悲しみの鎖
すべての始まりはここからだった。
広人は異様な気配のする館の中をケイルを探して歩いていた。
「なんなんだろう今日は寒気がする。この家に来て始めて違うな前にも感じた事がある」
そう言い立ち止まり振り返えるといつの間にか静かにケイルが立っていた。
広人は一瞬驚いたがすぐに冷静さを取り戻さしゆっくりと近付き
「全てを教えてくれないかどうしても知りたいんだ」
ケイルは広人がそう言うだろうと覚悟をしていた様に
「全てを話そう部屋の中に」
と言い広人を部屋の中に招き入れた。広人は扉の近くに立ち
「はじめてこの村に着いた時に村人達は幽霊でも見たかの様に俺を見て驚いたんだ」
ケイルは窓の外を見ながら聞いていた。
「この家でも同じだった結さんやばあやさんだけじゃない、この家の使用人達までみんなが驚いていたんだ」
広人はそう言うとふと思い出した
「そうだ麻衣子さんも俺を見て驚いてた。もしかして同じ理由なのか、みんな俺を俺に似た人を知っているのか?」
と言う広人の言葉に
麻衣子は新一郎を知っていて当たり前だからな
とケイルが呟いたが広人には聞こえなかった。広人は続けて
「ここは不思議なんだ時間が止まっているような異様な感じで、それに見てしまったんだあの肖像画をあれは君と結さんだよな」
ケイルは広人の方に笑顔で振り向き
「その通り俺達だ、そしてとなりの肖像画の2人は俺達を育ててくれた祖父母その奥には俺達の母の肖像画がある」
まだあったのかと言う広人の表情に
それは見なかったのかとケイルは思った。広人は
「まだ奥があったなんて思いもしなかったんだあの肖像画をみて驚いていたから」
といった。ケイルは何に驚いたんだと広人に聞いた。
「あの肖像画には60年以上前の日付が書かれてあった。でも今の君たちの姿は少しも変わっていない、あれは本当の事なのか?君たちはいったい何なんだ」
そう言いケイルを見た広人は息を飲んだ。そこには淡く差し込む光を浴びて怪しく光るケイルがじっと自分を見ていたのだ。
ケイルは小さく笑い
「そうだな、これだけ色々あって何の疑問も持たない方がおかしい」
とケイルが言うと広人が
「俺だって信じたくない、こんな事が現実に有るわけがないんだ。出来れば夢であってほしいと思っている。
でもどう考えても答えは1つしかない」
広人はケイルをまっすぐ見据え
「年をとらない君たちは何者で、この村にはいったい何が隠されているんだ」
といった。それに答えてケイルも広人をまっすぐ見て
「そう俺達はけして年をとらないそして死ぬ事もない。そして未来を見て操る力を持っている」
と言った。広人は自分の思っていた事が現実となった驚きと、それ以上の現実に戸惑いを隠せずにいた。
「死なない…未来を見て操る力」
信じられない、でも何処かでそうかもしれないと思ってもいた。戸惑いを隠せない広人にケイルは続けて
「遥か昔…俺たちの先祖は自分達の国を侵略者から守るために悪魔と契約を交わしたんだ」
「悪魔と契約」
広人は自分の想像を遥かに越えそうな話しに驚き聞き入った
「彼が悪魔の力を手に入れたお陰で侵略者から国は守られた。でも思いもよらない誤算が生じた」
黙って聞いていた広人が言った。
「誤算って」
ケイルは窓に寄り添い外を眺めながら言った。
「その悪魔の力はあまりにも強すぎて彼の力では制御できなくなっていったんだ」
彼はだんだんとその力に呑み込まれて行き自分の意識を保つことが出来なくなって行った。
そしてある日、王宮に攻め入りなんの理由もなく目の前にいた国王夫妻、そして貴族達を見境なく惨殺していった。
首を切り落とされたもの、腕や足を切り落とされうめきながら這いずる物を背中から一刺しにする。
辺り1面は血の海と化した。
命からがら逃げ出した物たちも突然目の前に降り立った彼に首もとを引き裂かれ倒れた。
