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美咲の剣  作者: きりん
六章 守るべきもの
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二十九日目:終わりの始まり2

 ディミディリアからは結局自分がするべきことの指針を貰えず、美咲は途方に暮れた。

 自分のするべきことが分からないから困っているのではない。

 むしろ、美咲のするべきことなど一つしかない。

 もちろんそれは、魔王を倒すことだ。魔王を倒して、死出の呪刻を解呪することだ。

 しかしそれを行うためには、どうしたって情報がいる。

 魔王の予定もそうだし、魔王城の警備状況だって知りたい。

 自分の仕事があれば、そこから行動を広げていくことが出来るのだが、生憎ディミディリアは何も言わなかった。

 一応、アズールに押し付けられた仕事ならあったのだけれど、それはもう仕事の対象である人間の女たちを混血の隠れ里に送ってしまったから、仕事自体が無くなってしまった。

 もっとも、女たちの介錯の懇願を聞きながら仕事するのは気が滅入るのが確実なので、美咲は自分の決定を取り消そうなどとは思わないが。


「うー。どうすればいいのよ」


「とりあえず、もう一度魔王様に会って相談したら? 死出の呪刻のことを話せば、魔王様が何とかしてくれるわよ」


 迷う美咲にエウートが助言をしてくれる。


「私もそれがいいと思いますよ。まずは動かないと状況が変わりませんし、当たって砕けろです!」


 ニーナも落ち込む美咲を元気付けようとしてくれる。


「美咲ちゃんの場合、砕けたら死んじゃうかもしれないから、切実に訴えかけないとね。私たちも発言が許されるなら、懇願してみるわ。だから、元気出して、ね」


 微笑むルカーディアに励まされた美咲は、うじうじ悩んでいた自分が恥ずかしくなった。

 三人の言う通りだ。まずは動かないと何も始まらない。ただ時間を浪費するだけで終わってしまう。


「でも、魔王……陛下って会おうとして会えるものなの? こっちから面会申し込むなら、色々日程調整とか必要なんじゃ」


「……あ」


 魔王に敬称をつけることに微妙な表情を浮かべたルフィミアが、美咲がうっかり失念していた懸念事項を指摘する。

 そうだ。謁見できるのは一ヵ月後なんてことになったら目も当てられない。

 というかほぼ今日会うしかない。残り時間的に、明日でもきつい。

 幸い引き返せばすぐにディミディリアを捕まえられたので、魔王と謁見したい場合はどうすればいいか、美咲は聞いてみた。

 どうやら、魔将ならば会いたい時に会っていいらしい。

 公務中でも、魔将の意思を優先することを魔王自身が許しているという。

 外交の最中とかに乱入されたらどうするんだとか美咲は思ったのだが、ディミディリアが言うには魔将は急を告げる用件などを持ち込むこともあるので、黙認されているらしい。


(じゃあ、魔王がいそうな場所を探せばいいんだ)


