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93:きっといつかは分かるよ 雨宮怜視点

 目が覚めると、私は学校の屋上に立っていた。

 いや、立っていたという表現が正しいのかも、良く分からない。

 だって……地面に足が、着いてないから。


「……」


 私は呆然と、自分の足元を見下ろした。

 地面に足が着いてないというか、膝から下が無い。

 と言っても、切断されているとかではなく、なんというか……膝から下だけ見えなくなっているというか……。


 足だけじゃなくて、体全体の感覚が曖昧だった。

 五感が麻痺しているというか……風が吹いているのに、何も感じない。

 重力もそこまで感じないものだから、まるで、無重力の中を漂っているような……不思議な感覚がある。

 だけど、膝より下が無いだけで、一応地面にはちゃんと立てているし……。


「……何これ……」


 小さく呟いた私は、そこで、ハッと自分の首に触る。

 私……今……喋って……。

 ということは、喋れる……? 声は、出せるのか……!?


「あー、あー……」


 何度か声を出して、私は微かに目を見開いた。

 ……声は出る……!

 それに、体も生きていた頃と同じようには動かせるみたいだ。

 私は首に当てていた手を外し、その手で制服の裾を握り締めた。


「……すぅー……はぁー……」


 小さく深呼吸をして、私は一歩歩き出す。

 足先が無くて違和感はあるが、見えていないだけで、足のようなものはあるらしい。

 見えない足らしきものを動かし、私は前に進んだ。


「ッ……!」


 強く息を吐き、私は左手を突き出した。

 次の瞬間、その手は柵を貫通する。

 否、私の手が……柵を擦り抜けた。


「ひッ……!?」


 小さく悲鳴を上げながら、私は反射的に手を引っ込める。

 それから、すぐに自分の手を確認した。

 さっき、私の手は明らかに柵を貫通していた。

 ……にも関わらず、私の手は疎か、柵にすら傷一つ付いていないのだ。


 何度か左手を握ったり開いたりしてから、ギュッとその手を強く握り締めた。

 ……確信した。

 私は……幽霊になったんだ。


 と言うことは……自殺は成功した、ということか。

 まさか、幽霊になるなんて思わなかったけど……。


 ……これからどうしよう。

 まさか、幽霊になるなんて、考えてもいなかった。

 この腐った世界から逃げたくて自殺したのに、こんな形で縛りつけられることになるとは……。

 そもそも……幽霊って、何をすれば……。


「あれ? 新入りさん?」


 背後から声を掛けられて、私はビクッと肩を震わせた。

 慌てて振り向くとそこには……――


「……うわぁ……」


 ――……金髪ギャルがいた。

 長い髪を金色に染めており、制服をかなり着崩している。

 原型を留めていないくらい着崩されたそれは、辛うじて私と同じ学校だと分かるレベルだった。

 顔には、薄い化粧が施されている。


 ……コイツは何者なんだ?

 そもそも、同じ学校の人間が、なんでここに……。

 色々と動揺していた私の視線は、ゆっくりと下がって行き……彼女の足元で止まる。

 “それ”を見た瞬間、私の目は大きく見開いた。


「……幽霊……?」

「そ。貴方と同じ、ね」


 飄々とした態度で言うギャルを目の前に、私は言葉を失った。

 ……私以外にも、幽霊が……!?

 そういえば三月くらいに、二年生の先輩が一人亡くなった……みたいな話をしていたっけ。

 私には直接関係無いことだから、ほとんど聞き流していたけど……もしかして、あの先輩……?

