放たれた願い
もつれた想い悲しい願い。全てが繋がっていきます。
ケイルは穏やかな表情で窓の外を見た。
やっと終わる…
部屋を出ようとしたとき実加とばあやがやって来た。
ケイルと実加の2人はやっと本当の意味で出会った。
「ケイルさまですよ」
とばあやに言われた実加が視線を向けるとそこには父親にソックリのケイルがたっていた。
「父さんにそっくり」
実加は思わず呟いた。そんな実加にケイルが
「麻衣子さんたちは大丈夫だ君も早くここから出るんだ」
麻衣子の名前を言われて実加はホッとした表情になり
よかった麻衣子は逃げたんだ
良かったと思いながら実加はポケットに手をいれ、十字架のペンダントを取り出した。
あれは、ばあ様の肖像画に書かれていた
見つめるケイルに実加はゆっくり近寄っていった。
「父は不思議な力を持っていました。
あまり歳をとらず少し先の未来が見える。
そのせいで父は長く同じ所に居られなくて辛い思いをしてきたそうです」
実加は続けて
「でも母と出逢ってやっと安らげる場所を見つけたそうです」
と遠い目をして話し出した。
12年前のあの日、あの悪夢の列車事故が起こった。
死者、重軽傷者を含めて185人。
美加の父は怪我をしながらも鉄骨をずらし火災の起きないように列車を移動させ歪んで開かなくなっていた非常扉をこじ開け、できる限りの力を使い人々を助けた。
そして最後は瀕死の妻と娘と救うために力を使い果たした。
「それでも救えたのはたった一握りの人達。なくなる間際の父の悔しそうな声を私は忘れることが出来ません」
ごめんな、こんなダメな父親で…
結局、誰も救えなかった
当時の父の声が聞こえる。実加は唇を噛み締めた。話を聞いていたばあやは涙を流し
「人々を救って…ルナソル様は奥さまとの約束通りに一生懸命に生きていたんでしょうね」
そう言いばあやは悲しそうにけれど優しく微笑んだ。
初めて見るばあやの本当の微笑みは悲しく優しく暖かかった。
「これは父の形見です。初めて父の苦しみを理解してくれた人から貰ったそうです」
そう言い美加はケイルにペンダントを渡した。
少し重く感じる大振りのペンダント…その中から微かに音がした。
これは
十字架の枠がすこし外れ中から銀の銃弾が出てきた。
驚き見ているケイルに実加が
「それには父の想いが詰まっています。それを作るために父は必死に力を命を注ぎ込んでいましたから」
これのために力を失ったのか
ケイルはその銃弾の中から2つだけを取り出し残りを実加に差し出した。
「これは…君に持っていてもらおう」
ケイルの言葉に実加は驚いた。
「でも」
実加の言葉にケイルは
「いつか本当の故郷に帰る事ができたら、本来あるべき場所に返してきてほしい」
と言った。実加はケイルを見つめたあと頷き
「分かりました必ず返しに行きます」
と言いペンダントをしまった。そして
「ケイルさん私にはミドルネームがあるんです。父が守りきれずに忘れられなかった人の名前」
忘れられなかった名前
「私のミドルネームは…ユリアナです」
ユリアナそれはケイルと結の母親の名前だった。
「ユリアナなんだね」
そう言いケイルは実加を見た。そんなケイルに実加は
「父さんは最後までケイルさんに会いたがっていました。
ケイルさんを置いて家を出てしまった事をずっとずっと後悔していたんです」
それを聞いていたケイルは涙が溢れ心の中が暖かくなるのを感じた。
「俺は捨てられたわけじゃなかった」
ケイルは銃弾を握り締めた。
その銃弾からは父の想いが伝わってくるようだった。
ケイルこれはお前にしか出来ない
永い悪夢の中にあった我が一族の歴史を…全てを終わらせてくれ
こんな残酷な役目をお前に託さなければならない父を許さなくていい憎んでいい
それでもお前にしか出来ない…すまない
そう銃弾から父の声が聞こえた。ケイルは実加に
「ありがとう実加、産まれてきてくれて生きていてくれて…ここに来てくれてありがとう」
と言い手を握った。そして
「さあ、もう行くんだ君には帰る場所がる麻衣子さん達が待っている」
と言うと実加は微笑み
「はい麻衣子の所に戻ります。麻衣子は私の大切な居場所ですから。
このペンダントはいつか必ず返しに行きます…さようなら兄さん」
と言い去っていった。
ケイルは去っていく実加の後ろ姿を見ながら
生きろ自分らしく
俺達の分まで生き抜いてくれ
と祈った。
「私にお供をさせていただけますか?」
と背後からばあやの声がした。ケイルはばあやを振り返り
「お前は…それでいいのか?」
と聞くとばあやは微笑み
「生まれたときからお二人と一緒に居ることが私の幸せでしたから他の道など考えたことございません。
その時が来たらご一緒にと思っておりました。
それにもう歳ですしね」
と微笑み言うばあやにケイルが
「お前が一番辛かったはずだすまない…さくら」
と名前を呼ぶとばあやは涙が溢れ出した。
「なつかしい名前です。自分の名前さえ忘れていました。
最後に呼んでいただきありがとうございます。今日まで生きて来てよかった」