そして彼は村人にも襲いかかった。
人々の返り血を浴びて笑う彼の姿はまさに悪魔そのものだった。
その事態の重大さに気付いた一族は彼の愛する物を捕らえ囮にし、なんとか彼を幽閉し鎖でつなぐ事に成功した。
だが愛する人や一族に裏切られたと知った彼は息耐える前に呪いの言葉を吐いた。
呪いの言葉…
立ちつくして聞いていた広人が呟くとケイルは真剣な顔になり
「その血の続く限りお前達を呪い続けよう。
私を縛り付けたこの鎖のようにお前達を縛り付け懺悔と後悔の中で永遠に生きていくのだ」
広人は目を見開き身動き一つ出来ず聞いていた。
そんな広人を見てケイルはふっと笑った。
なぜ笑うんだ
広人が不思議に思うとケイルは
「いつの時代も真実は曲げられて伝わるものだ」
そのケイルの言葉に広人は驚いた。
「真実は曲げられて…それじゃあ今までの話は本当じゃないって事なのか?どう言う事なんだ」
そう広人が聞くとケイルは頷き
「彼は悪魔の力を持つ以前から人望に溢れていた。
そんな彼が強い力を手に入れますます国政に影響力を持てば、今までノウノウとしてきた奴等はどうなる?」
広人はアッと気付いた。
「その通り、今までの自分達の悪事がバレ権力を取り上げられ国の全てを支配されてしまう。
その事を恐れた大臣達が彼を陥れるために仕組んだ事だった」
ケイルは怒りを宿した瞳で話を続けた。
「真実はこうだ…」
ケイルは少し息を整え話し出した。
彼がほんの少し目を離したすきに国王夫妻は大臣達の手先に殺害された。
城内に走り込む青年、血だらけで横たわる護衛と国王夫妻がいた。
「何故だ、なぜこんなことになった。護衛が一人だと誰の仕業だ」
彼と国王は、彼の母親が国王の乳母だった事もあり兄弟のように仲がよかった。
彼は兄のように慕っていた国王を殺害した者を捕まえよう剣を抜き走り出した。
城内を抜け外に出ると大臣たちが戦闘部隊と共に待ち構えていた。
「国王殺しの犯人を捕らえろ」
その掛け声に向かってくる物たちを彼は泣きながら
「お前たちこそ許されると思うな」
と叫びながらなぎ倒していった。やつらは彼が動く事を予想しすでに待ち伏せをしていたのだ。そして
「良いのですか?この者がどうなっても」
奴等は彼の妹を囮にしたのだ。
「卑怯者」
彼は力なく跪いた。
大臣たちは彼に国王夫妻殺害、反逆罪、そして自分達の横領や内通の罪も全て彼に着せた。
そして一族を守りたいのなら彼を殺すようにと一族に迫った。
そのとき当主だった彼の父親は一族を守るために、やむにやまれず彼に反逆者という罪を着せたまま殺した。
広人は思わず
「そんな無茶苦茶な、無実じゃないか酷すぎる」
ケイルは悲しく微笑み
「一族を守るためにはそうするしか方法がなかったんだ」
ケイルの言葉に広人は何も言えなくなった。
「悪魔と契約をしたせいなのか一族の裏切りに対する彼の呪いのせいなのか、それからは一族に時々悪魔つきの子供が産まれるようになった」
「悪魔つき」
「そう悪魔つき、それは歳をとらず未来を見ることの出来る者」
ケイルの言葉に広人が
「年を取らず未来を見る事の出来る者その1人がケイル…君なんだな」
広人の言葉にケイルはうなづいた。
「やつらは一族に未来を見るものが産まれたと知ると、いつか自分達の地位を脅かされ仕返しをされるかもしれないと怖れた。
でも未来を読む力は欲しい利用したい。
そう考え雪深い山奥に一族を追いやり幽閉する事にした。
24時間ずっと見張りをつけ少しでも怪しい動きがある者は容赦なく罪を着せて殺していった」
広人はケイルの話を夢の中で物語を聞いているように感じていた。
彼に罪を着せて殺した報いだと、永遠に続く呪いなのだと覚悟し何百年も一族はひっそりと暮らした。
どれくらいたったのか気付くと世界中に戦争が拡大し戦禍が激しくなっていた。
