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22:貴方のことが欲しくなる 如月沙希視点

 昼休憩からの三時間。

 結城さんを観察してみて、分かったことがある。

 まぁ、分かり切っていたことかもしれないが……結城さんは、クラスの中で一種の孤立状態にあった。

 というよりは、私以外のクラスメイト達は、結城さんを避けているみたいだった。

 正直彼女が避けられる理由はサッパリ分からないが……正直に言うと、すごく嬉しかった。

 理由は分からないけど、彼女の笑顔を知っているのが自分だけという、ちょっとした優越感があったんだと思う。


 そして、優越感に浸ると同時に……油断していた。

 まさか、私以外に、結城さんに話しかける生徒が現れるなんて思ってもいなかった。


 有栖川薫。

 入学してからの二日間休学しており、今日になって入学してきた少女。

 なぜか結城さんを気に入っており、しつこく話しかけているところを目撃した。

 結城さん自身も困っている様子だったので、咄嗟に間に入って止めたのだが……少し、不快だった。

 別に、有栖川さんが結城さんに話しかけること自体は悪いことではないし、気にしなければ良い問題だ。

 それなのに、二人が話しているのを見ていると、胸がムカムカして苛立った。


 有栖川さんはかなり押しの強い性格で、頻繁に話しかけに行っている。

 おかげで、中々結城さんと二人で話すことも出来ず、ダラダラと昼休憩に入ってしまった。

 昼休憩になれば、私と有栖川さん両方の誘いを断ってでも、結城さんはあっさり屋上に行ってしまった。


 ……それでこうして屋上に向かってしまった私は、完全にストーカー予備軍だと思う。

 あぁ、もう……認めよう。

 私はきっと、結城さんのことが好きだ。

 ここまで他人に執着したことなど、今まで一度も無い。

 何より、有栖川さんと結城さんが話している時に感じた苛立ちも、私が結城さんに恋心を抱いているとすれば辻褄が合う。


 有栖川さんを適当にあしらい、すぐに結城さんを追って、私は屋上に向かった。

 屋上の扉は半開きになっており、外が少し見える状態だった。

 私はすぐにでも屋上に飛び出そうとしたが……半開きになった扉の隙間から、結城さんが幽霊と話しているのが見えた。


「――結城さんに何かあったのかと思って、私心配しちゃいましたよ~」


 そう言いながらも笑みを浮かべるのは、黒髪の幽霊だった。

 彼女の向かい側に立つ結城さんは、終始嬉しそうに笑っていた。

 ……私と話している時より……笑っているじゃないか……。

 その事実に、途端に胸がズキズキと痛み始めた。

 胸を押さえ、すぐにでも屋上に飛び出そうとしたその時だった。


「フフッ……心配してくれて、ありがとうございます」


 優しい笑みを浮かべながら、結城さんは……黒髪の幽霊の頭を、優しく撫でた。

 まるで、慈しむように……愛おしいものを愛でるように……――恋人に、するかのように。

 それに、幽霊はボッと顔を赤くした。


「ぁ……えっと……あの……」

「いや、これには深い意味は無くて、ただちょっと撫でたかったから、と言うか……」


 戸惑う幽霊に、結城さんは何やら言い訳じみたことを口にする。

 しかし、途中からは顔を赤くしており、ただの照れ隠しにしか見えない。

 これ以上二人のやり取りを見ていたくなくて、私は無言で扉を閉めた。


 ……結城さんが誰を好きになろうと……彼女の勝手だ……。

 でも、だからって……このまま黙っている程、私だって優しい人間じゃない。

 好きな人の恋を応援する程、優等生を演じるつもりはない。

 何とかして、結城さんを、あの幽霊から引き剥がす。


 そう思って、私は放課後に結城さんを呼び出し、幽霊のことについて事情聴取をして、あわよくば二人を引き離す為に行動しようとした。

 しかし、人気のない場所を探す道中で、結城さんは泣きだした。

 どうやら、今まで見た目のことのせいで色々言われていたらしい。

 だから、見た目で差別しないで仲良くしてもらえて嬉しい、と涙ながらに語った。


 嬉しそうに笑む彼女の顔を見た瞬間……彼女のことを、さらに独占したいと思った。

 半分強引に人のいない空き教室に連れ込み、幽霊が見えることを問うた。

 そこで、彼女が幽霊の記憶を取り戻す手伝いの為に仲良くしていることを知り、その役目を代わることを願った。


 口ぶりから、結城さんは恐らく、幽霊への恋心に気付いていないと判断したから。

 だから、一緒にいる理由さえなくなれば、自然と二人は離れて恋心も自然消滅すると思った。

 私なら幽霊に関する知識はあるし、結城さんよりも上手く、その幽霊の願いを叶える自信があった。

 何なら、そのまま成仏させることだって、可能と言えば可能だった。


 しかし……結城さんは、自分の手で幽霊こと、レイさんの願いを叶えることを選んだ。

 未だに自分の恋心には自覚していないみたいだけど……時間の問題だろう。

 喜ぶレイさんに対して笑っている結城さんを見ると、胸が痛んだ。


「……なんか、私、お節介だったかな?」


 気付いたら、私はそんなことを口走っていた。

 好きな人の恋を邪魔しようとして、優等生ぶって、全部空ぶって。

 まるで、滑稽な道化師のようだと思った。

 自分の不器用さが嫌になって、泣きそうになりながらも、私は続けた。


「だって、結城さんはそんなにレイさんのこと大事にしてるのに、あんなこと言って……迷惑だったよね?」

「ううん。そんなことない」


 即答。行間を空けるのも勿体ないと云わんばかりに、結城さんは私の言葉を否定した。

 驚いている間に、彼女は続けた。


「だって、如月さんは私のことを思って、代わってくれようとしたんでしょう? お節介なんかじゃないよ」

「……でも……」

「それに、如月さんのおかげで、ちゃんと気持ちが固まったような気がする。……ありがとう」


 そう言って、彼女は微笑んだ。

 ……あぁ、ダメだ……直視出来ない。

 私はなんだか恥ずかしい気持ちになり、私は顔を背ける。

 彼女の笑顔が凄く眩しくて……汚い私の心を照らし出している気がした。

 でも……やっぱり、私は彼女のことが好きだと、改めて確信した。

 だから私は、結城さんに顔を向け、口を開いた。


「あの……結城さん」

「ん?」

「えっと……もし良かったら……明日は、一緒にお昼ご飯食べない? ……レイさんのことも大事かもしれないけど……私は、結城さんと仲良くなりたいから……」


 恋人は無理でも……少しでも良いから、彼女と一緒にいたかった。

 出来るだけ彼女の傍にいたかった。

 そんな私の願いに、結城さんは頷いた。


「もちろん。一緒に食べよう?」

「……じゃ、じゃあッ、私もう行くね! また明日ね!」


 これ以上結城さんと話しているとボロが出そうで、私はそんな風に誤魔化して、屋上を後にした。

 階段を駆け下りながら、火照る顔に手を当て、高鳴る鼓動の音を感じる。

 彼女の言葉、彼女の表情……一挙一動で、動揺してしまう。

 あんな風に言われて、あんな風に笑われたら……――


「――……もっと、貴方のことが欲しくなるじゃない」

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