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美咲の剣  作者: きりん
二章 魔物の脅威
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九日目:生き延びた二人1

 暗闇の中を美咲は一人で歩いていた。

 傍には誰もいない。ルフィミアもグモの姿もなく、気がつけば、美咲は一人になっていた。

 どうしてこうなったのか美咲にはまるで分からなかったけれど、何も見えない中その場に留まっているのも怖かったので、美咲は明るい場所を求めて彷徨っていた。

 やがて、深い闇の向こうにちらりと何かが滲んで見えた気がした。

 美咲がよく目を凝らしてみると、どうも見知った姿のように見える。

 鉄の鎧を着込み、鉄の剣を背負った少年。


「……ルアン?」


 その姿が誰なのか分かった瞬間、美咲は駆け出していた。


(良かった。ルアンは死んでなかった。無事だったんだ!)


 よく考えれば、あの状況でルアンが生きているというのは明らかにおかしかったのだけれど、ルアンを見つけたことに狂喜乱舞していた美咲は、そんなことにまで気が回らなかった。

 暗闇の中を、美咲は足元にも注意せずに、ただルアンの姿だけを見つめて走る。

 だが、奇妙なことに、ルアンは歩いているのに、一向に走っている美咲との差が縮まらない。

 ルアンの姿はいつまで経っても、大きくなることはなかった。

 やがて息が切れた美咲は、倒れ込むようにその場に蹲る。


「何で!? どうして追いつけないの!?」


 蹲った美咲が見つめる先で、ルアンの姿がゆっくりと闇の中に紛れて消えていく。


「待って、置いていかないでよ、ルアン……」


 縋るように手を伸ばす美咲に一度も振り返ることなく、ルアンの背中は完全に闇に埋没してしまった。



■ □ ■



 目を開けた美咲は、上半身を勢いよく起こした。

 寝汗をびっしょりとかいていて、べったりと肌に衣服が張り付く感触を、美咲は気持ち悪く感じた。


「ゆ……め……?」


 呆然とした表情で美咲は呟く。

 周りを見回してもルアンの姿はない。暗闇ですらなかった。それどころか、開け放たれた窓から差し込む日は高い。

 さすがにまだ昼にはなってないはずと美咲は予想するが、寝坊してしまったことに変わりはないようだ。


「あんな夢見たうえに寝過ごすなんて……最悪」


 美咲は顔を押さえてため息をついた。

 状況的に考えて、起きない美咲をルフィミアが運んでくれたのだろう。迷惑をかけてしまったと、美咲はルフィミアに対して申し訳なく思った。

 身を起こした拍子に、美咲の身体からかけられていた布団がずれ落ちる。

 変哲もない、むしろ美咲の基準でいえば、少々みすぼらしく見える、簡素な寝室のベッドで、美咲は眠っていた。

 年月による風化を感じさせる板張りの床は、少々埃っぽい。しかし、そう思うのも美咲が日本人だからで、この世界の基準でいえば、これでもそこそこ清潔に保たれている方だ。

 本来なら床と同じような色の板を晒しているであろう壁はクリーム色の壁紙で覆われ、木枠には取っ手のついた開閉できる木製の窓が取り付けられている。

 ベッドは部屋の隅にあり、左側には美咲が履いていた靴が奇麗に揃えて置かれている。

 反対側の壁にはドアがあり、左手の壁には勇者の剣が立てかけられ、剣の横には美咲がつけていた防具もあった。

 道具袋が無いことに気付いた美咲は、慌てて部屋中を見回した。


(……メモ?)


