止まらない悪意
こちらも重要なので短くなっています。
青白い月明かりに雪が光る真夜中、ケイルは人の気配を感じ目を覚ました。そこには月明かりを浴びて黒沢が立っていた。
「こんな時間に申し訳ございません」
と黒沢はひざまづいた。
ケイルはベッドから起き上がりゆっくり黒沢に近付いて行った。
「クロード…俺こそすまないお前が忙しいのを知っていながら呼び出してしまった」
とケイルは言い黒沢にソファに座るよう促し向かいに腰掛けた。
「クロードお前に頼みがある」
ケイルの真剣な表情に黒沢は全てを感じ取った。
「いよいよケイル様が長い間待っていた全てが終わる時が来たのですね」
黒沢はケイルを見つめた。
「ああ、クロードいよいよだ…これから何が起こってもあの約束だけは守ってくれ頼む」
ケイルの真剣な瞳に黒沢は吸い込まれそうだった。黒沢は頷き
「かしこまりました、この命の有る限り必ず約束は果たします」
と誓った。そんな黒沢を見つめケイルは遠い目をして懐かしそうに
「クロード、お前がこの城に来てからもう60年以上たったんだな」
と言った。黒沢も懐かしそうに
「もうそんなに経ったのですね。あの頃の私は孤児院から脱け出し色々な街を転々としここに辿り着いた時には全てを諦めていました。
そんな私をケイルさまが救ってくださった。
あの日始めて安らげる場所が見付かり本当に嬉しかったのをつい昨日のように覚えております」
当時10歳だった黒沢は外国の血が入っていると言うことで、孤児院でも里親先や学校でもいじめや虐待を受けていた。
味方に付いてくれる者もいたがその者達も最後には見て見ぬふりをするようになった。
黒沢には信じられる人が1人もいなかった。
そしてあの日、大型台風が接近していた夜。
納屋につながれていた黒沢は縄を引きちぎり血だらけのまま雨のなかに飛び出した。
家のものは納屋にいる黒沢よりも自分達の身が大切なやつらだ。黒沢が逃げ出したことに全く気付いていなかった。
そんな大雨と強風の中、黒沢はあてもなく何処までも何処までも歩いていた。
雨は容赦なく体温を奪う、それでも振り返ることはできない。
何日も沢の水を飲みやっと台風がおさまった夜中、民家の畑に盗みに入り台風で傷んだ野菜を盗み山のなかに隠れた。
警察に助けを求めて里親に預かってもらうことも出来ただろう。でも黒沢は今まで味わった虐待の恐怖で誰も信じられなくなっていた。
もうたくさんだ、これ以上悲しみや苦しみのないどこかに行こう
黒沢は痩せ細った腕を見ながら
フッと笑い、一本だけ通っている広い道の側で通る車を待っていた。
何日か過ぎたあの日、車のライトを見つけた黒沢はやっと死ねると暗闇の中飛び出した?
突然何かが飛び出してきた事に驚き運転手は急ブレーキをかけたが間に合わず黒沢はその車の下敷きになった。
慌てて車から出てきた少年が
「お願い助けさせて」
もう一人に頼み込んでいる。
こんな僕のために頼んでくれるなんて、最後に嬉しいことに出会えた
と黒沢は気を失った。
その車に乗っていたのが結とケイルのおじの平岩家先代であり、助けようと言ったのはケイルだった。
おじは一族のなかで一番厳しく一番優しかった。血のつながらないケイルのこともただ一人受け入れ密かに村に連れて行ってくれたことがあった。
半年に一度村に隠れていく日、黒沢が飛び込んだのはまさにその日でケイルがのっていたのだ。ケイルはおじに頼み込み瀕死の黒沢を死の縁から助けた。
「ケイルさまが助けてくださらなければ今の私は生きておりません」
黒沢はケイルを見つめ言った。ケイルは哀しい瞳をして黒沢を見て
「そのせいでお前は人ではなくなったうえに結と同じように朽ち果ててしまう宿命を背負ってしまった」
ケイルの言葉に黒沢は
「とんでもございません何処にも行く宛のなかった私を必要として置いてくださった。それだけで十分すぎるほどです」
黒沢はソファからおりひざまづいた。ケイルは優しく微笑み
「ありがとう…すまない」
と言った。黒沢はケイルに微笑み返し
「私はケイルさまが望むのならどんな未来も受け入れる覚悟は出来ております」
そう言いケイルを見た。ケイルは哀しそうな瞳になり
「どんな未来でもか…俺が選ぶことができる未来は決まっている。何があっても結からは離れられない…結も俺のせいで…結が一番の犠牲者なんだ」
と言い天井を見上げた。それはこぼれ落ちそうな涙を隠す為だった。
黒沢はそれに気付き見ないようにうつ向き言った。
「約束は必ず果たします。実加さまを、その血が受け継がれる限りわたしの命が果てる日までお守り致します。
ですから、もうご自分を責めないでください」
黒沢は強く自分に言い聞かせるように言った。ケイルは立ち上がり黒沢の肩を抱き
「お前は昔と変わらないな真っ直ぐで…俺はお前が羨ましかったのかもしれない。
お前はいつまでもそのままでいるんだぞ」
私は私のままで
「ああ自分らしくな」
ケイルの言葉に黒沢は照れくささと嬉しさが混ざりあい、そっとケイルの肩に額を置いた。そんな2人を優しく月明かりが照らしていた。
だがそれはこの城を包むように黒い影となり迫っていた。





