終わらない哀しみ
重い暗い真実が次々と
麻衣子と奈月は姿の見えなくなった実加を探して城のなかを歩いていた。
「実加ったら黙って何処に行ったんだろう」
と麻衣子が言うと奈月が
「本当に何処に行ったんだろうねいつも麻衣子さんと一緒なのに」
と言いポケットに手を入れた。
「あっそうだ忘れてた、これさっき地下で見付けたんだけど古い写真みたいなの」
そう言って写真を麻衣子にみせた。
麻衣子は写真を見て驚き裏返すと文字が書いてあった。
「1960年、結ケイル…」
「え1960年?」
奈月が驚いて除き混み
「本当だ1960年って…うそ何十年も前じゃない。なのになんで今と姿が変わらないの?」
2人は顔を見合わせた。
その時奈月が何かを思い出して
「私いま凄く嫌なこと思い出しちゃった」
「なに?」
「中学の頃に読んだ本の中に白銀の城の悪魔ってのがあって…海外の話なんだけど2年か3年かに一度その城に少年少女達が引き寄せられるように行って帰ってこなかったんだって」
「それって本当の話なの?」
奈月は焦って
「確かノンフィクションだったと思う。でもさあり得ないよね信じられない話だよね」
と言いつつも真剣な表情で
「でもここからが肝心で、その真っ白な城には永遠に歳をとらない美しい悪魔が住んでいたって書いてあったのよ。
違うよね、まさか結さんが悪魔だなんてあの本と同じ悪魔の城だなんてありえないよね」
でも、もしそうだとしたら
呆然とする麻衣子を奈月は揺すり
「嘘だよね」
と言った。麻衣子は立ち尽くしていた。
もしここが奈月さんの読んだその本と同じ悪魔の城だとしたら
「おじさんは生きていないのかもしれない。
私のやっている事は全部ムダなのかもしれない」
麻衣子がそう言うと奈月が
「そっそんなことないよきっとおじさんは生きてると信じる」
と奈月は力強く拳を握りしめた。そんな奈月の気遣いに麻衣子は
「そうだね望みは残しておかないと」
と言い実加を早く見つけようと言った。奈月は大きく頷き
「そうだよ、とっとと実加さんを見つけて出来るだけ早くこの城から出なくちゃ」
と言った。
2人が実加を探しに歩き出した時どこからか足音が近付いて来た。
2人は驚きあわてて足音のする方に振り向いたが足音の主の姿は2人には見えない。
背筋の凍るような恐怖を感じ2人は寄り添った。
「やっと見つけた」
「きゃぁぁぁぁあ!!」
広人の声に2人は叫び声をあげた。その2人の声に驚いた広人が
「びっビックリした2人とも大丈夫?」
と声をかけた。動揺のあまり広人になかなか気が付かない2人。
「聞こえてる?」
もう一度広人が声をかけると2人はやっと広人に気付き力の抜けた声で奈月が
「なんだ広人さんだったんだ」
と言った。その横に見知らぬ男性がいることに気付いた麻衣子が
「広人さんその人は?」
と聞くと黒沢が
「黒沢と申します。皆さん今すぐこの家から出ましょう」
と言った。その黒沢に麻衣子が
「今すぐにですか…」
と聞くと黒沢は
「今すぐです、そうしなければ命の保証は出来ません」
一瞬何を言われたのか分からなかった麻衣子と奈月。麻衣子が
命の保証がない
と呟やくとそれを聞いた奈月が、さっきの話が現実になったと恐怖を感じ
「うそ!マジで!本と一緒じゃない」
と麻衣子に抱きついた。そんな奈月を広人が不思議そうに見て
本と一緒?
