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紅い月  作者: 式部雪花々
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-1-

―――6月・・・梅雨の時期。


シトシトと降り続ける雨の中、


ふと足を止めて空を見上げると


まんまるい月が浮かんでいた。


普通、雨の日は雲が空を覆っていて月なんて見えないのに


今日はなぜだかきれいに月が見えている。


しかもその月は紅い満月。




「きれいだな・・・。」


一人で自分のアパートへ帰っていた俺・辻口望は


誰に言うでもなくポツリとその言葉を口にした。




そして、再び歩き出そうと一歩足を前に出した時、


目の前の横断歩道の真ん中に女の子がいるのが見えた。




・・・え。




その子は俯いて立ったままじっと動かずにいた。


動けないのか・・・?


とも思ったが、どうやらそうでもないらしい。


そこにはたくさんの花束が手向けられていた。


その花束をじっと見つめているようだ。




誰か知り合いが事故にでも遭った場所なのかな?




それにしたって、ずっとあんな所にいたら危ない。


分離帯がある為、なんとか車に轢かれずに済んでいるけれど


交通量の多い道路だから大きなトラックが何台も通っているし、


みんなスピードだって出している。




俺はその横断歩道は渡らないけれど、


その女の子が気になった。


見ていて危なっかしいだけじゃなく、


俺が通っている大学の構内でよく見かけている子で


前からずっと気になっていた女の子だったからだ。




そのうち、信号が変わって横断歩道の歩行者信号が青になった。


だけど、みんなが横断歩道を渡り始める中、


彼女は一向に動こうとしなかった。






そして歩行者信号が点滅し始めた。




なんで動こうとしないんだ?




俺は彼女に駆け寄り、手を取って横断歩道から連れ出した。


すると、彼女は驚いた表情のまま俺の顔を見上げた。


「あんな所にいたら危ないよ?」




冷たい手・・・。


体が冷え切っているのか?


そのワリにはまったくどこも濡れていないのが不思議だけど。


一体、いつからあそこにいたんだ?




「・・・大丈夫?」


顔を覗き込むようにしながらそう言うと


彼女はゆっくりと頷いた。




ホントに大丈夫なのかな・・・?




家まで送って行ったほうがいいんだろうか?


それとも俺の部屋に連れて行ったほうがいいのかな?




てか、どっちもマズいか・・・。


だって別にお互い面識があるワケじゃないし。




俺の方はあるけど・・・。




「この傘、使って?」


彼女は傘も持っていなかった。


だから俺は自分が持っていた傘を彼女に差し出した。




「・・・え?・・・でも・・・」




「俺の部屋、すぐそこだから。」


俺はなかなか傘を受け取ろうとしない彼女の手に傘を握らせた。




「早く帰ってちゃんとお風呂で暖まらないと風邪ひくよ?


 じゃーねっ!」


それだけ言って俺は走って帰った。






―――次の日。


昼からの講義に出るため、俺は昼前に部屋を出た。




昨日、彼女と出会ったあの横断歩道の前を通る時、


なんとなく気になって彼女姿を探した。


だけど彼女はいない・・・。


また彼女があそこにいたら・・・とか思ったけど


杞憂に終わった。






大学までは歩いて数分。


正門が見えてきたところで俺は足を止めた。




彼女がいたのだ・・・。




「こんにちは。」


彼女は俺の姿を見つけると小さく笑った。




「こ、こんにちは。」


俺は昨日とはまるで違う彼女の様子に少し驚いた。




「昨日はありがとう。」


彼女はきれいに畳んだ傘を俺に差し出した。


昨日、俺が彼女に貸した傘だ。




「あ、うん。」




もしかして・・・




「コレ、返してくれる為に待ってた?」


俺がそう聞くと彼女はコクンと頷いた。




「なんか・・・ごめん・・・悪い事したな。」




「ううん、私が勝手に待ってただけだし。」


彼女はにっこりと笑った。




「・・・。」


その笑顔に俺はキュンとして、何か言わなきゃ・・・


と、思いながらなかなか言葉が出てこないでいた。




「・・・それじゃ。」


彼女がそう言って立ち去ろうとした瞬間、


「あ、あのさ・・・せっかくだから昼メシでも一緒にどう?」


と、俺は無謀にも言ってしまった・・・。




「うん。」


けど、彼女は意外にもあっさりとOKしてくれた。




俺達二人は大学の構内にある学食に向かって歩き始めた。


ホントならここで待ってくれてたお礼に


もっとマシな所にでも連れて行きたいところだけど


バイトの給料日前だし、講義もあるから次に取っておく事にした。


まぁ・・・“次”があればだけど・・・。






それから彼女とはいろんな話をした。


名前は紅野美月ちゃん。


俺と同じ2年生で天文学部。


携帯番号とメアドの交換もした。


昨日の事はなんだか聞き辛くて聞けなかったけど、


彼女の部屋はあの横断歩道を渡った先だという事は話してくれた。

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