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21:話がしてみたいだけなんです 如月沙希視点

 昼休憩になったら、結城さんがどっか行った。

 いや、流石に驚く。昼休憩は彼女と食事をするつもりでいたから、まさかいなくなるなんて思わなかった。

 授業が終わって片付けをして、いざ結城さんに声を掛けようと視線を向けてみれば、すでに彼女はどこかに行ってしまった後なんだもの。

 困惑している間に同じ中学校だった女生徒を始めとした何人かのグループに誘われ、そのまま食事を共にすることになった。


 食事をしながら、私は結城さんの行方について思考を巡らせた。

 彼女はどこに行ったのか。

 他クラスに友人……は、可能性は少なそうだ。

 先生からあんな風に頼まれる程だし、同じ学校だった友人はいないものとして見て良いだろう。


 では、一人でどこか別の場所で弁当を食べていると考えて良いか。

 昼食を食べるのに向いてそうな場所は……食堂、中庭……どちらも考えにくいな……。

 食堂で昼食を食べる生徒は多いだろうし、中庭だってこの教室からは余裕で見下ろせる場所にある。

 どちらにせよ、人の目は集まる。

 教室で昼食を食べたがらない理由は想像するに、一人で食べていると目立つから……とかかな。

 そうなると、どこがあるかな……保健室……とか?