「白銀の城の悪魔って言う本よ」
と言うと我に帰った麻衣子が
「ノンフィクション小説らしいんです」
と言った。黒沢は思い出したように
「白銀の城の悪魔ですか懐かしいですね…あの小説のモデルはお二人の一族かもしれません」
と言われ奈月は騒ぐのをやめ凍りついた。広人はそんな奈月に
「大丈夫、今から逃げるから心配しないで。
それと…麻衣子さん天野新一郎って写真家は君のおじさんなんだね」
麻衣子は驚き
「なんでそれを知ってるんですか?」
と言うと広人が
「麻衣子さん…天野新一郎は…もう亡くなっている」
と言った。麻衣子はやはりと思った。そんな麻衣子に広人が
「君のおじさん天野新一郎さんは俺にそっくりだったんだね」
と言った。麻衣子は頷き広人に
「はいそっくりです。はじめは叔父じゃないかって思いましたから」
と言い思いきって
「広人さん叔父が死んだことを誰から聞いたんですか」
どうして叔父が死ななければならなかったのか
何があったのか知らなくてはいけない
「本当の事を知る為に私はここに来たんです」
と言う麻衣子の言葉に広人は
「やっぱりそうだったんだね。君のおじさん天野新一郎の事を教えてくれたのは、ケイル…結さんの兄だ」
麻衣子はやはりと思った。
「彼は知っていたんですね叔父が何故亡くなったか。ケイルに会わなくちゃ」
と言い駆け出そうとする麻衣子の腕を黒沢がつかんだ
「はなして」
「危険です今すぐ逃げてください」
そういう黒沢に麻衣子は
「ここまで来て、すぐそこに答えがあるのに逃げるわけにはいかない」
と言い睨んだ。
「そうよ、それに美加さんの事もほっておけないよね。私もいく」
と奈月が言うと麻衣子は振り返り
「ダメ、奈月さんは逃げて」
「何でダメなのよ」
「奈月さんこそ巻き込まれたんだよ」
と言うと奈月は笑って
「なに言ってんのここであったのも何かの縁よ」
と言った。広人は奈月の肩にてをおき
「そう言うんじゃないかと思ってた。でもねやっぱり奈月さんには先に逃げて、俺達を待っていてほしい」
と言った。奈月はこんなときなのに不謹慎にもドキドキしていた。そんな奈月に
「俺がついていくから心配しないで、良いよね麻衣子さん」
と言うと麻衣子は頷き
「分かりました一緒に行きましょう」
と言った。
その頃ばあやは地下に向かって階段を降りていた。
暗闇の中をライトで照らしながら一番奥の扉を開けると、ベッドに縛り付けられている実加を見つけた。
「やはりここでしたか」
ばあやの声に実加は鈍い反応をして
「ばあやさん…」
と言った。
ばあやが駆け寄るとベッドに縛り付けられた美加は、点滴針を刺され血を抜かれていた。
ばあやは急いで実加から針を抜きとると体を縛り付けているベルトを外し
「こんなことになり申し訳ありません。立てますか?」
ばあやは実加を抱き上げて言った。そんなばあやに実加は
「ばあやさん何で助けに来てくれたんですか?」
と言った。そんな実加の顔をばあやは懐かしそうに見て
「ここはあなたのお父様、ルナソル様も閉じ込められていた場所なんです」
と言った。実加は驚き
「ばあやさんは私の事を知ってたんですか?」
と聞くとばあやは頷き
「はい、知っておりました。でも正確にはケイル様がと言った方がいいでしょう」
「ケイル…」
「はい、ケイル様が教えてくださらなければ実加様がルナソル様の娘さんだとは気付きもしなかったでしょう」
「ケイル…私の兄ですね」
そう実加に聞かれてばあやは頷いた。
「教えてください、いったい父はここで何をしたんですか何があったんですか?」
「ルナソル様に何も聞いていらっしゃらないのですか?」
実加は頷き
「父は12年前に亡くなりましたから」
「ルナソル様がお亡くなりになるなんて」
驚きながらもばあやは行きながら話しましょうと言った。
2人は地下を抜け出しケイルの部屋に向かった。
その途中ばあやはポツポツと話し出した。
「わたくしはルナソル様がこの地を去ったあとに産まれましたので、直接ルナソル様にお会いしたことはございません。
これは全て母から聞いた話になります」
まだ日本に移住する前、美加の父ルナソルは兄の許嫁の女性を愛した。
だがそれは叶わぬ想い。
兄に傷付けられ愛する女性にも突き放され傷付いていたルナソルを救ったのがユリアナだった。
実加はドキッとして呟いた。
ユリアナ
ユリアナはルナソルの兄とその女性の娘でルナソルの姪。彼は寂しさを彼女で埋めたのだ。
その頃国の内外で戦争が続きますます戦況が激しくなって行った。
