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美咲の剣  作者: きりん
三章 生き抜くために
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十三日目:用意は万全に1

 出発までの時間を利用して、美咲とミーヤは必要な買い物を済ませてしまうことにした。


「おっかいもの♪ おっかいもの♪」


 妙な抑揚をつけて歌いながら、跳ねるような足取りで歩くミーヤを、美咲はその後ろを歩きつつ、微笑ましく思いながら眺めていた。

 陽気な表情を浮かべたミーヤが、振り返って美咲に尋ねる。


「お姉ちゃん、どこに行く?」


 出発までの時間と必要なもの、そしてそれを扱っている店を頭の中に描きつつ、美咲は砂時計をひっくり返して時間を計りながら答える。


「この近くに道具屋があるから、そこで必要なものの補充かな。それが終わったら、パン屋で今日のお昼ご飯を買いに行くよ。時間が余ったら一応武器屋と防具屋に寄っていくつもりだけど、そこはあくまで時間次第かな」


「分かった! じゃあ、先に道具屋だね!」


 頷いたミーヤは、自信満々に明後日の方向に歩き出そうとした。どうやら道具屋が何処にあるか知らないらしい。


「ミーヤちゃん、ついてきて。道具屋はこっちだよ」


「はーい」


 ぺろっと舌を出しつつ、ミーヤは素直に美咲の後についていく。

 道具屋といっても、ラーダンには道具屋が三件ある。今回向かう道具屋の外観は、立地に相応しく立派なものだった。さすがに美咲の世界のデパートのように見上げるほどの大きさではないが、それでも二階建てだ。

 冒険者ギルドと同じ大通りに面しているこの道具屋は、置いてある品物の品質は良いが、その分値段が高い。だが店員の態度もよく、種類も多いので、美咲にとって一番違和感が少ない。幼いミーヤを連れていても、安心して入れる。


(私の道具は前回ルアンと買ったのが結構残ってるから、使った分だけ補充すればいいとして、問題はミーヤちゃんか。何はともあれ、先に道具袋を買ってあげないとね)


 数日前に一度見て回った店であるから、どこに何があるかは大体分かっている。美咲は道具屋に入ると、迷わずに歩を進めた。向かうは道具袋を扱うコーナーだ。


「まずはミーヤちゃんに道具袋を買ってあげる。好きなの選んでいいよ」


「ホント? わーい!」


 目を輝かせたミーヤは大人向けの無骨な道具袋が並ぶ一角には目もくれず、子供向けのファンシーな道具袋が置かれた一角に突進していった。

 そこに置かれているのは動物を模した道具袋や、可愛らしい刺繍がされた道具袋ばかりであり、旅や冒険の必需品である道具袋なのに、大人向けの道具袋が大体同じ形のものばかりなのに比べると、やたらとデザインに凝っているものが豊富だ。


「ミーヤ、これがいい!」


 目を輝かせてミーヤが持ってきたのは、大きなぬいぐるみだった。

 いや、違う。よく見ると背負うための紐が手足についてるし、さりげなくぬいぐるみの腹が開くようになっている。

 見た目はただのぬいぐるみだが、道具袋だ。


(腹を開いて中に詰めるんだ……。まあ、首が取れてそこから詰める、とかだったらもっとアレだし、これはこれでいいのかな?)


 道具袋としてはともかく、ぬいぐるみとしてはなかなかスプラッタな構造があれだが、見た目はふわふわもこもこのぬいぐるみなのでミーヤが持っていると、とても愛らしく見える。


「マクレーア、可愛いよね!」


 ぬいぐるみを抱いたミーヤが美咲に同意を求めてくる。


「そうだねぇ。可愛いねぇ」


 相槌を打ちながら、美咲はミーヤが持つぬいぐるみ型の道具袋を眺めた。

 どうやらこの道具袋は、マクレーアという動物を模しているらしい。

 見た目は美咲が知る熊に似ており、背負うとミーヤが小熊を背負うような姿になる。それを想像した美咲は、確かにちょっと可愛いかもと思ってしまった。

 リアルな造形ではなく、子供向けに適度にデフォルメされているのも良い。リアルな熊は怖い。


「じゃあ、これ買おうか」


 美咲はミーヤを連れてカウンターに向かい、会計を済ませる。

 ぬいぐるみ型の道具袋は八十ペラダだった。少し高いが、許容範囲内だ。

 続いて別のコーナーに向かい、煙幕玉や音響玉、催涙玉などの投擲アイテムを買う。美咲も少しは持つが、大部分はミーヤの自衛用に、買ったばかりのミーヤの道具袋に入れた。音響玉や催涙玉で怯ませ、その隙に煙幕玉で姿を隠して逃げるのだ。いざという時の備えはあって損はない。


「次は薬だね。二階に行くよ」


 ミーヤを促して、美咲は階段を上って二階に上がる。

 全部の魔法薬をこの店で揃えることはしない。一つか二つ良いものを買って、残りは別の道具屋で揃えるつもりだ。その方が安い。もっとも、この店の一番良い魔法薬でも、美咲には効果が無いのだが。

 でも品質が良いだけあって、ミーヤに使うものとしてはほぼ最高といっていい魔法薬を揃えることができた。

 内臓破裂や骨折といった身体の内部を治療する魔法薬に、身体の欠損を再生させる魔法薬だ。

 アリシャがくれた小遣いの十レドのうち、四レドをもう使ってしまったが、魔法薬は飲んだり患部に浴びせたりするだけで即座に効果が出る即効性が有益なため、美咲自身に効果がなくともミーヤのためと思えば納得できる出費だった。