 ランプが置かれている台に、羊皮紙の切れ端があるのを見つけ、美咲は切れ端を取り上げる。

 羊皮紙には走り書きらしいベルアニア文字の他に、いくつかの種類が違う文字が書かれていた。


(読めない……)


 おそらくはルフィミアが書き残したものだろうと当たりをつけた美咲は、ルフィミアに聞けば分かるだろうと考え、まずはルフィミアを探すことに決める。

 完全にベットから出て靴を履いた美咲は、簡単に身支度を整えると勇者の剣を携え、部屋から廊下に出た。


(ここ、どこだろう。宿屋か何かなのかな……)


 おそらくルフィミアが自分を運んだのだろうと美咲は推測しているが、やはりルフィミア自身の姿が無いというのは不安だ。


「あのー、ルフィミアさん……? どこにいますか……?」


 張り上げようとした声は、心細さから、か細いものへと尻すぼみに変わる。

 いくつかの扉の前を通り過ぎ、階下に下りる階段まで来た美咲は、遅ればせながら今いる場所が二階だということに気がつく。

 階下からは、ざわめきや食器が鳴るカチャカチャという音や、注文などが飛び交う威勢のいい声が聞こえてきて、美咲は引き寄せられるように階段を下りていく。

 予想通り、ルフィミアは一階にいた。


「美咲ちゃん、こっちよ」


 階段を下りた美咲は、美咲に気付いたルフィミアに手を振られる。

 ルフィミアは二人がけの対面型テーブル席に座っており、二つあるテーブルの窪みには、ルフィミアが愛用している杖が立てかけられていた。

 もう一つの窪みに勇者の剣を立てかけ、美咲はルフィミアに頭を下げる。


「ごめんなさい。寝過ごしてしまいました……」


「いいのよ。色々あったから、私もあえて起こさなかったんだもの。良く眠れた? 魘されてたみたいだけど」


 恐縮する美咲に、ルフィミアはにこりと微笑んでみせる。


「ここにはルフィミアさんが運んでくれたんですか?」


「そうよ。起こそうと思ったけど、全然起きなかったからそのまま運んじゃったの」


 からからと笑うルフィミア以上に美咲の方が驚いた。

 確かに美咲はこの世界の人間に比べれば非力な分、軽いだろうし、元の世界の基準でいっても軽い方だったが、それでも人一人の重量を運んだというのに、ルフィミアはピンピンしている。


(魔法でも使ったのかな? でも、私の体質もあるし、それはないか)


 どうやら美咲の顔に疑問に思っていたことがそのまま出ていたらしく、ルフィミアは美咲が尋ねる前に自ら口を開く。


「運ぶっていっても、街に入って一番近い宿屋に運ぶだけだから。強化魔法は使えなかったけど、元々が軽いおかげで負担なんてなかったから心配しないで。それより朝食にしましょ。食べながらでいいから、色々話して欲しいわ」


(……来た。やっぱり、そうなるよね)


 説明しないわけにはいかないことを悟った美咲は腹を括る。

 テーブルに備え付けられたメニュー表を手に取ったルフィミアは、話す内容を考えている美咲に問いかけた。


「私が適当に頼んでいいかしら?」


「あ、はい、どうぞ」


 答えるためにいったん思考を中止した美咲は、店員に声をかけて料理の注文をするルフィミアを見て、己の懐事情に思いを馳せた。


(お金、足りるかな……)


 何しろ、ゴブリンの巣のクエストが大失敗に終わった現在、美咲の懐はかなり寒い。

 食事代の一つも払えない、というほどではないが、無駄使いができるほど余裕があるわけでもなかった。

 現実逃避気味にたそがれていた美咲は、素っ頓狂なルフィミアの声に現実に引き戻される。

 慌てて振り向けば、ルフィミアは注文を取りに来た店員に食って掛かっていた。


「ちょっと! いくらなんでも高すぎない!?」


「申し訳ございません。戦争の影響で食料品全般の仕入れ値が上がっておりまして……」


 見れば、ルフィミアがテーブルに広げたメニュー表には、元の値段らしき文字に線が引かれ、新たな文字が書き加えられている。


「……じゃあ、ターネのスープを、二つで」


 さすがに戦争のせいと言われてはそれ以上食い下がるわけにもいかず、ルフィミアはしぶしぶといった様子で矛を納めた。

 しばらくして、美咲とルフィミアのもとにスープ皿が二つ運ばれてくる。

 底の浅い小さなスープ皿には、狐色の透き通ったスープに、煮込まれて透明になったタマネギのような野菜が申し訳程度に浮いている。どうやらターネというのは、このタマネギもどきの名前らしい。


