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4:話しかけたかったから

 休憩時間になったばかりの廊下は、すでに喧騒に溢れていた。

 廊下にいた生徒は一人残らず、鞄を持って歩いて来る私を物珍しそうに見ていた。

 私はそんな視線から逃げるように、自分の教室を見つけ、扉を開けて入る。

 前の扉からだと目立つので、後ろから。


「ッ……」


 扉を開けた瞬間、一斉に視線を浴びた。

 教室の中を埋め尽くしていた喧騒は止み、全員が私を見てくる。

 もしこの教室にいる全ての人の目にレーザー機能が備わっていれば、この一瞬で確実に私は丸焦げになっていただろう。

 そう断定できるほどの視線を、私は集めていた。


 ……さっさと席についてしまおう……。

 私は足早に、自分の席に向かった。

 五十音順で組まれた出席番号では、私は一番最後になる。

 席順は出席番号順になっており、私の席は窓際の一番後ろだった。


 私が席についたことを皮切りに、少しずつ静寂は消え、教室は喧騒を取り戻していく。

 皆の視線が自分から逸れていくのが分かり、ホッと安堵する。

 と、同時に、体から力が一気に抜けるような感覚があった。


 ……緊張した……。

 中学時代からのことだから、少しは慣れても良いものなのかもしれないが、一向に慣れることは出来ない。

 どうしようもない問題ではあるんだけどさ……やっぱり、私が慣れるしかないよね……。


「はぁ……」

「結城さん……だよね?」


 溜息をついた時、突然、声を掛けられた。

 今まで誰かから積極的に声を掛けられたことなど無かったため、私はビクッと肩を震わせ、顔を上げた。

 するとそこには、髪を一つ結びにした女の子が立っていた。


「……えっと……?」

「初めまして、結城さん。私は如月(きさらぎ) 沙希(さき)


 そう言って、如月さんはニコッと可愛らしい笑顔を浮かべた。

 突然の自己紹介に、私は彼女の顔を見つめたまましばらくフリーズする。

 すると、彼女はその笑みを緩め、「えっと……」と口を開く。


「もしかして……迷惑だった?」

「あ、ううん。そうじゃなくて……なんで、私に声を掛けてきたのかな……って、思って」

「えっ? 話しかけたかったから、以外に理由があるの?」

「……いや……」


 当然のように言う如月さんに、私はそう言いながら目を逸らす。

 なんていうか、こんな人は初めてで、変な感じだ。

 いや、中学の時も自分から話しかけてくる子が全くいなかったわけではない。

 だが、大抵は面白半分だとか、好奇心からの冷やかしのような感じだった。

 そういう人間の視線は大体私の髪色や眼帯に向いており、ハッキリ言って不快でしかなかった。


 しかし……如月さんには、そんな感情が一切湧かなかったのだ。

 理由とすれば、彼女の目が私の眼帯や髪に一切向いていないから。

 無理して見ないようにしている感じでも無く、彼女はごく普通に私の右目を見て話していた。

 ここまで自然に、しかも友好的に話しかけられた経験など無かったので、正直かなり驚いている。


「それにしても結城さん、大丈夫?」

「えっ?」

「二時間も授業休んだから、体調悪いのかなって……」


 心配そうに尋ねて来る如月さんに、私は口ごもる。

 正直、如月さんのことは……信用したい。

 彼女みたいな人は初めてだし、もう会えるか分からない。

 だからこそ彼女のことは大切にしたいし、仲良くなりたい。


 でも、休んだ理由だけは、正直に言う気になれなかった。

 大体、本来なら二時間目の授業には参加する予定だったのに、レイの相手をしていたせいで遅くなってしまったのだ。

 何て説明すれば良い? 眼帯の下を先生に見られたせいで情緒不安定になり、外の風に当たりに屋上に行ったら幽霊に出会って雑談に花を咲かせていた?

 普通に頭おかしい奴でしょ、私。


「あぁ……ちょっと、気分が悪くなっちゃって……でも、二時間も休んだんだし、もう大丈夫」

「そう? 良かった」


 如月さんがそう言って笑った時、三時間目の授業開始のチャイムが鳴った。

 それに如月さんは「あっ」と声を漏らし、私を見た。


「じゃあ、また次の休憩時間に」

「う、うん」


 優しい口調で言う如月さんに、私は頷く。

 彼女が自分の席についた時、教室に担任が入ってきた。

 如月さん、ギリギリセーフ。


 それにしても、あんなに良い子が仲良くなりたいって言ってくれるなんて、なんか嬉しいな。

 今まで良い子どころか、普通に話しかけてくれる子自体いなかったから。

 私は眼帯に手を当て、軽く撫でる。

 ……これから仲良くなって……如月さんのこと、信じられるようになったら……いずれは、この眼帯の下も……。


 ……いや、流石に無理か。

 この眼帯の下だけは……誰にも見せられない。

 どれだけ信用出来る人でも……絶対に……。


 そんな風に考えていると、先生が教室のホワイトボードに何かを書き始めた。

 書かれている文字を見た感じ、学級委員を決めるらしい。

 まぁ、中学時代から私には無縁な話だし、静かに過ごしておくか。


 机に頬杖をつき、なんとなく教室の様子を眺める。

 ……すると、一番廊下側の列の一番前の席に、空席があることに気付いた。

 出席番号一番の人、か……休みか?

 そういえば、入学式の日も休んでいた気がする。

 ……不登校……か……?

 でも、引きこもり不登校児がわざわざ高校なんて入学するかな?

 ……レイ以外にも、面倒事がありそうだな……関わらないようにしよ……。

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