5:お話しましょうか
学級委員決めは順調に進み、時間内に全ての学級委員を決めることが出来た。
普通こういうものは、いくつか決めるのに時間が掛かる役員が出てくる印象はあるが、今回はそこまで掛からなかった。
多分その要因は、主に如月さんだと思う。
彼女は学級委員長に自ら立候補し、そこからその手腕で皆を纏め、素早く全ての学級委員を決めてしまったのだ。
……凄いなぁ、彼女は……。
私を差別しない辺り良い人だとは思っていたが、それだけでなく、基礎的な能力が全て高い気がする。
そんなハイスペックな人に、自分から話しかけてもらえるなんて……私は幸運だ。
しかし、やはりと言うべきか、彼女は男女問わずかなり人気が高かった。
この学校が特別なのか、高校が基本的にそういうシステムなのかは分からないが、三時間目が終わると昼休憩になる。
当然のように如月さんの周りには人が集まり、一緒に昼食を食べたいと望む人に囲まれていた。
……本当は私だって、彼女と食べたい。
でも、あの中に入る気にもなれないし、そもそも私なんかじゃ彼女とは不釣り合いだ。
話しかけられたからって、調子に乗ったらダメ。
……私なんかじゃ、如月さんには釣り合わないし。
というわけで、そもそも友達とか絶対出来ないと思っていた私は、今まで通りぼっち飯をすることになる。
今までは便所飯とかしていたし、今朝まではそのつもりだったんだけど、今は違う。
私は弁当を持ち、早歩きで屋上に向かった。
正直、レイの問題はさっさと解決しておいた方が良い。
そのためにも、少しでも多く彼女と会話したりして、情報収集をしたいところだ。
というわけで、私は屋上の扉を開き、外に出た。
「……あっ、結城さん!」
私がやってきたのを見た瞬間、レイはパァッと明るい笑みを浮かべた。
それに私は軽く手を挙げ挨拶をする……が、レイの隣にいる少女を見て固まった。
髪は金髪で、制服は原型が分からないくらい着崩されている。
かろうじて同じ学校だと分かるレベルだ。
何だアイツは……先客?
いや、屋上の鍵は私が無断で借りっぱなしにしているため、ここに入れるはず……あぁ、幽霊か。
よく見れば膝から下が無い。何だ、ただの幽霊か。
……って、学校ってそんな当たり前のように幽霊がいるものだっけ?
中学にはいなかったから、よく分からん。
「えっと……その人は?」
「あぁ、この人は……」
「おっ、アンタが幽霊が見えるっていう子?」
金髪ギャル幽霊はレイの説明を遮るようにそう言いながら私に近付き、顔を覗き込んでくる。
それから、舐めるように私のことを観察してきた。
……やはり、誰かにジロジロと見られるのは嫌だ。
ここはハッキリ断るべきだと思い、私は口を開いた。
「あの……あまりジロジロと、見ないで下さい……人に見られるの、苦手なんです……」
「ん? あっ、ごめん。幽霊が見えるなんて珍しいからさ」
そう言って両手を合わせて謝るギャルに、私は溜息をつく。
なんていうか、憎めない人だな、と思った。
見た目はギャルだし正直苦手な人種のはずなんだけど……よく分からないな。
「それで……えっと、貴方は?」
「ん? あぁ。あたしはレイちゃんの幽霊友達のナギサ! よろしく!」
そう言って軽く敬礼をするナギサに、私はキョトンとした。
えっと……聞きたいことは色々あるけど、ひとまず……。
「……自分の名前、分かるんですか?」
「ん? あー、まぁね。分かるっていうか、多分私の名前……って感じなんだけど」
「多分?」
「これ見て」
そう言って、ナギサはポケットからスマホを取り出し、裏面を私に見せてきた。
すると、そこには一枚のプリクラが貼ってあった。
最初は誰なのか分からなかったが、どうやらナギサが友達と撮ったプリクラらしかった。
しかし、ナギサの髪が黒く、化粧をしていなかったため、少し理解するのに時間が掛かった。
ナギサの隣には、友人らしき可愛らしい女の子が立っていた。
ナギサの下には『なぎさ』と手描きの文字で書かれており、隣の女の子の下には『かおる』って書いてある。
「このかおるっていうのは……友達ですか?」
「さぁ? 私が死んだ時に壊れたのか、このスマホ使えないし……確かめようが無いんだよね」
そう言って、ナギサは手に持ったスマホを指で軽く叩く。
しかし、見たところ画面もかなりひび割れており、使えない様子だった。
「ふぅん……じゃあ、次の質問ですけど、レイの幽霊友達っていうのは?」
「文字通り、あたしとレイちゃんは幽霊同士でのお友達! ……お互いこの辺で死んだのか、なんだかんだ顔を合わせる機会が多くてね? お互い記憶もなくて右も左も分からないような状況だし、何度か話している間に、仲良くなったわけ」
「……なるほど……」
ナギサの言葉に、私は呟く。
……レイには、友達とかいるんだ……。
そう思うと、なぜか少しだけモヤッとした。
……うん? モヤ? なんでだろう……?
如月さんが囲まれているのを見た時は、こんな気持ちにならなかったのに……。
「うーん……じゃあ、あたしからも質問して良い?」
「あ、はい。どうぞ?」
「んーっと……神奈ちゃん、だっけ? 君は……なんで幽霊が見えるの?」
「ナギサさん!」
ナギサの質問に、レイがそう声を上げた。
彼女は私とナギサの間に入り、ワタワタと両手を慌ただしく動かした。
「それは聞いたらダメって言ったじゃないですか! 結城さんだって言いたくないって言ってたんです!」
「えー、じゃあ君は気にならないの? 神奈ちゃんがなんで幽霊が見えるのか」
「気になりません! 結城さんが言いたくないならそれ以上は聞きませんから!」
真剣にハキハキと答えるレイに、私は面食らう。
なんていうか、ここまで全面的に私の味方をされるとは思ってなかった。
レイとナギサがいつ頃死んで、どれくらいの期間仲が良かったのかは知らないが、少なくとも私よりは面識がある方だ。
それなのにここまで私の味方をしてもらえるとは……何だろう、凄く嬉しい。
「えっと……ホントすみません。これに関しては、言いたくないです」
「そっか……まぁ、レイちゃんにも神奈ちゃんにも嫌われたくないし、これ以上は何も言わんよ」
そう言ってナギサはヒラヒラと手を振り、笑った。
彼女の言葉に私は小さく笑い、弁当を両手で持った。
「じゃあ、とりあえずそろそろお昼ご飯も食べたいですし……ご飯でも食べながら、今後についてお話しましょうか」