「ごめんなさいね、こんなのしか頼めなくて」


 自分のスープ皿に苦い顔で視線を落としていたルフィミアが、美咲の視線に気付いて顔を上げ、申し訳なさそうな顔をした。


「いえ、私スープ好きですから」


 美咲は慌てて首を横に振ると、スプーンを手に取ってスープを掬い、口に運んだ。


「あっつ……!」


 盛んに湯気が出ていたスープをうっかり油断してそのまま口に含んでしまった美咲は、口を押さえて身悶える。

 水を飲もうと慌ててテーブルを弄るが、元の世界と違ってこの世界では水も貴重で立派な商品の一つなので、注文しない限り出てこないのを、美咲はうっかり失念していた。


「だ、大丈夫?」


 慌てて身を乗り出してきたルフィミアに、美咲は涙目になりながらも、首を縦に振って問題ないことを伝える。

 今度は注意深くスープを啜りながら、美咲は何から話せばいいか考える。


(エルナはあまり口外しない方がいいって言ってたけど。この場合はそういうわけにもいかないよね)


 迷っているのを察したのか、ルフィミアの方から提案が来る。


「とりあえず、私からいくつか質問してもいいかしら。答えたくなかったら答えなくてもいいから」


 明らかに美咲に配慮したルフィミアの提案に、美咲は慌てて首を横に振る。


「構いません。私に答えられることなら何でも答えます」


「ありがとう。じゃあ、早速だけど、発動した私の強化魔法があなたにだけ効かなくて、私にかけた強化魔法すらあなたに触れたとたんに無効化されたのはどうして?」


「……誰にも言わないって約束してくれますか?」


「私、口は堅い方よ。墓場まで持っていくわ」


 水の代わりにスープを啜って唇を湿らし、美咲は重い口を開く。

 魔王を倒さなければならない、という点を含めて全て、美咲はルフィミアに打ち明けた。

 美咲の話を聞いたルフィミアは、髪をかき上げるとため息をつく。


「そっか。ありがとう、話してくれて。何かあるとは思ってたけど、これはまた随分な話ね。……異世界人、か。実際に見るのは初めてよ。魔法が効かないなんて、本当に魔法使い泣かせだわ」


 ルフィミアは降参とばかりに両手を掲げた。

 お手上げ、ということらしい。


「そもそも、美咲ちゃんは完全に一方的に呼び出されただけの被害者なのに、たった一人お供につけただけで放り出すなんて、王族の考えることは分からないわね」


 この世界の人間であるルフィミアから見ても、美咲の待遇は非常識らしい。


「同感です。どうせなら、軍隊とかつけてくれればよかったのに」


 エルナとの二人旅をさせられた身としては、王子に文句の一つや二つでも言いたくなる美咲だった。


「さて。これからの話だけど、美咲ちゃんはどうするつもりなの?」


 真顔で本題に入ったルフィミアに、美咲は考え込んだ。

 ヴェリートに行こうとしたそもそもの目的は、魔族のことや戦争の詳しい情勢について情報を集めることと、グモを逃がすことだ。

 グモを逃がすことはもう達成したけれど、残りの二つについてはまだ美咲は何も知らないと言っていい。

 調べようにも、文字が読めない美咲では方法が限られてしまう。

 ルアンがいれば図書館で魔族について調べるなりできただろうし、貴族というコネを活用して情報を得ることは難しくなかっただろうが、美咲一人ではそれもおぼつかない。

 勇者であることを簡単に明かすわけにはいかないし、現状の美咲では明かしたところで説得力がないから信じてもらえないだろう。


(……困ったな。私一人でできることって、なさそう)


 美咲の眉がハの字に下がった。

 元々、今回はヴェリートへ行く予定は無かったけれど、そのうち行きたいと思っていた。

 不幸中の幸いと言っていいのか、せっかくヴェリートに辿り着いたのに、何のためにヴェリートに来たのか分からなくなってしまったのだ。


(ラーダンに帰るしか、ないよね……)


