銀の十字架
短いですが大切な部分です。
ドウッ
何処かで拳銃を撃つ音がしたような気がして実加は振り返った。
静まり返った森の中、だが実加の耳には確かにハッキリと拳銃を撃つ銃声が聞こえた。
兄さん
実加は虚ろな目をして城を見た。
父さん、父さんが本当に望んだ結末はこうだったんですか。
本当は2人を救いたかったんではないんですか?
その為にこの銃弾を私に託したんではないんですか?
私はそう思っていたのに…
本当の悪魔は2人を利用して私腹を肥やしていた村人たちのはず。
2人をこの森に閉じ込めて、利用し続けてきたのだから…
確かに2人が罪をおかした事は事実。
でも、それは2人が本当にやりたかった事ではなくなりたかった未来でもなかった。
2人よりも村人達がこの村の秘密を守るためにやって来た事の方が人として許されない事のはず。
「私は間違えない…絶対に間違えたりしない」
実加はペンダントを握りしめ呟いた。
「麻衣子」
私の本当の秘密を知っても友達でいてくれる?
私が一番怖いのは麻衣子に嫌われる事なんだから。
実加は麻衣子たちのもとへと急いでかけていった。
広人、麻衣子、奈月、黒沢の上に雪がはらはらと降りだした。
麻衣子は不安だった。
このまま実加の口から真実を聞けないま会えなくなってしまうのか、このまま実加と別れてしまっていいのかと。
「雪だ…実加さん本当に大丈夫かな」
奈月が呟いた。麻衣子は
「大丈夫、絶対に戻ってくる絶対」
自分に言い聞かせるように呟いた。そんな麻衣子に広人が
「心配ないよ実加さんは必ず麻衣子さんの所に戻ってくるはずだろ?」
と言ったその言葉に麻衣子は頷いた。
突然、何かに気付いた黒沢が
「あれは実加様ではないでしょうか…」
と言い指さした先にはかけてくる実加の姿が見えた。
「実加、実加」
麻衣子は駆け寄っていった。
そんな麻衣子を実加は見付け複雑な表情になった。
麻衣子…待っていてくれた。
でも私には一族の吸血鬼の血が流れている。
こんな私を受け入れてもらえるのだろうか。
立ち尽くしていた実加を麻衣子は抱き締めた。
「よかった帰ってきてくれてよかった。もう戻ってこないんじゃないかって心配だったんだ」
そう言う麻衣子に
「ゴメン…ゴメンね麻衣子」
と実加はささやいた。そして実加は思いきって
「麻衣子、私ね」
と言うと麻衣子が
「ケイルさんから聞いた」
と言った。実加は驚いて麻衣子を見た。
やっぱり知ってしまったんだ私が吸血鬼だと
そんな実加に麻衣子は
「はじめは驚いたし凄く腹もたった、だって何も話してくれなかったから。
それに怖くないっていうと嘘になるけどそれでも実加だから、私の知っている実加が本当の実加だって信じてるから。
だからそんなの関係なく実加はそのままでいいんだよ」
と言った。実加は思いもよらない麻衣子の言葉に驚いて見つめ黒沢は優しく麻衣子を見た。
お前はそのままでいろ
黒沢はケイルに言われた言葉を思い出した。
「ありがとう麻衣子、私はこのままでいいんだね麻衣子の傍にいていいんだね」
そう言う実加に麻衣子は微笑んで
「当たり前よ実加は私の一生の親友なんだから。
それに私をおじさんと同じ目にあわせないように守ってくれてたんでしょ。いつも私の事を考えてくれてたそんな実加を嫌いになんかなれない」
と言う麻衣子の肩に実加は黙って顔をうずめた。
ありがとう麻衣子…
そんな麻衣子だから、あの事だけは麻衣子に知られないようにしよう。
麻衣子を失いたくないから。
実加は麻衣子を抱きしめた。
そんな実加に遠くから父の声がした。
まだ実加が6歳だったころ父は実加の隣で銀色の銃弾を作っていた。
実加はそれが何かわからず
「父さんこの丸いのなに?」
父は優しく微笑み実加を膝の上にのせ
「これは大切な銃弾なんだ。出来上がったらこの十字架に入れて実加にわたすから無くすなよ」
キラキラと輝く十字架、実加はこんな綺麗なペンダントが自分の物になると言われ嬉しくてたまらなくなった。
「お父さん綺麗だね」
「そうだな」
とても穏やかな日常だった。
その穏やかな日常はそれから暫くして起こったあの事故で崩れていった。父が亡くなって暫くしたある日、実加は母から父の手紙を貰った。
「実加へこれから、お前は母さんと一緒に天野新一郎と言う男性を探してくれ。
もし本人に会えないのなら天野新一郎に続く者を探し出し必ず守り抜いてくれ。
それが約束の地に行く近道なのだから。
約束の地で全てを救い終わらせる事が出来るのはお前しかいない。
必ず約束を果たしてくれ。」
彼には何が起こるのか分かっていたのだろう。
実加と母親は遺言の通りに天野新一郎を探した。
だが残念なことに実加と母親が天野新一郎の住所を見付けたのは新一郎が行方不明になった後だった。
天野新一郎の命を守れなかった父の遺言を守れなかったと傷ついた実加は、偶然なのか必然なのか麻衣子と出会った。
その麻衣子が天野新一郎の姪だと気づいたときには、かけがえのない人になっていた。
だが約束の地に行くには麻衣子を利用することになってしまう。
悩んだ末に実加は心を閉ざし麻衣子に近付き過ぎないように心がけた。
あくまで約束の地に行く為に麻衣子を利用するために。
だがそんな実加の凍った心を麻衣子はゆっくりときほぐしていった。
そして実加は利用することより守り抜くことを選んだ。
だが一度は利用しようとしたのは事実、この事を実加は麻衣子に知られたくなかった。
それほど麻衣子は実加にとって大切なのだ。
実加は麻衣子をもう一度抱き締めた。
そんな5人を青年は呆然と見ていた。