 不思議に思っていた時、先輩がズイッと顔を近付けてきた。


「わ……!?」

「ね、貴方は自分の名前って分かる?」

「へっ?」


 突然の質問に、私はつい、素っ頓狂な声で聞き返す。

 すると、彼女はヘラヘラと笑いながら、頬を掻いた。


「いやぁ、何か良く分かんないんだけど、私は記憶が全くないんだよねぇ。ギリギリ名前くらいは分かりそうなものは持ってるんだけど、どっちがどっちか分かんなくて」

「……名前が分かりそうなもの……ですか……?」


 なんとなく敬語で聞き返すと、彼女は「ん」と頷き、ゴソゴソと制服のポケットを探った。

 少しして、スマートフォンを取り出し、その背を私に見せた。

 そこには、プリクラが貼ってあった。


「ホラ、これ。多分どっちかは私だと思うんだけど……」


 その言葉に、私はそのプリクラをジッと凝視する。

 するとそこには、二人の少女が写っていた。


「ホラ、私幽霊だから、自分の姿って鏡とかで見れないでしょ? だから、どっちが私なのか分かんなくて」


 その言葉に改めて見てみると、確かに片方は彼女の面影を残した黒髪の少女が写っていた。

 多分完全なすっぴんの状態なんだろうけど、目の前に入る少女の髪を黒くして化粧を落としたら、コレになりそう。


 ……ってか、今まで気にしないようにしていたけど、この学校って服装に厳しいよね?

 こんな派手な恰好してて、先生に注意とかされなかったのかな……。


 ひとまず気にしないようにして、もう一人の方に視線を向けてみた。

 そちらは黒髪の方よりも少し幼い感じの子で、パッと見小学生くらいに見える。

 だけど、二人共同じ制服を着ているから……同級生、なのかな?

 ……見た目幼いなぁ……。


 黒髪の方の少女のところには、平仮名で『なぎさ』と書いてあり、幼い方の少女には同じく平仮名で『かおる』と書いてあった。


「えっと……こっちが、貴方だと思うんですけど……」


 私はそう言いながら、『なぎさ』の方を指差す。

 すると、彼女は私が指さした方を見て、「ほぉー」と感嘆の声を漏らした。


「こっちが私かぁ……ということは、私の名前はナギサで良いのかな?」

「……多分、そうだと思いますよ」

「ふーん……じゃ、私はナギサ! で……えっと……貴方は自分の名前とか分かる?」


 ナギサさんの言葉に、私は答えようとして、声に詰まった。

 ……幽霊って……もしかして、記憶が無いのが普通なのだろうか……。

 もしも私が異常だとしたら……どうしよう……。


 ……独りは怖い。

 もう独りになんてなりたくない。

 そんな記憶の有無で、疎外などされたくない。


「わ……私は……」


 だったら、答えは一つだ。

 独りにならないための、最善手。

 それは即ち――


「私も……記憶、全然ないんですよ……!」


 ――……本音は隠し、笑顔で人に合わせること。

 生きている間に気付けなかった、模範解答。

 笑顔の裏に本音は隠し、嫌われないように自分を偽る。

 異端になるな。異常と化すな。皆に合わせて、笑え。

 笑えッ!


「そっかぁ……じゃ、自分の名前が分かってる分、私の方がちょっとだけリードしてるかな?」

「そうですね……良いなぁ、自分の名前が分かって。羨ましいです」

「ほっとんど偶然みたいなもんだけどね~。ま、レイちゃんの名前も、きっといつかは分かるよ!」


 ドキッ、と、心臓が音を立てたような錯覚がした。

 れ、レイちゃん……?


「え、あの……レイちゃん……とは……?」

「ん? あー、貴方の呼び方。何も名前が無いと呼びにくいし……仮の名前?」

「で、でも、レイって……」

「ん~? まぁ、幽霊だから……略してレイ! ユウでも良いけど……レイちゃん可愛いし、女の子っぽい呼び方の方が良いかと思って」

「えぇ……そんな、可愛くなんて無いですよぉ」


 ヘラヘラと笑って否定しつつも、内心はかなり動揺していた。

 ……ビックリした……。

 一瞬、本名を知られているかと思った。

 死んでいるから心臓なんて動かないけど、生きていたら、今頃心臓は爆音を立てていることだろう。


 私は一度息をつき、気持ちを切り替える。

 ……目の前にいる女は、生きていた頃の私を知らない。

 というか、記憶が無い。

 だからこそ……死んだ後くらいは、上手くやってやる。

 さぁ、本音を仮面の下に隠して……――


「……では、私の仮名はレイと言うことで……これからよろしくお願いします、ナギサさんっ!」


 ――……笑え。

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