 膝に置いた美咲の両の拳に、力が入った。

 気付けば美咲は唇を噛み締めている。

 分かってはいても、美咲はラーダンで待っているルアンの両親のことを思うと、気が重かった。

 彼らに、どの面下げて会えばいいというのか。


(でも、会わないわけにはいかない。そんなの、無責任だもの)


 自分たちを生かすために、ルアンは一人あの洞窟に残った。状況から見て、生きている可能性は極めて少ない。

 ならば、生き残った人間として、ルアンの最期を伝える義務があると、美咲は思うのだ。


「……やっぱり、ラーダンに帰ろうと思います」


「そう。でも、旅に必要なお金はあるの? 食料もそうだけど、この分だとたぶん全体的に物価が値上がりしてるわよ。今いくら持ってる?」


「これだけ、ですけど」


 自分の残金を思い浮かべ、美咲は指を立ててみせる。


「それじゃパン一つ買えないわよ。ここのスープだって、二つでこんなにしたんだから」


 ルフィミアも美咲と同じように指を立ててみせる。

 示された金額は、美咲の残金よりも余裕で高かった。

 自分の分すら払えない事実に思い至り、美咲の顔色が真っ青になる。


「ど、どどっどうしましょう」


 うろたえだした美咲に、ルフィミアが苦笑して付け加える。


「ああ、今回は私の奢りだから心配しないで」


「いいんですか?」


 太っ腹に驚いて美咲が問い返すと、ルフィミアは肩を竦めた。


「助けてもらった命の値段だって考えれば、安いものよ」


 美咲は押し黙る。

 ショックの度合いで言うならば、ルアンを喪っただけの自分よりも、エドワード、ディック、ピューミの三人を一気に喪ってしまったルフィミアの方が深刻だということに、今更ながら気付いたのだ。

 自分のことだけしか考えていなかったことを、美咲は恥じた。


「あの、ルフィミアさんはこれからどうするんですか?」


「私? 私は前に言った通り、しばらくは美咲ちゃんと一緒に行動しようと思ってるわ」


 きょとんとする美咲に、ルフィミアはウインクする。


「ルアン君に頼まれたし、そうでなくとも美咲ちゃんには助けられた借りがあるから。さすがに今すぐ二人で魔王城まで行けとかそういう無茶言われたら断るけど、美咲ちゃんがこれから先強くなって、メンバーもきちんと揃えたなら、私も命賭けてもいいと思ってる」


 驚いた美咲は、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、身を乗り出した。


「それって、魔王退治に付き合ってくれるってことですか!?」


 上ずった声を上げる美咲に、ルフィミアは浴びせられる回りの視線に苦笑しながら、座ってと美咲にジェスチャーで示しつつ、頷く。


「それで、提案なんだけど。美咲ちゃん、一度一緒に戦場に出てみない?」


「戦場、ですか?」


 途端に不安そうな表情になる美咲に、ルフィミアは微笑んで話を続ける。


「もちろん、前線で戦えなんて言わないわ。後衛で魔法を撃つ私の護衛をしてくれればいい。前衛さえ崩壊しなければ飛んでくるのは魔法だけだから、美咲ちゃんでもなんとかなるはずよ」


「でも、弓矢とか飛んでくるんじゃ……。私、魔法は防げても飛び道具は防げませんよ」


「大丈夫よ。既存の遠距離武器は魔族領じゃ殆どが廃れてる。何せ、射程距離も精度も威力も連射性能も全部魔法の方が上だから。いわば魔法はそれらの上位互換なのよ。今の戦場は魔法の撃ち合いからの白兵戦が常道ね」


 ルフィミアの発言を受け、美咲は考え込む。

 確かに魔法が効かない美咲の体質なら、危険度は少ないだろう。唯一危険なのは弓矢などの飛び道具だが、ルフィミアの説明によればそれらは魔法の台頭で廃れて魔族側は使わなくなっているという話だし、警戒する必要性は低そうだ。

 同時に、美咲は思い出した。


(そういえば、ルアンのお家にお邪魔させてもらった時に、お兄さんがヴェリートにいるって聞いたような)