一族は新天地を求め逃げだし日本にたどり着いたが、その時にはすでにユリアナのお腹にはケイルがいた。
日本で暮らす為に平岩家の援助を受ける事は必要不可欠。
その為には平岩光也とユリアナの結婚をやめる訳にはいかない。
一族はルナソルを牢屋に幽閉し産まれてすぐのケイルをユリアナから引きはなした。
だがユリアナの悲しむ姿を見るにみかね、光也に見付からぬよう地下で育てた。
「ずっと影のように生きて来たんですね」
ばあやは階段を上がりながら
「ルナソル様と共に子供も死んだと思ったユリアナ様は深く悲しみ心を閉ざしました。そんなユリアナ様の心を開いたのは光也様との新しい命でした」
新しい命
「それは結さんのことですね」
ばあやは頷き
「これで上手くいく、その通りはじめは穏やかな日々が続きましたでも…」
ルナソルが生きていると知ったユリアナはルナソルに会うため牢獄に現れるようになった。
このままでは子供の命にかかわる。
ルナソルは覚悟を決め城を去ることにした。
そんな矢先に光也はルナソルが生きていること、ケイルも生きていることを知ってしまった。
光也は結もルナソルとの子供ではないかと疑うようになり暴力をふるい、時には村の女を連れ込みわざと見せ付けた。
ルナソルが一刻の猶予もないとユリアナに別れを伝えに行ったあの日、悪夢の時間がやって来た。
ばあやは遠い目をして話を続けた。
嫉妬に狂った光也はルナソルを殺そうと刀を持ち出し城の中を捜しまわっていた。
そしてユリアナと一緒にいるルナソルを見付け逆上し
「やはりそうか、2人でずっと騙していたんだな」
と刀を振り上げた。
光也の振り下ろす刀がユリアナをかばうルナソルの背中を斬りつける。
光也はいっそう苛立った。
「殺してやる今すぐに殺してやる」
渾身の力を込め振り下ろした刀の前にルナソルをかばいユリアナが斬られた。
花びらが散るように崩れ落ちるユリアナ、その光景に光也は愕然とし
「初めて君と会ったときからずっと好きだった。結婚出来ると知ってどんなに嬉しかったか…」
自分は愛されていなかったと絶望した光也は駆け出した。光也の狙いに気付いたユリアナ
「あの子を守って」
と言い胸のなかで息を引きとったユリアナをそっと寝かせ、ソレイユは光也の後をおった。
光也がずかずかと子供部屋に入って行くと、お父様と笑顔で結が見ている。
その結に光也は刀を振り下ろした。
ギャー
結の叫び声が響いた。
「あの世で今度こそ」
と光也は言い刀を首にあてて引いた。
駆けつけたルナソルはその惨状に目をそらした。
諦めつつ結を抱えあげるとまだ息がある。
ソレイユはユリアナに頼まれた通り瀕死の結に自分の血を飲ませた。
そして結が助かったのを見届けたルナソルはひっそりと城を去った。
それからの結は父が母を殺して自害した事、少しずつ醜く腐っていく体も全ての災いはルナソルのせいだと恨みだした。
黙って聞いていた実加がペンダントを取り出し
「憎んでいるんですね幸せを奪った父を」
「ここで起こった事はユリアナ様とルナソル様を引き離した事が始まりです。
掟を破ってでも2人を一緒にしていればこんな事にはならなかったでしょう。
でも全ては終わった事、結さまはルナソル様を憎む事でしか生きられなかったのかも知れません」
そしてその屈折した想いがケイルに向かっていくにはそう時間はかからなかったのだ。
ばあやは実加の持っているペンダントに気付き
「それは…たしか奥さまの肖像画に描かれてあった」
「これは父の形見です。私がここに来た本当の理由はこれをケイルさんに渡す為です。
ケイルさんに会えませんか、このペンダントを渡さなくちゃいけないんです」
美加の言葉にばあやは微笑み
「分かりました参りましょう」
と言った。そのばあやの背中に美伽は
「あなたは1人で抱えてきたんですね、いつかこんな日が来た時に真実を伝える為」
ばあやは驚いて実加を見た。
「そうかもしれません、別の生き方も出来たのでしょうが、それでもここに残ったのは真実を伝えてほしいと言う母の遺言があったから」
でも本当は私の勝手な思いからだった
私はケイルさまと結さまが好きだった
私にはお2人が全てでずっとそばにいたかった…
ただそれだけだった
あふれだす涙をおさえられないばあやだった。実加はばあやを抱き締め
「終わらせましょう、もうこれ以上悲しみを増やさないために、今なら私達なら出来るはずです」
そう言い微笑んだ。ばあやも
「そうですね全てが終わるその時が来たのですね私達の手で」
と言い微笑んだ。





