かな光が射し込み美しい光の造形をうつしだしていた。


「うわぁ凄い」


広人はワクワクしながらその光景を撮っていった。

ふと見ると奥から慌ただしくメイドがやって来た。思わず


「忙しそうですね何かあるんですか?」


広人が聞くとメイドは驚いて広人を見たあと


「ああ広人さまでしたか。その明日から代わりの方がいらっしゃるのでお部屋の用意とか色々と、すみません急ぎますので失礼します」


と言い去っていった。


代わりってなんだ?まあ考えても分かる訳がないし…

それにしても本当に不思議な所に来てしまったな、俺としては願ったりかなったりだけど


広人は玄関ホールの装飾を見に一階へと降りていった。


この階段の手すりも天井と壁の境も模様がついていたり金箔でかざってあったりするし、さすがに何気に凝ってるな


「これって値段どれくらいするんだろう…いかんいかん下世話だ」


そう呟きながらウロウロとまわりを見つつ玄関につくと、結が男性と話していた。


「あら、おはよう広人さん」

「あ、おはようございます」


と広人は答えた。結は傍にいる男性に一瞬目をやり


「執事の田所よ」


と広人に言った。すると結の傍にいる男性は微笑みながら


「田所です。よろしくお願いいたしますよ広人さま」


と挨拶してきた。背が低く小太りで愛想のいい田所は満面の笑みを浮かべながら、しかし探るような目で広人を見上げていた。


「よろしく…お願いします」


たじろぎながら広人は言った。


なっなんなんだろう、この田所と言う人の感じ…ああ威圧感か


広人がそう思っていると、結が広人の持っているカメラに気づいて


「カメラ」


と言い一瞬鋭い目をして広人を見た。そんな結に気付き広人は慌てて


「これですか?色々参考に撮ろうかと…あのダメでしたか?あっそうですよね先に聞くべきでしたよね、すいません」


と言った。するとふっと結が表情を和らげ


「そうね本当は遠慮してほしいんだけど、建物の写真だけで私達を写さないって約束してもらえる?約束してもらえるなら許してもいいわ」

「結さま、それは」

「いいのよ田所、どう?広人さん」


広人は頷き


「はいプライバシー保護ですよね、分かりました約束します」


と言った。


「ありがとう広人さん」


と結が微笑み言った。


確かに、あまり写されたくない人もいるだろうし…先にことわっておけばよかったな

それにしても結さんって多分十代だよな。そのわりにはしっかりしていて、まあこんなに大きな家の主なんだから当たり前って言えば当たり前だけど、結さんって本当はどんな人なんだろう


はじめの印象とは少し違う結に、広人は興味を引かれ出していた。


そうだ


広人はふと、さっきすれ違ったメイドの話を思いだし結に聞いてみることにした。


「あの聞いてもいいですか?」

「何かしら?」


と不思議そうに結が答えた。そんな結に広人が


「さっきメイドさん?ですかね、代わりの人が来るって言ってたんですけど何かあるんですか」


と聞いた。すると田所が咳払いをして


「実は明日から2週間メイド達が休みをとるのです。

きっと、その代わりに雇うアルバイト達の事でしょう。いらっしゃるのは今時の若い娘さん達ですがね。そこで相談なのですが、たまたまいらっしゃるあなたにも協力をお願いしたいのですが宜しいですかな」


そう言いジロリと下から広人の顔を見た。


なっなんて目で見てくるんだ


その目のあまりの鋭さに広人は動くことが出来ずにいた。


「広人さん、どうかして?」


結に声をかけられて我に返った広人が


「あいえ、分かりました俺で出来る事があれば何でも言ってください」


すると、とても嬉しそうに結は広人の手をとり


「ありがとう助かるわ頼りにしているわね」


和かな美しい微笑みをたたえ言った。


「では広人さま、申し訳ありませんが本日は別のお客様が来ることになっておりまして、出来ればしばらくお部屋で居ていただければありがたいのですが」


田所がそう言うと申し訳なさそうに結が言った。


「ごめんなさいね、突然来る事になったの。大切なお客様だから今日は1日かかると思うの、屋敷の中を案内出来なくてごめんなさいね」


それはいいけれど、部屋から出るなってどう言うことだ?


屋敷の中を知らない人にうろうろされると困ると田所に言われ


確かに写真を撮るためにウロウロしてしまいそうだ


なるほどと納得をした広人は


「分かりました、じゃあ出来るだけ部屋にいるようにします」


と答えた。そんな広人に田所は続けて


「勿論時間がかかるようでしたら、昼食や夕食はお部屋にお持ちいたします。 その他お部屋の電話をならして頂ければ伺いますよ」


部屋の電話は内線専用の電話で、外部に連絡したい時はその都度申し出なければいけないと言うこと。他にもなにか用事があれば電話をならすようにと田所に言われた広人は


「分かりました、なにか用事があれば電話します。まあ部屋の装飾とかも興味深いものがけっこうあるので退屈はしないと思いますしね」


そう言うと結が


「よかった、この城は本国の離宮に似せて造ってあるから見ごたえがあると思うわ」


と言った。それを聞いた広人は


「本国の離宮って海外ですか?きっとすごいんでしょうね、いつか見てみたいな」


夢見る目付きで言う広人に結が


「そうね、いつか見られるかしら」


と呟いた。


いつか?何だろうなんか引っ掛かるな


広人は疑問を持った。だが、それを打ち消すように突然大きな音がして扉が開き2人の男性が家の中に入ってきた。


「結!久しぶりだなぁ」


そう言い男性は結を抱き締めた。


えっ今度はなんだ?


