狂気との対峙
──狂気との対峙──
───あれから10年の年月が経った。
俺は、非正規雇用でなんとか一人暮らしをやっている。
そう、一人暮らしだ。
未だに家庭は持てず、マクドナルトのバイトでなんとか生活している。
彼女は……いた。いたんだ。
でも、今はもう誰もいない。
話し相手はなく、俺は孤独だった。
5年くらい前は違った。
毎日騒がしくて、暖かい料理を食べることが出来た。
今は冷えきったコンビニ弁当か、マクドナルトの賄いしか食べていない。
五年前はまだ違ったんだ。
過去に戻りたい。
俺にもあいつのような能力があれば。
「俺にもタイムリープが出来たら…」
願いは無音の空間に霧散した。
星は霞んでいて見えない。
無限の闇が電灯に灯され、機械的で人工的な香りを匂わせている。
なにかが変わるような気は到底感じられないが、気分転換に外の空気に当たろうかな。
そう思い、俺はゆっくりと立ち上がった。
「いや………」
!?
今のは俺の声じゃない。
懐かしい声。
綺麗な透き通った少女の声。
可愛く、愛らしい少女の声。
「…エリリアーナ!!?いるのかっ!!!?」
限界まで疲労した身体に強くムチを打ち、最大限に力を込めてドアへ向かう。
そこには果たして紅のワンピースがあった。
「おい!!エリリアーナ!!!おいってば!大丈夫か!?」
「ねぇ……私だよ?エリー…だよ?」
「……!あぁ!エリリアーナ!!俺だ!!直人だ!」
その瞬間、彼女は絶望した表情をした。
見たことないくらい辛そうで 、悲しそうな表情だった。
「……やだよぉ……もう…………もうやだよ!!覚えててよ!!私の事を!!!私のの事を覚えてよっ!!」
「な、なにを言っているんだ……?それより、あんまり喋るな!いくら機械とはいえこんな傷だらけで……」
「お前さえいなければ………死ねぇ!!!死ねぇぇえええ!!!!」
気がつけば俺は突き飛ばされていた。
廊下の壁に背中から突撃してしまう。
衝撃。一瞬目の前が白く染まる。
なにか熱いものを身体の中に感じて、それを吐き出す。
血だ。
「あ、あぁ……あぁぁあああっっ!!!!!!!!!死ねっ!!死ねぇっ!!!!」
彼女は自分を掻き毟り始めた。
辺りに血が飛び散る。
「やめろ…やめろ!どうしたんだ!!やめてくれエリリアーナ!!!」
「こんな……こんな世界壊してやる!こんな狂った世界無くなればいいんだ!!あはっ、あはは!」
彼女は狂ったように台所の方向に走っていった。
俺はまだ動けない、全身が熱くて仕方が無い。
「エリリアーナ…………エリリアーナ…?なぁ……エリリアーナ…………」
這いずりながら台所へと向かう。
───あいつは五年前にいきなり消えた。
どこを探してもいなかった。
二日間家に帰らず、寝ることもなく探したが彼女はいなかった。
それからというものの俺は子供のように泣き続け、精神状態は最悪だった。
もちろん会社は続けられなくなった。
俺は彼女がいなければ生きていけない。
だから、俺が彼女の悩みを聞いてあげないと。
───俺はやっと台所についた。
家の中は無音に包まれている。
その静けさが逆に不安だった。
台所のドアをゆっくり開ける。
血溜まり。
それもさっきとは比にならないほどの。
紅のワンピース。
華奢で可憐な純白の肌。
赤と白のコントラストは妙に美しく、綺麗だった。
「あ、あぁ…………あぁぁぁぉぁああああっっ!!!!!エリリアーナ……!エリリアーナぁああっ!!!」
―――バタン
唐突にドアの開く音が聴こえた。
「ぇ…………?」
「お兄さーん!!帰ってきたよー!」
何が起きているんだ?
幻聴?ついに俺は壊れたか?
「あれ?いないの??…………え、これって……血…!?」
「ぁ……あぁ、助けてくれ……エリリアーナ…………許してくれ……」
パタパタと少女の足音が聴こえる。
台所のドアの近くまで。
そしてついに彼女と目が合った。
「お、お兄さん!!?いったいどうして……と、とりあえず治療を……!!」
俺は彼女に運ばれていく、わけもわからないままに。
「君は……エリリアーナ…………なんだよね?」
「そうに決まってるじゃん!なんでこんなに口から血が出てるの!?」
「台所に……もう一人のエリリアーナがいただろう…………?そいつも運んでやってくれないか…?」
「え?何を言ってるの…?私は1人しかいないよ?」
「……?なら台所の少女を…………」
「お兄さん……台所にはお兄さんしかいなかったよ…………?」
「なん…だって…………?」
ここからストックが無くなったので頑張って書いていきます!