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18:私に代わらせて頂けませんか

 如月さんを連れて屋上に行くと、そこでは何やら談笑するレイとナギサがいた。

 扉が開いた音に気付いたレイが、こちらを見る。

 そして、目を丸くしてこちらに飛んで来た。


「結城さん!? どうしてここにいるんですか!?」

「えっと……レイに会わせたい人がいて……」

「……私に?」


 不思議そうに聞き返すレイに、私は頷く。

 すると、私の後ろから、如月さんが顔を出した。


「こんにちは。……貴方がレイさんですね?」

「えっ?」


 如月さんの言葉に、レイはキョトンとした顔で如月さんを見た。

 数秒後、目を大きく見開いた。


「えっ!? わ、私が見えるんですか!?」

「はい。私も幽霊が見えるんですよ」

「へぇ……神奈ちゃん以外にもいるとは思わなかった」


 そう言って、ナギサもこちらに近付いてくる。

 すると、如月さんはニコッと微笑み、自分の胸に手を当てた。


「改めまして、如月沙希って言います。結城さんとはクラスメイトで、友達です」

「あっ……私は、えっと……本名は分からないんですけど、レイって呼ばれています。……よろしくお願いします」

「あたしはナギサ。よろしくね」


 如月さんの自己紹介に、レイとナギサもそれぞれ自己紹介をする。

 すると、如月さんはそれぞれに「よろしくお願いします」と言って、小さく微笑む。

 それから、続けて口を開いた。


「では、早速本題に入るんですけど……レイさんは、結城さんに記憶を取り戻す手伝いをしてもらっているんですよね?」

「は、はい……」

「……突然のことで申し訳ないんですけど、その役目、今日から私に代わらせて頂けませんか?」

「……え……?」


 如月さんの言葉に、レイは目を丸くしたまま無表情になり、掠れた声を発する。

 ……レイの反応に、私は無言で目を逸らした。

 彼女を見捨てるわけでもないのに……なんでこんなに、罪悪感に蝕まれるんだろうか。

 私は自分の胸に手を当てて、静かに目を伏せる。

 その間に、如月さんは続ける。


「私は、小さい頃から幽霊が見えます。そういう家系なので、両親も同様です。……ですから、私には結城さんよりも、幽霊に関する知識はあります。結城さんよりも効率良く……貴方の手助けが出来るはずです」


 淡々とした説明を、レイは無言で聞く。

 ……今頃、彼女はどういう心境で、この説明を聞いているのだろうか。

 私のことを……裏切り者、とか思っているのだろうか……。

 別に……裏切るわけじゃ、ない……。

 ただ、如月さんに任せるだけ。……それだけじゃないか……。

 だから、私がこんなに気に病む必要も無いのに……なんで……。


「……それで、神奈ちゃんの代わりにレイちゃんの手助けをする、と?」


 痛む胸を押さえていた時、ナギサがそう言ったのが聴こえた。

 私が顔を上げたのと、如月さんが「えぇ」と頷いたのは、ほぼ同時だった。

 すると、ナギサは「んー」と言いながら渋い顔でポリポリと頬を掻いた。


「ま、あたしは別に良いと思うけど? レイちゃんの願いが叶うなら、それで」

「……そうですか」

「あ、あのっ……!」


 ナギサと如月さんの短いやり取りを聞いていたレイが、両手の拳を強く握り締めながら声を上げた。

 それに、その場にいた全員が視線を向ける。

 すると、彼女はギョッとしたような表情を浮かべるが、すぐに視線を私に定めて口を開いた。


「それは……結城さんが、そうして欲しいと……如月さんに頼んだんですか?」


 レイの言葉に、私は微かに息を呑んだ。

 そこで初めて……これが、私の望んだことではないということに、気付いた気がした。

 如月さんなりの気遣いで、優しさで……でも、私の意思では無い。

 確かに如月さんの言うことは正しいし、彼女が自分に任せるべきだと言う理由も分かる。

 正直彼女程の適任者はいないし、普通の人間ならば、彼女に任せるだろう。


 でも……私は普通じゃないだろう?

 こんな見た目で、何が普通だ。

 一般論に流されるな。常識で考えるな。私は、私だ。

 私は、どうしたいんだ?


「……いえ。私が、自分からやりたいと言っただけですが」

「じゃあッ……結城さんは、それに賛成なんですか?」

「……いいえ。レイさんにも話を聞かないと分からないと言ったので……貴方の意思を確認しに来たんです」

「そう……ですか……」


 如月さんの説明に、レイはそう呟きながら、目を伏せる。

 すると、ずっと無言で聞いていたナギサが小さく溜息をついて、口を開いた。


「つまりレイちゃんはさ、神奈ちゃんの意思に任せるってことでしょ?」

「な、ナギサさんッ!」

「何か間違ったこと言った?」


 ナギサの言葉に、レイはクッと唇を横一文字に結ぶ。

 それに、ナギサは小さく嘆息して、私を見た。


「正直……私も、これは神奈ちゃんが決めるべき問題だと思うよ。私と沙希ちゃんはあくまで部外者。決めるのは、神奈ちゃんだと思うな」

「……私は……」


 そう呟いた声は、掠れていた。

 私は……どうしたいんだ……?

 レイの願いを叶えるためなら、如月さんに任せるべきだと思う。

 でも……心の奥底では、嫌だと叫んでいる私がいる。

 ずっと感じていた、胸の痛み。

 レイの願いを優先した、算盤で導き出したような模範解答じゃない。

 私の心に問う、私だけの答え。

 それは……。

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