(あとはこの店で買うものは無いかな……)


 買い忘れが無いか、美咲は買ったものを思い返しながら確認する。

 ミーヤの道具袋は買ったし、ミーヤの自衛アイテムも魔法薬も念のため、多めに買った。外傷用の魔法薬や美咲の薬の補充は別の道具屋で行うのでここで買う必要はない。マッピングセットはすでにグモが描いてくれた完成品の地図があるから必要ない。


(あ、フック付きロープ買おう)


 自分の分はあるが、ミーヤの分が無いので美咲はもう一つフック付きロープを買った。用途が広く、危険な場所を通る際には命綱にもなる便利なロープだ。


(火は私が魔法で点けられるけど、一応ミーヤちゃん用に火打ち石も買っておくかな。後は、少しだけ木炭も買っておこう。いつも燃料が手に入るとは限らないしね)


 今回だけでなく、先のことまで考えると、欲しいものはいくらでもある。

 火打ち石も木炭も、粗悪品を買っていざという時に火が点かないとなると生死に直結するので、ケチらずこの道具屋で品質の良い物を揃えることにする。

 合わせて一レド。日本円に換算して一万円だ。高い。さすがに高過ぎると思った美咲は、交渉を試みる。


「もう少し、安くなりませんか?」


「大変申し訳ございませんが、当店では値引き交渉は原則受け付けない規則となっております」


 営業スマイルを浮かべた店員にばっさり断られてしまった。


(取り付く島も無い、か)


 落胆するも、駄目で元々の気持ちだったので、潔く諦めて清算する。命の値段と思えば、まあ我慢できなくもない。

 これで、この道具屋だけで六レドを使ったことになる。


(結構使っちゃったなぁ)


 軽くなった懐に不安を覚えながらも、美咲はお小遣いを持たせてくれたアリシャに感謝した。

 アリシャがくれたお金が無ければ、こんな買い物は到底出来なかっただろう。

 必要な買い物を済ませたので、道具屋を出る。


「えっへっへー」


 ミーヤはぬいぐるみ型の道具袋を背負ってご満悦だ。好物の串焼きを食べている時くらい機嫌が良い。


「もう一軒道具屋に行くよ、ミーヤちゃん」


「はーい!」


 上機嫌なミーヤと手を繋ぎ、大通りから脇道に入って路地裏に出る。

 路地裏もそれなりに人が行き交っているのだが、賑わっている大通りに比べると、日当たりが悪いせいかどこか寂れている印象がある。

 だがこんな場所にも店がある。アリシャに連れて行ってもらった古着屋がそうだし、以前ルアンと一緒に行った道具屋も路地裏に店を構えている。

 その道具屋に美咲はミーヤを連れて足を運んだ。

 扉を開けると、前回と同じ涼やかなベルの音がする。


「いらっしゃい。何をご入用で?」


 前回と同じく、老人の店主が美咲とミーヤを出迎えた。


「外傷に効く魔法薬と、薬草を見せてください」


「はいはい、ちょっと待っていてくださいよ」


 店主は売り物が並んだ棚からいくつか商品を取り出して、カウンターに並べた。


「魔法薬はこれだけです。切り傷、刺し傷、擦り傷、外傷なら何にでも効果がありますが、打ち身や捻挫、骨折等には効果が無いので気をつけてくださいよ。薬草はそれぞれ血止め、鎮痛、化膿止めの三種類になります。いくつお買い求めになりますか?」


 しばらく考え込んだ美咲は、店主に個数を伝える。


「魔法薬は四人分。薬草は三種類全部二人分ください」


 明らかに多いが、念のためである。何が起きるか分からないなら、何が起きてもいいように準備しておくのは当たり前のことだ。

 大口の注文に、店主はたちまち上機嫌になった。

 ほくほく顔で、揉み手をしそうな勢いだ。


「はいはい。いっぱい買ってくれたのでおまけしましょう。合計三十ペラダです」


 大通りの道具屋と比べるとあまりの安さに、美咲は思わず目を見開いた。

 支払いを済ませていると、その間興味深そうに店内を見ていたミーヤが、店の一角を見て歓声を上げた。


「あっ! 飴さんがあるー!」


「ちょ、ミーヤちゃん何処行くの!?」


 ミーヤは美咲の手から繋いでいた手を離し、駆け寄ると一本のビンを持ち上げる。中には緑色のキャンディーがぎっしりと詰まっていた。


「お姉ちゃん、ミーヤこれ欲しい!」


「ほっほっほ。当店自慢の薬草喉飴ですぞ。一ビン五十ペラダになります」


 伝えられた値段に、二重の意味で美咲が驚いた。


(高いけど、安い!)


 矛盾しているが、ある意味その通りである。

 五十ペラダは日本円に換算すると、大体五千円程度になる。五千円の飴と考えると目玉が飛び出るほど高いが、この世界では砂糖が貴重なことを考えると、大量の砂糖を使って作る飴が一ビン五千円というのは、逆に安いと言えるのだ。

 そして、美咲は基本的にミーヤに甘い。美咲自身も、甘味に大分心が動かされている。


「買います」


「やったー!」


 食い気に負けた美咲の横で、思わぬおやつの獲得にミーヤが飛び上がって喜んだ。


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