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6:ただの独り言

 あれから弁当を食べながら、今後のことを話した。

 まず今後の密会場所だが、これに関しては引き続き屋上で行うことにする。

 屋上は基本的に施錠されているが、まぁ、私がなんとか先生を言いくるめて鍵を貸してもらうことにする。

 元々教室の中は苦手だし、どっちにしろ屋上みたいな、誰もいない場所が私には必要なのだ。


「じゃあ、明日からも引き続き屋上で集合ということで」

「おっけ。ま、あたし達が神奈ちゃんの教室に行くってのも手ではあるけど」

「……却下で」


 とんでもないことを言い出すナギサに、私はそう言いながら、空っぽになった弁当箱を片付ける。

 すると、ナギサはケタケタと愉快そうに笑いながら「冗談だって」と言う。

 冗談に聞こえなかったぞ、おい。

 流石に教室まで来られたら困る。話しかけられたりしても答えられないし、もし咄嗟に答えたりしたら、何もない空間に話しかけるヤバい生徒になってしまう。

 ただでさえ如月さん以外からはロクに話しかけても貰えないのに、さらに距離を取られてしまうじゃないか。

 下手したら、如月さんだって私に話しかけてくれなくなる。

 教室に来る、ダメ、絶対。


「……それで、これからどうやってレイちゃんの記憶を取り戻すわけ?」


 すると、ナギサがそう聞いてきた。

 彼女の言葉に、レイは「そういえば」と言いたげな表情で私を見てくる。

 二人の反応に、私は顎に手を当て、しばらく考えてから口を開いた。


「ひとまず……レイには一切情報が無いんですよね。この学校の制服を着ていたから、この学校の生徒ではあるんでしょうけど、それ以外は分からないです。何年生だったのかも、何年前の生徒なのかも、何歳なのかも」


 私の言葉に、レイはシュン、とした表情を浮かべた。

 そう、彼女の情報が圧倒的に、足りないのだ。


「この学校の過去の生徒だとしても、それなりに歴史はある学校だし、そんな中から見た目だけで探そうと思っても膨大な数になって……ハッキリ言って無謀です。せめて享年か名前さえ分かれば、なんとか調べられると思うんですが……」

「……あれ? 名前知らなかったの?」


 私の言葉に、ナギサがそんな風に聞いてきた。

 顔を上げると、彼女は続けた。


「いや、だってレイって呼んでるし……名前分かったのかと思って」

「……レイ、名前の由来、説明してなかったんですか?」

「は、話した方が良かったですか?」


 私の言葉に、レイは申し訳なさそうに言ってくる。

 彼女の言葉に、私は頷く。

 すると、彼女はペコペコと頭を下げながら「ごめんなさい!」と謝る。

 全く……。


「まぁまぁ、責めないであげてよ。この子、名前付けてもらってすごく嬉しそうだったからさ、名前の由来なんて些細な問題だったみたいよ?」

「ちょ、ちょっとナギサさん!」


 フォローするように言うナギサに、レイは顔を真っ赤にしながら声を上げた。

 まぁ、仕方がないことかもしれない。

 記憶も全部失って、幽霊の友達はいても、記憶だけはどうしようもなくて、幽霊以外に頼れない状況。

 途方に暮れている時に自分を助けてくれるかもしれない人間が現れた上に、仮称とはいえ名前を付けてもらって……逆の立場なら、相当喜んでいたかもしれない。

 そもそもナギサの勘違い自体些細なものなので、責める必要も無い。

 私はため息をつき、口を開いた。


「まぁ、大した問題でもないですし、構いませんよ。……レイって名前は、幽霊を略してレイって付けたんです。本名どころか、名前の由来も適当な、安直な名前ですよ」

「なるほど、ねぇ。じゃ、結局レイちゃんの名前の手掛かりは一切無しかぁ」


 落胆するように言うナギサに、私は頷く。

 そこで、レイに名前を付けた時のことを思い出す。

 ……そういえば、最初はユウって名前を付けようとしたんだっけ……。

 でも、レイの方がしっくりくるって言うから、レイって……。


「結城さんっ」


 何かが分かりそうだったその時、名前を呼ばれた。

 顔を上げると、そこにはなんと、如月さんがいた。


「き、如月さん?」

「結城さんこんな所にいたんだぁ。教室にいないから心配したんだよ?」


 そう言って微笑む如月さんに、私は自分の胸が熱くなるのを感じた。

 もしかして、わざわざ私を探しに来てくれたんだろうか?

 学級委員長だし、正義感の強い彼女のことだから、単純に一人のクラスメイトを心配して来てくれたんだろうけど……それでも充分嬉しい。

 私を、他のクラスメイトと同じように扱ってくれるのだから。


「ご、ごめん……」

「もう授業始まっちゃうし、教室に帰ろう?」


 そう言って手を差し出してくれる如月さんに、私はしばらく硬直した。

 ……初めて、自分から私に触れようとしてくる人を、見た気がする。

 左目がこうなってから、皆私に触れることすら避けてきた。

 しかし彼女は、そんなこと些細なことだと言わんばかりに、私に手を差し出してくれた。

 当然これも、彼女からすればなんてことない普通のことなんだろうけど……私からすれば、かなり嬉しかった。


「……うんっ」


 大きく頷き、私は如月さんの手を取った。

 それから彼女に手を引かれて立ち上がり、二人で屋上を後にした。

 急に帰ってしまうのはレイ達には申し訳無いが、流石に分かってくれるだろう。


 屋上への扉に鍵を掛け、その鍵をブレザーのポケットにしまい、私は階段を下りる。

 如月さんは私が鍵を閉めるまでの間、ずっと待っていてくれた。

 私が隣に並ぶのを見ると、それに合わせて歩き出す。


「そういえば、結城さん。屋上で誰かと話しているっぽかったけど……誰と話していたの?」


 屋上からの階段を下りながら、如月さんはそんな風に聞いてきた。

 彼女の言葉に、私は一瞬言葉を詰まらせ、しばらく考える。

 ……彼女が良い人であることは分かっているし、歩み寄りたいとも思っている。

 でも、きっとこのことだけは信じて貰えないから、私は今日も嘘をつく。

 自然に微笑みながら、私は口を開いた。


「……なんでもない。ただの、独り言」

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