その光景を呆然と見ていた広人に仕立てのいいスーツを着た少し白髪混ざりのその男性が結から離れ近よってきた。そして


「君はたしか…」


そう言うと広人をじっと見た。


「小崎広人様です」


もう1人の黒のスーツの細身の背の高い男性がそっと耳打ちをした。


「ああ、そうそう小崎君だね、本当によく似ているなぁ。まあ、ゆっくりしていってくれよ」


そう男性が言った。


ゆっくりしていってくれって何様だこいつ


驚き立ち尽くす広人に結が


「いやだわ広人さんがびっくりしてるじゃない。ごめんなさいね驚かせて、彼は平岩陽平、私の従兄弟よ。こっちは秘書の」


男性は会釈をして


「黒沢と申します。よろしくお願いいたします」


と言った。広人も慌てて


「どうも小崎広人です、よろしくお願いします」


と言いお辞儀をすると陽平が広人に近付き顔をよせ小声で


「結は私の物だからね覚えておくように」


えっ!?


突然の事に驚く広人をニヤリと陽平が見ていった。


「さあ、じゃあ行こうか結」


そう言うと陽平は結の腰に手を回した。それを見て広人はドキッとした。そこに従兄弟以上の関係を感じた。


「それじゃあ広人さん失礼するわね」


そう言い結と陽平は階段を上がっていった。陽平となごやかに話す結のあざやな笑顔を広人はじっと見ていた。そんな広人に


「私は料理長に陽平様がいらした事を伝えて参りますで、これで失礼しますよ。広人さまもお部屋へお戻りください。あ~忙しい」


執事の田所はいそいそと厨房へと去っていった。ふと気付くと広人の隣に黒沢が立っていた。


この人いま気配がなかったぞ


「あのあなたは行かなくていいんですか」


残った黒沢に広人が聞いた。黒沢は


「私は他に用事がありますので陽平様とはしばらく別行動となります。それでは広人様失礼いたします」


そう言い立ち去ろうとして立ち止まりゆっくり振り返り広人を見て


「広人様、どうかお気を付けください」


と言い去っていった。そんな黒沢の言葉に広人は混乱していた。


気を付けろって何に?全く分からない

たしか黒沢って言ったっけ気配がなくて気味が悪いし

それにあの平岩陽平って人どこかで…

この間テレビで見たけっこう有名な政治家だ

そんな人が従兄弟って結さんってすごい家系の人なのか?

それにしても、こんな雪の日にわざわざ来るなんてよっぽどの急用なんだろうか

それにあの2人の関係って本当はいったい…


混乱する広人をケイルが離れた場所からそっと見ていた。ふと視線を感じ広人は振り返ったが誰もいない。


「気のせいかな」


すでに薄暗い廊下にケイルの姿は消えていた。


「誰もいるわけないよな、さてと部屋に帰るか」


そう呟き広人は部屋へと向かった。

広人は部屋に入り暖炉の側のソファーに腰掛けた。天井のシャンデリアがキラキラと輝いている。

広人は電話を貸してもらうのを忘れていたことを思い出し、部屋にある電話をならしてみた。

しばらくして無機質なばあやの声が受話器から聞こえてきた。


「何かご用でしょうか」


この人はある意味ブレないよな


広人は一瞬たじろいだが思いきって言ってみた。


「あの外に連絡したいんで電話をお借りしたいんですけど」


と言う広人にばあやは


「外部に繋がる電話ですね、2ヶ所ございますが今日は結様の許可が得られそうにありませんので明日でもよろしいでしょうか?」


と言った。


お客が来ているから無理って事だな、どんだけVIPなんだ?


広人は仕方なく諦め


「仕方ないですよね、大丈夫です明日でかまいません。面倒くさいお願いをしてすみません、よろしくお願いします」


と言った。そんな広人にばあやは穏やかな声で


「ではしばらくしたらお食事をお持ちいたしますので、それまでお部屋でごゆっくりおくつろぎください」


えっ今のってばあやさん?


広人は初めて聞いたばあやの穏やかな声に少し驚き


「はい、よろしくお願いします」


と言い電話をきった。


「もしかしたら、ばあやさんて無愛想な見かけによらず本当は優しい人なのかも知れないな」


窓の外を見ると、さっきまで降り続いていた雪がいつの間にかやんでいた。

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