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始まりの終わり  作者: ちびいぬ
4/6

自己嫌悪

──自己嫌悪──





────最悪だ。



「このクソが、無断欠勤とは随分偉くなったもんだな、なぁ!?」


「すみません……」


「すみませんじゃあないんだよ、お前が休んだせいでこんだけの企画がパーになったんだよ……たくっ…………本当ならクビだけどよぉ、俺の優しさに免じて今回だけは見逃してやるよ。その代わり、今日から一週間昼飯は無しだ」


「そ、そんな………………」


「あぁ!?昼飯なんて食ってる暇無いだろうが!!もちろん残業もプラスだ!!!……しっかりやれよ?サボったら分かってるよな?な?」


「……はい…………分かりました…………」


あぁ、死にたい。

はっきり言って死にたい。

それか上司をぶっ殺してやりたい。

こんなブラックやってられっか…………でも、仕事を変えるという選択は出来ない。もう何個も職を転々としてきたから、履歴書は真っ黒。


全て酷い上司に当たってきた。

あぁ……これからどうすればいいんだ。


…………そういえば、生活保護とかいうのがあったな……それに入るのもありだな…………

でももし保護を受けられなかったら…………、いや、何も考えずにとりあえず挑戦してみた方がいいのか………………。


そんな事を考えながらやっていたせいもあってか、書類をまた間違えてしまった。

……今日は帰れないかもしれない………………。



────ふらふらとした足取り、まだ32歳の若さだが、その身体には限界が来ていた。


玄関が遠い、自転車のパンクを修理するお金が無いから、駅から歩いて帰らなければならない。


終わりが見えない。

街を照らす月明かりが妙に羨ましく思えた。

そして、そこからの記憶が無くなった。




────「起きて!起きてお兄さんっ!!」


「ん……んぁ…………んあー?」


俺は家にいた。


時計は午前2時を刺している。


「あ、あれ…………もしかして寝てた…?」


「うっ…うぇ……お兄さん……いつまでも帰ってこないから…………外に探しにいったら……道端で倒れてて…………すごく心配したんだよっ!?」


「ほ、本当に君は人間らしいな…………、下手な人間より人間らしいや…………。

あ、君はご飯は食べなくて大丈夫なのか?」


「なんで……なんで自分の事より私の事を心配するの……?もっと自分の事を考えて生きてよ………!!」


「…………だってさ……自分の事を考えちゃったらさ、自己嫌悪とかも相まってめちゃくちゃに死にたくなっちゃうんだよ。なんにも楽しいことなんて無いしさ」


「そんなことないよ!!」


その一言が、俺の闇を加速させた。


「嘘つけっ!!俺がどんな思いなのか分かってないくせに!!なぁ、君に何が分かるんだ?君は、お前は俺に何が出来るんだっ!?」


「ひっ………ご、ごめんなさい…………」


「っ……!……悪い………………少し1人にさせてくれ……」


俺は外に出て何も考えず走り出した。


「くそっ……これじゃあの上司と同じじゃないか…………!なんでこんなに俺は弱いんだ!!もっと力があれば…………もっと強ければっ!くそっ!!!」


俺は無力だった。


俺は弱かった………。



俺は…最低だ……………………。



────午前4時半頃、何か軽いものでも口に入れなければと思い、一旦家へと帰る。


雲はほんのりと薄い紫色がかかっており、だんだん明るくなっているのがとても綺麗だ。


ドアノブに手をかけ、ゆっくりと引く。


「おかえりなさいませ♪私はご主人様のメイドだにゃん♪」



そして扉を閉めた。


うん、なんだ、今の。

幻覚かな。


もっかい開けてみよう。



「おかえりなさいませご主人様♪」


「えっと…………一体何を………………」


「……私なりに考えてみたの。お兄さんのために何が出来るか。それで、勝手に冷蔵庫のありあわせでご飯とかも作ったんだけど…………」


唖然とした。


こんなに可愛い女の子が俺のためにご飯を……?


「ご、ご主人様?だ、大丈夫ですか?」


「え?」


「えっ、もの凄く泣いてるけど……」


……泣いてる?



本当だ、泣いてる、俺。


「いや、大丈夫。ありがとう。えっと………」


「エリリアーナ、私の名前だよ。お兄さんの名前も教えてよ!」


「俺の名前は……直人、伊藤直人だ。ありがとう、エリリアーナ。」


「どういたしまして、お兄さん♪」


「結局、お兄さん呼びなんだね、俺もエリリアーナは長くて呼びにくいから君って呼ぶよ」


「むー、長くても呼んでよー!」


「じゃあ君も俺の事名前で呼んでよ」


「そ、それはちょっと恥ずかしいっていうか…………」


「はは、本当に君は面白いね」


「むー……、あっ、それより早くご飯食べてよ!冷めちゃうよ!!」


「お、そうだな、楽しみだ」


リビングに近づくにつれ、美味しそうな匂いがしてきた。

それは懐かしく、優しい匂いだった。

何年ぶりかの温もりに、また涙が出そうになったのは言うまでもない。

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