そう言うばあやの手を握った。
そこに結がやって来てケイルを睨み付けた。
「よくもやってくれたわね皆を逃がすなんて私をうらぎるのね」
そう言い結はケイルに近付いてくる。
「もうやめろこれが最後のチャンスだ」
とケイルが言うと結が
「最後?いやよ私は生きるのずっと生き続けるのよ」
そう言い伸ばしてきた結の腕をケイルはつかんだ。
「この手袋はアザが広がったんだろ、お前の体はもう」
ケイルの手を振りほどき結が
「そうよ生きながらどんどん腐っていくわ、あんな血さえ体に入れなければ私は人でいられたのよ」
結は怒りで震える体を必死で抑えようとしていた。そして
「あの日、この血のせいで錯乱した私がお祖父様とお祖母様を噛み殺したあの夜、その場で殺すことも出来たはずなのにあなたは私を生かした。
それなのに今になってこんな風に裏切るなんて、こんな事になるのならあの時に殺せばよかったのよ」
深い悲しみの色が2人を包んでいた。
「こんなになるまで生かしておいて今さらになって…
全部あなたのせいよ、いいこと私は全てを手に入れるまで死なないわ」
そう言う結をケイルは悲しい目でみつめた。
「またそんな目で私を見るのね…許さない許さないわ」
結の目が赤く光りケイルを指差すと空気が刃物のように向かって飛んできた。
「危ないケイルさま」
ばあやがケイルの前に飛び出した。それはばあやの胸を激しく貫いた。
「さくら」
ばあやは崩れ落ちるように倒れた。
ケイルはばあやを抱えあげ
「なぜだ俺なら大丈夫なのに」
と言った。ばあやは苦しい息の中でケイルに
「ケイル様のお役に立ちたかった、やっとお役にたてました」
そう言いケイルの頬に触れた。そして
「ケイル様、最後に名前を呼んでくださってありがとうございました。あなたに会えて幸せでした」
と言いばあやは静かに息を引き取った。
「さくら…今までありがとうゆっくり休んでくれ」
ケイルがばあやをそっと床に寝かせ結の方を見ると
「さすが美加の血の力はすごいわね、純血種には及ばないけど」
結は力を使った為に苦しそうに肩で大ききな息をつきながら怪しく笑っていた。そんな結にケイルは
美加の血を…
「残念だなせっかく手にいれた力だが君には毒になったようだ。それにその程度では今の俺の息の根は止められない」
と言った。
そのケイルの言葉に結は激しくケイルを睨み付け
「それでも、あなたをしばらく動けなくさせるほどの力はあったはずなのに…本当に昔からバカな子ね」
と笑った。
「結!」
とケイルが叫ぶとフッと笑い
「でも、あなたの身代わりに死ねるなんて幸せね。だってその子は昔からずっとあなたの事が好きだったんですもの」
結の言葉にケイルは
「お前はこうなる事を知っていてわざと」
と言った。そのケイルの言葉に結は
「その子は小さな頃から私が羨ましかったのよあなたに愛される私がね。
だから私に勝つために我が身を投げ出してあなたを守った。
してやったと思ったはずよ私に勝ったとね。
なんて忌々しい子なのかしら」
と言いながら結は力なく床に座り込んだ。
「だめね力が足りないわ、はやくあの子達の血と肉を食べなくちゃ」
その結のそばでケイルが言った。
「結、気付いているんだろ、もともとお前の体はもう限界だった。
そこに実加の血が加わり腐敗が加速したんだ」
そう言いケイルが伸ばしたその手を結は払い除けた。
「いやよ私は世界を動かすのまだ死ねない死なないわ。
ケイルあなたには私の命の終わりが見えているんでしょうね。
でもその私たちの未来を変えるのよ」
結の言葉にケイルは
「無理だもう終わりなんだ」
と言い結を抱き締めた。
そしてケイルは結の背中に拳銃をあてた。
気付いた結が驚き言った。
「ケイル何をするの」
ケイルは結を強く抱き締めて
「この中には銀の銃弾が入っている。父さんが実加に託したペンダントの中に入っていたんだ」
結は驚きケイルを見た。
「ケイル今なんて…銀の銃弾ってまさか」
そんな結の頬にそっと触れてケイルが言った。
「父さんが力を込めたこの銃弾なら俺にだって撃ち込めば死ぬことができる一緒に死ねるんだ。
結これで俺達はいつまでも一緒だ」
ケイルが結の頬にキスをすると結の目から涙があふれた。
「本当に全てを終わらせる気なの?もうそうするしかないって言うの?
いやよいや2人で生きるって約束したじゃない、私を独りにしないっていつまでも一緒だって言ったあれは嘘だったの」
結の言葉にはケイルは
「嘘じゃない離れない永遠に一緒だ」
結は涙を流しながら
「もう逃れられないのね本当に永遠に離れないのね、永遠に…
分かったわケイルもういいわ」
その言葉には諦めとは違うホッとしたような不思議な安堵感があった。
全ての想いを包み込むようにケイルは結をもう一度抱き締めて言った。
「ああ約束する永遠に一緒だ…結、愛してるよ」
ドウッ…
銃弾は結の心臓を背中から貫いた。
力なく崩れ落ちる結をケイルは抱き締めて言った
「結、俺も今行く」
ケイルはこめかみに銃口をあて引き金を引いた。