 それなら、兄経由でラーダンの両親に伝えてもらうという手もある。

 本当なら美咲が直接伝えに行った方がいいのだろうが、金が無い現状は仕方ない。無い袖は振れないのだ。

 でも、ルアンの兄には自分の口で伝えた方がいいだろうと美咲は判断した。


「このあと私は傭兵登録所で傭兵登録してくるけど、美咲ちゃんはどうする?」


「私も行きます。お金稼がなきゃラーダンに帰れませんから」


 本音を言えば美咲は傭兵になんてなりたくなかったが、ヴェリートで金を稼ぐには傭兵になるのが一番手っ取り早いのも確かだった。

 ヴェリートの冒険者ギルドは戦争のせいで事実上の機能停止になっているし、農業や手工業などに属する職業は親から子へ受け継がれていくもので、なろうと思ってなれるものではない。

 美咲の世界にあったような職業安定所は無く、収入の当てが無い者は実質冒険者として日々の糧を得ているが、ヴェリートではそれは叶わない。

 あとは売春くらいしかないが、言うまでもなくそんなの美咲は死んでもごめんだった。


「じゃあ、食べ終わったら一緒に行きましょう」


「分かりました」


 頷いた美咲は再びスープを啜る。

 ずずず、という音を聞いたルフィミアが眦を吊り上げた。


「こら、音を立てない。行儀が悪いわよ」


 注意された美咲は最初意味が分からずぽかんとしていたが、すぐにマナーの認識に違いがある可能性に気がつく。

 よく考えたら美咲の世界でも、国によって違うのだから、全くおかしくはない。


「ごめんなさい。私の故郷では、いつもこれが普通だったので。気をつけます」


「まあ、正式な場で食事しているわけでもないし、そもそもマナーなんて上流階級が集まる場でもないと重要視されないから、本当はそれほど気にする必要はないんだけどね。回りなんて、ほら」


 上品に音を立てずにスープを飲んだルフィミアが、苦笑しながら視線で美咲に回りを見ろと促す。

 見れば、皿に盛られた料理に直接手をつけて食べる者、器からスープを直飲みする者など、美咲の常識では目を疑うような光景が繰り広げられていて、見る限り誰もマナーなど誰も守っていなかった。

 一つの大皿に盛られた料理を奪い合うようにナイフで切り分け、食べている集団もある。

 彼らは美咲たちと同じように、皆何らかの武器をテーブルに立てかけており、いかにも荒くれ者といった風貌だ。


「何か、回りが凄いことに……」


 唖然とする美咲を、ルフィミアがくすくすと笑う。


「彼らの殆どは、ちゃんとした場に出ればたちまち紳士に早代わりするんだから、面白いわよ」


 ルフィミアの台詞を聞いてしばらく考え込んだ美咲は、仰天してルフィミアに問い返す。


「それって、皆貴族ってことですか!?」


「その通り。前にも説明したと思うけど、傭兵にしろ冒険者にしろ、やっぱり元手が必要だから。平民でも知己さえあればお金を借りたりして自前の武具を用意できることもあるけど、それは例外だしね。平民が自分の力だけで伸し上がるには、それなりに運が必要よ。貴族出身の傭兵もそうだけど、初陣で命を落とす奴が一番多いから」


 話を聞いた美咲は、熱いスープを飲んでくるのに背筋が冷えてくる気分だった。

 これから戦場に出るかもしれないのに、あまり縁起の悪い話は聞きたくない。

 剥れる美咲に、ルフィミアは苦笑する。


「あらあら、怖がらせちゃったかしら」


「怖くなんてないです」


 強がってみせる美咲だが、ルフィミアはくすくすと笑うだけで何も言わず、美咲はどうも強がりがばれているような気がして恥ずかしくなった。

 羞恥心を誤魔化すように、美咲はスープをスプーンで掬って胃に流し込む作業に没頭する。


「食べ終わりました。行きましょう」


「じゃあ、出ましょうか」


 席を立つルフィミアのスープ皿は、当たり前のように奇麗に空になっていた。


(かなり急いだのに、私より早くルフィミアさんが飲み終わってるし……)


 釈然としないものを感じながらも、美咲はルフィミアと連れ立って宿屋を出た。


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