一族はその現状に気付き逃げ出すのは今しかないと見張りの目を盗んで城を抜け出し海を越えた。
そして放浪のはてにやっとこの地にたどり着いた。
「ここにたどり着くまで何処にも居場所はなかったんだ」
ケイルの話を聞いていた広人が
「そんな思いをしてこの国に…この村に辿り着いたなんて。
もしかして君達は今もまだその呪いに縛られたままなのか」
と聞いた。その問いにケイルが
「ああ逃れられないこの血の続く限り俺達は人にはなれない。俺は吸血鬼…化け物なのだから」
広人は思いもよらない言葉に驚いた。
吸血鬼
広人は動揺のせいで視線が定まらずにいた。そんな広人にケイルは
「空想なんかじゃない、これは現実なんだ。
俺達は人の血を飲んで生きて来た。そして未来を見ることが出来る。
その力のおかげでこの村で生きていられたんだ」
と言い
「クロード来てくれ」
といつの間にか部屋のすみにいる黒沢を呼んだ。
「はいケイルさま」
広人は驚いて
確か平岩さんの…いつの間に
黒沢は広人に会釈をし
「わたくしの主は今も昔もケイルさまだけです」
と言った。息を飲む広人にケイルが
「君に頼みがある今すぐ彼女達3人を連れてこの家から出るんだ。逃げ道はこのクロードが教える」
「3人を連れて?今?」
「ああ今すぐだ、それともう一つの質問だが君を見てみんなが驚いた答えは君の持っている写真集にある」
写真集?
と広人が驚いていると
「そう写真家の天野新一郎。まさか彼の写したこの家が写真集に入っているとは思いもしなかった。この家にいたその彼に君はソックリなんだ」
広人は食い入るように写真集を見ていた結を思い出した。
「天野新一郎にそっくりだったのか、その彼もこの家にいたってみんな知っていたのか。でも懐かしそうにじゃない幽霊を見たように驚いていた。
まさか彼に何かあったのか?」
ケイルは目を伏せて
「彼は新一郎はもうここにはいない…殺されたいや俺が殺したも同然だ」
と言った。
広人はあまりの衝撃にただ立ち尽くすだけだった。ケイルは続けて
「新一郎はこの国で生まれてはじめて出来た友達だった。
それなのにその彼を俺は助ける事が出来ず見殺しにしてしまったんだ」
と言い広人を見て
「その新一郎の姪が麻衣子さんだ」
広人はその言葉にやっと全てのピースが揃ったような気がした。
「そう言うことか…だから麻衣子さんも俺を見てあんなに驚いていたのか」
やっと事態を納得した広人にケイルが
「麻衣子さんは新一郎の行方を知るためにやって来た。でも新一郎はもう生きてはいない。たのむ彼女に伝えてくれないか。
新一郎は死んだと…その新一郎の代わりにここから逃げ出し生きてほしいと」
「そんなの自分で言えばいいじゃないか未来が見えるんだろ、だったらこれからどうなるか分かってるんだろ」
と投げやりなケイルをしかるように言う広人を見てケイルはフッと笑い
「ああそうだな」
「それに変えられるかもしれないじゃないか」
広人の言葉に苦しそうにケイルが
「無理だ」
と叫んだ。
「何度も何度もやってみた、でもうまくいかなかったんだ」
突然のケイルの大きな声に広人は驚いた。
「何度も先回りしたり遠ざけたりした。この手を汚したこともある。でも結局は変わらない何も変わらなかったんだ」
そんなケイルに広人が
ずっともがいて、もがいて生きてきたのか
「分かった避けられない運命なら俺が変えてやる。だから生きろ」
と言うとケイルは悲しく微笑み
「君は…本当に強いな。さあ早く行けクロード頼んだぞ」
「かしこまりました広人さまこちらへ」
クロードが広人を促し歩き出した広人は立ち止まり
「諦めるなよ諦めたら終わりなんだからな」
と言い黒沢と部屋を出ていった。
本当にこれは奇跡なのか?もしかしたら運命を変えられるかもしれない
頼んだぞ広人彼女達の命を守ってくれ
ケイルは祈るように広人が去った扉を見つめた。





