黒い羽
怒濤のラストの手間で、短めになっています。
昼食を済ませた麻衣子と実加と奈月は洗い物をすませて部屋に戻った。
「結さんけっこう具合悪いのかな?」
奈月が言うと美加が
「そうね一歩も部屋から出てないみたいだし、さっきばあやさんが昼食を持って行ったわ」
2人の会話を麻衣子は夢の中で聞いているように感じていた。
「麻衣子…大丈夫?」
実加が心配して聞くと慌てて麻衣子が
「えっ大丈夫だよ」
と言った。そんな麻衣子をおかしいと思った奈月が
「なんかあったでしょ…あっおじさんの事が分かったとかどうなの?」
と聞くと麻衣子は真っ赤になっていった。
なに?この反応は
奈月は目を点にして麻衣子を見ている。
「何があったの」
戻ってきたとき昨日の夜と同じ香りがした麻衣子。またあの人にあったのだと美加はたまらず問いかけた。その問いかけに
「叔父さんの事はまだ…でもねやっぱりこの家にはもう一人いたの」
麻衣子がそう言うと実加の表情が変わった。奈月が
「何で照れてるの?もしかして言ってた声の人なの」
と聞くと麻衣子が
「うん本当に偶然会ったのよ」
「へーでどんな人だったのよイケメン?ねえねえ」
と奈月が言うのでますます赤くなった麻衣子はコクンとうなずいた。ききゃーと騒ぐ奈月とは対照的に考え込んでいた実加が
「その人は結さんと関係のある人なのよね」
と言うと良く分かったわねと美加を見て
「そうよその人は結さんのお兄さんよ」
と麻衣子が言うとやはりと美加は目を閉じた。麻衣子の言葉に奈月はキョトンとして
結さんのお兄さん?
と思っていると麻衣子は眉間にシワを寄せ
「名前はケイル…ケイル・アシオン、ド?」
「ド?」
と奈月が聞きなおすとあきらめた麻衣子は
「とりあえずケイルって言うの」
少しむくれて麻衣子が言った。
奈月が麻衣子にどんくさいと喧嘩を吹っ掛けていると実加は複雑な表情をして
ケイル・アシオン・ヴァルカスキ=ドヌーヴ…やはり居たのね
と呟いた。
その頃ばあやは昼食を持ち結の部屋の前にいた。
そして扉を開け中に入ると白い部屋着の結が姿見の前に静かに立っていた。
ばあやはサイドテーブルに昼食を置き結に声をかけた。
「結さま…昼食でございます。暖かいうちにお召し上がりください。他に何かご入り用の物はございますか?」
ばあやが聞くと結は姿見から目を離さず振り返りもせずに
「ばあや…すぐに手袋を用意してほしいの出来れば肘までのを」
結のその言葉にハッと気付いたばあやは
「手袋でございますね…かしこまりましたすぐにご用意いたします」
と言い出て行こうとした。そのばあやを結は引き止め
「ねえこっちに来て見てくれる?」
近寄るように言った
「見てとうとう手の甲にもアザが現れたわ背中なんて肩から腰までよ」
結はタダレた左手を掲げばあやに見せるとばあやはその手を見て息を飲んだ。
そんなばあやをちらりと見て結は続けて
「ねぇあなたに分かる?生きたまま激痛のなか徐々に体が醜く腐り朽ち果てていく苦しみが」
そう言いばあやを冷ややかな目で見た。ばあやはただ立ちつくすだけだった。
そんなばあやを見て結は小さく笑い
「分かるわけないわね…あなたは年相応に老いていき命を終わる事が出来るのだから」
ばあやは静かに
「用意をしてまいりますので」
と言い去ろうとすると、結は姿見をおもいっきり倒した。
辺りには鏡の破片が散らばりキラキラと輝いている。
「すぐに片付けますので、隣の部屋にお移りください」
そんなばあやを結は苦々しく思い
「そうね、私にはけして出来ない事があなたには出来るのだから、これくらい大したことじゃないわよね」
結の言葉の意味を分かり過ぎるほど分かっているばあやは黙って聞いていた。
「もう良いわ下がりなさい」
ばあやは静かに部屋を出ていった。
結は散らばった破片に写る自分の姿を見て突然笑い出した。
ほら、私は昔のままだわ
あの頃のまま、それなのにばあやに老いる事に嫉妬するなんて私ったら馬鹿だわ
「でももし普通に年を取れていたら今の私は何をしていたのかしら」
そう言い窓の側に近寄り写り込む自分の姿をじっと見て
そうよあの頃は何もかもが希望にみち輝いて幸せだった
全てが愛に満ち足りていた、でもあの日を境に変わってしまった
あれからどれくらい月日がたったのか、もう自分が何歳なのかも分からない
つい昨日の事のようで遥か昔の事のようで…
私は選ばれた一族だ永遠を手に入れた特別な人間なんだとそう思う事でしか生きられなかった
「ケイルあなたは私を見捨てたりしないわよね、けして一人にしないわよね」
悲しく切なく2人をつなぐ鎖。
真っ白な景色を見ながら結はたったひとりで朽ち果てて行く事に…怯えていた。
少し吹雪がやみ広人達の車がやっと館に帰りついた。
急いで車から荷物を下ろし家の中へと運び込んだ。
そこに白い手袋を持ったばあやが現れた。
「みなさんお世話になりましたね、荷物を運び終わったらしばらく休むとよいでしょう。広 人さまもお部屋でゆっくりお休みください」
そう言われ料理長は
「そうだな夕食の用意までみんなしばらく休憩だ…広人さま今日はありがとうございました」
と言い料理人達をつれて去っていった。田所もゆるゆると歩き出し
「私も少し休むとしますかね。では広人さま後程」
と言い去っていった。
「じゃあ俺も」
と広人は去ろうとしてばあやの持っている白い手袋に気付いた。
「それ…手袋ですか?すごく長いですね」
広人の質問にばあやは
「そうですね」
とだけ言い去っていった。
また余計なこと聞いてしまった
と広人は思ったが、ふいに睡魔におそわれ疲れた体を引きずり部屋に向かった。
部屋に戻った広人は携帯を取り出し電源を入れてみたがやはり圏外のまま。
やっぱりダメか…仕方がないな
携帯を鞄に戻しベッドに横になると広人はすぐ深い眠りに落ちていった。





