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「望くん・・・好きだよ・・・。」
俺が美月ちゃんをじっと見つめていると
彼女は不意に俺の目を見つめ、口を開いた。
美月ちゃん・・・
「・・・最後にどうしても私の気持ちを
望くんに伝えたかったの・・・。」
「え・・・?」
最後・・・?
「どういう意味・・・?」
「私・・・本当はね、もうここに居ちゃいけない存在なんだ・・・。」
彼女の言葉の意味がいまいちわからない。
「望くんが私に傘を貸してくれた日の前の日にね・・・私、死んだの。」
「・・・。」
美月ちゃん・・・何を言ってるんだ・・・?
「大学に行こうとして、あの横断歩道渡ってたらね、
信号無視で突っ込んできたトラックに撥ねられて・・・
即死だったらしくて・・・。
だから、私もまさか自分が“死んだ”なんて信じられなくて
すぐに成仏できなかったみたい。」
「美月ちゃん・・・?」
「それでね、事故現場に手向けられてたたくさんの花束をじっと見てたら
なんだか動けなくなっちゃって・・・そこへ望くんが現れたの。」
「・・・そんな・・・嘘だろ・・・?」
「望くんがいなかったら、私きっとずっとあそこから動けないでいた。」
「美月ちゃん・・・っ。」
やめろよっ!・・・そんな冗談・・・っ!
「私ね、大学に入った頃から望くんの事がずっと気になってて・・・
だから、望くんが私の手を引いて横断歩道から連れ出してくれた時は
すごく嬉しかった・・・。
誰も私の事に気付いてくれなかったのに、望くんだけが気付いてくれた・・・。」
彼女が話している内容を頭の中では理解しようしながら
心の中では“嘘だ、嘘だ。”と拒絶している。
「・・・でも・・・もう、行かなきゃ・・・
今まで、ありがとう・・・。短い間だったけど、すごく楽しかった。」
美月ちゃんはそう言うとまた哀しそうな目で俺をじっと見つめた。
「行くって・・・どこに・・・?」
なんとなく答えはわかっている。
今、彼女が話した内容が全部本当なら・・・
「・・・ごめんね・・・。」
美月ちゃんは細い腕を俺の首に少しだけ回し、
そっと唇を重ねてきた。
「・・・っ!?」
驚いたけど、彼女から離れる気もない俺は、
美月ちゃんが離れるのを待った。
「明日・・・目が覚めたらもう私の事は忘れてる・・・。」
美月ちゃんは目に涙を浮かべながら言った。
「・・・?」
明日、目が覚めたら・・・?
「今のキス・・・望くんの中の私の記憶・・・吸い取ったの。」
さっきの“ごめんね。”はそういう意味だったのか・・・?
「美月ちゃん・・・っ。」
少し俯いて踵を返そうとした美月ちゃんを俺は慌てて引き止めた。
思わず手首を掴んで引き寄せると涙を流していた。
「俺だって・・・ずっと美月ちゃんの事が好きだった・・・。」
「え・・・?」
「・・・だから、行くなよ・・・。」
“行くなよ。”なんて言ったところで、どうしようもない・・・
俺にも・・・彼女にも・・・
そして誰にも・・・。
「無理だよ・・・行かなきゃ・・・。」
彼女がそう答える事はわかっていた。
だったら・・・せめて・・・
「・・・じゃあ、美月ちゃんが吸い取った記憶・・・返して・・・。」
半ば強引に美月ちゃんの肩を抱いてキスをすると
咄嗟に離れようと彼女はもがいた。
だけど、もがいたところできつく抱きしめているから
離れられるワケがない。
やがて、段々と彼女の体が冷たくなって行くのを感じた。
抱きしめる腕の力を強くしても、
美月ちゃんの体の感触がなくなっていく・・・
重ねているはずの唇の感触も・・・
・・・それと同時に俺の意識も少しずつ薄れていった・・・。
そして・・・
次に俺が目を開けると・・・
自分の部屋のベッドの上だった・・・。