 正直、彼女のような一人でいるタイプの子の気持ちなど分からないので、彼女の行動を予測するなんて不可能に近かった。

 けど……理解したいって思った。

 こんなことを他人に思うことは初めてなので、少し困惑する。

 でも、まぁ……今は良いか。


「ごちそうさま」


 ひとまず保健室に行くことに決めた私は、空になった弁当箱を片付け、立ち上がる。

 すると、私と一緒に昼食を食べていた女生徒は、私を見て目を丸くした。


「如月さん……どこかに行くの?」

「……ちょっと、先生に呼ばれてるから。行ってくる」


 適当に誤魔化し、私はすぐに教室を後にした。

 保健室は、私達の教室がある北棟の向かい側にある、南棟の一階にある。

 恐らく、まだほとんどの生徒が食事中なのだろう。

 人気のない廊下を歩き、渡り廊下を歩いて、保健室に行く。


「失礼します」


 扉を三回ノックして、私はそう挨拶をしながら、保健室に入った。

 するとそこでは、保健室の先生と……誰か、女性の先生がいた。

 女性教師の方は私を見て目を丸くし、すぐに椅子から立ち上がった。


「……それじゃあ、私はここで失礼するわ」


 端的に言い、女性教師は保健室を出て行く。

 うーん……何だろう……なんか、邪魔してしまったような感覚がする。

 ポリポリと頬を掻いていると、保健室の先生は小さく肩を竦め、私を見た。


「えっと……何か用かな?」

「あっ、はい。あの……結城さんいますか?」

「結城……結城神奈さん?」

「はい」


 頷くと、保健室の先生は少し目を丸くして、クスッと小さく笑った。


「そう。……残念ながら、保健室にはいないわ」

「そう……なんですか……」


 保健室にいる、という想像が外れ、私は落胆する。

 それなら、一体どこにいるのだろう。

 ああいうタイプの人が行く場所なんて分からないから、ここ以外に行く宛てが分からない。

 悩んでいると、保健室の先生は不思議そうに頬杖をついた。


「何? 結城さんをお探し?」

「え? えぇ、まぁ……」

「……結城さんに、何か用事?」

「いえ、用事がある、というわけでもないんですけど……」


 私はそう言いながら、両手の指を絡み合わせる。

 よく考えれば、別に結城さんに用事があるわけでもない。


「……ただ……結城さんと、話がしてみたいだけなんです」


 良い子を演じるわけでもなく、私は心からの言葉を吐露する。

 ただ……結城さんと話してみたい。

 彼女は良い子を演じなくても、私を必要としてくれるような……そんな感じがするから。

 ……誰か特定の人にこんな感情を抱くのは初めてで、混乱するばかりだ。


「……フフッ、そっかそっか」


 そんな私の本音に、保健室の先生は、どこか嬉しそうに笑いながら言った。

 彼女は頬杖をつき、私を見た。


「……貴方の言葉、優梨子が聞いたら喜ぶだろうなぁ」

「……優梨子……?」

「あぁ、いや。こっちの話。……にしても、結城さんがどこにいるか、かぁ」


 そう言いながら、先生は少し考えるような素振りをする。

 しばらくして、「そうだ」と小さく呟いた。


「もしかしたら、屋上にいるかもしれないわ」

「……屋上?」

「えぇ。今日、ちょっとした用事で屋上の鍵を貸していたの。だから、もしかしたら……ね?」


 屋上か……考えもしなかったな。

 そもそも屋上が開放されている学校など希少だし、中学校でも当然屋上には出られなかった。

 ……他に手がかりがあるわけでもないし、行ってみようかな。


「ありがとうございます」

「いえいえ」


 笑顔で応える保健室の先生に笑い返しつつ、私は保健室を後にした。

 すぐに私は保健室を出てすぐの場所にある階段を上り、屋上に向かった。

 不思議と足は軽くなり、トントンと一段飛ばしで階段を上っていく。

 この先に、結城さんがいるかもしれない。

 その事実が、私の足を速めた。


 あっという間に階段を上りきり、屋上の扉の前に立った。

 すぐにドアノブに手を掛けて扉を開けようとした時だった。


「――まぁ、大した問題でもないですし、構いませんよ」


 結城さんの声がして、私は動きを止める。

 ……誰かと……話している……?

 もしかして、実は本当に他クラスの友人と昼食を食べに来ただけ……とか?

 居ても立っても居られず、私は少しだけ扉を開け、話し声に耳を済ませた。


「レイって名前は、幽霊を略してレイって付けたんです。本名どころか、名前の由来も適当な、安直な名前ですよ」

「なるほど、ねぇ。じゃ、結局レイちゃんの名前の手掛かりは一切無しかぁ」


 やっぱり、誰かと話している。

 でも……何か違和感がある。

 結城さんと、もう一人の人は、恐らく共通の友人であろうレイという人物について話しているのだろう。

 しかし……まるで、レイの名前を一切知らないような、そんな口ぶりだった。

 オマケに、人のあだ名に……幽霊なんて単語、普通使うだろうか……?

 一人考え込んでいた時、屋上の扉に体が当たり、キィ……と一人でに扉が開いた。


「しまっ……!」


 咄嗟に声を上げ、扉を閉めようと手を伸ばした私は、見てしまった。

 結城さんと話していたであろう、二人の……幽霊の姿を。

 黒い長髪の少女と、制服を着崩した金髪の少女。

 そして、二人の前で段差に腰かけ、何やら考え込んでいる結城さんを見かける。


「結城さんっ」


 咄嗟に、私は名前を呼ぶ。

 すると、結城さんはパッと顔を上げ、私を見て目を丸くした。


「き、如月さん?」

「結城さんこんな所にいたんだぁ。教室にいないから心配したんだよ?」


 心配した、というか……勝手に探しただけだったりもするけど……。

 こういう時に、咄嗟に良い子を演じてしまうんだよなぁ。

 しかし私の言葉に、結城さんは少し目を丸くしてから、少し嬉しそうに目を緩めた。


「ご、ごめん……」

「もう授業始まっちゃうし、教室に帰ろう?」


 私がそう言いながら手を差し出すと、結城さんは少しキョトンとしてから「うんっ」と頷き、その手を取った。

 軽く手を握ると、彼女の顔が、少しだけ嬉しそうに緩んだ。

 結城さんに対して何か一挙一動する度に、彼女は嬉しそうな反応をする。

 良い子を演じなくても、ただ私が接触するだけで、どこか嬉しそうにしてくれる。

 そんな彼女の反応が嬉しくて……もっと触れたいと、思ってしまう。

 体にも……心にも。


「そういえば、結城さん。屋上で誰かと話しているっぽかったけど……誰と話していたの?」


 階段を下りながら、私は聞いてみた。

 ……結城さんには、幽霊が見えるかもしれない。

 あくまで……かもしれない。

 話している現場自体を見たわけでもないし、もしかしたら何かの偶然が重なって、そう見えただけかもしれない。

 だから、確認したかった。

 だって、もしそうだとしたら……私と結城さんだけの秘密になると、思ったから。


「……なんでもない。ただの、独り言」


 しかし、結城さんは否定した。

 けど……その微笑みは、心からのモノではないように見えた。

 少なくとも、私に対して何度か向けてきた微笑とは、少し違うように見えた。


「……そっか」


 誤魔化すなら……それでもいい。

 これ以上言及して嫌われたくも無いし、私は適当な所で話を切り上げた。

 まぁ、私のように幽霊が見える能力を隠している可能性も高いし、今の答え方は妥当だ。

 けど……やはり、少し気になってしまう。

 彼女が隠すなら、放っておけばいいのに……なんか、変な感じだよな、ホント。

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