 ひとまずの行動指針を定めた美咲は、皆に向き直る。


「皆ありがとう。まずは魔王……陛下に会ってみることにする」


 美咲はルフィミアと同じところで言葉に詰まった。

 魔王への敬称がつけ辛いのは美咲も同じだ。


「口添えなら任せてください! 私たちからも頼んでみます!」


 カネリアが勢い込んで助力を表明する。


「そもそも私たちにまで発言が許されるかどうかは分からないけれど……」


 身分差故に、言論そのものを封殺されることをエリューナは懸念しているようで、少し不安そうだった。


「まあ、情報を集めたりとか、できるだけのことはやってみるわ」


 あまりメイラは嘆願が上手くいくとはおもっていないようで、ドライだ。


「美咲ちゃんのお役に立てるよう、頑張りますね!」


 メイラとは逆に、マリルは何がなんでも成功させようと勢い込んでいる。


「私たちの言葉がどこまで届くか正直分からないけど、何もしないよりはマシかしらね」


 同じ年長組だからか、ミトナも駄目で元々的な姿勢を取っている。


「ルゥも頑張ってお話する!」


 そもそもきちんと話せるのか不安になる口ぶりで、ルゥが元気よく叫ぶ。


「やるだけやってみようよ、お姉ちゃん」


「……そうだね」


 顔を見合わせた美咲とミーヤは、微笑みを浮かべて行動を起こした。



■ □ ■



 まずは魔王の居場所を探さなくてはならない。

 ディミディリアに聞こうかと思ったのだが、入れ違いになったようで、私室にはいなくなっていた。

 会えるうちに聞いておかなかったことを、美咲は少し後悔する。


(……仕方ない。とりあえずいそうな場所を片っ端から見てみよう)


 方針を決め、美咲は歩き出す。

 その後ろを、ミーヤ、ルフィミアを始め、ニーナ、エウート、ルカーディア、カネリア、エリューナ、メイラ、マリル、ミトナ、ルゥの十一人が続いていく。

 大人数で歩いているのだが、美咲の場合はそれが権力と持っている力を分かり易く示しているため、面倒事が少なくて済んでいる。

 もし美咲やミーヤだけだったならば、人族に敵対意識を持つ魔族たちに絡まれていてもおかしくない。

 実力的にいっても、美咲とミーヤがディミディリアとアズールに対して一歩も二歩も劣っているのは事実なので、そういった意味でも群れるのは正しいといえる。

 美咲の場合は魔法無効化能力が強さのうちかなりの範囲を占めているし、ミーヤに至っては魔王の呼び笛が全てだ。


「そういえば、ミーヤちゃんのペットの皆はどうしてるの?」


 普段よりも側にいるペットたちが少ないことに気付いた美咲は、ミーヤに尋ねた。


「んっとね、ペリ丸は魔王城を群れと手分けして探索してるよ。マク太郎は大きくてうろつかせるわけにもいかないから、外にある騎獣用の畜舎を一部借りてそこに置かせてもらってる。ゲオ男とゲオ美が見ての通り今の護衛で、ベウ子たちはミーヤの部屋で営巣してるんじゃないかな。ベル、ルーク、クギ、ギアもミーヤの部屋だね。フェアはミーヤについてるよ」


 答えたミーヤの懐がもぞもぞと動き、中からフェアが顔を出す。


「♪」


 無邪気に笑うフェアを見て、美咲も自然と口元に笑みが浮かぶ。

 フェアは姿形こそ小さいが人型だ。

 しかし、その精神は成熟しておらず、どちらかといえば子どもに近い。

 それは種としてのフェアリー全体の特徴で、フェアだけが例外というわけではない。


「他にも魔都や魔王城中に散らばってるし、いざとなったらいつでも魔王の呼び笛で呼び寄せられるから、不測の事態にもバッチリ対応できるよ」


 頼もしいミーヤの言葉に、美咲は不覚にも感動してしまった。

 小さかったミーヤがいつの間にかこんなにも頼もしくなっていたことに驚かされたのだ。

 その変化にこそ、ミーヤの努力の結果が垣間見える。

 で、肝心のこれからの行き先だが、美咲はまず謁見の間に向かうことにした。

 ディミディリアに魔将ならいつでも行っていいと言われているものの、やはり無作法なのは緊張する。

 謁見の間に入ったら誰かが謁見している真っ最中だったらどうしようと考えてしまう。

 魔王城を歩いている途中に警備をしている魔族兵たちに何度も出くわすのだが、畏まって挨拶をされるだけで普通に通してもらえた。

 彼らの内心までは分からないが、少なくとも表面上は無碍に扱われることもなく、彼らは美咲とミーヤに敬意を表している。


(魔将効果、凄い……)


 地位の重要さというものを、美咲は実感する思いだった。

 辿り着いた謁見の間には、魔王はおらず警備の魔族兵が数人いるだけだった。

 彼らも美咲とミーヤの姿を見ると礼儀正しく挨拶をしてくる。

 それに軽く手を挙げて答えた美咲は、そのまま謁見の間を通り過ぎて魔王城の奥へ向かう。


「ミーヤちゃん、この先に何があるか分かる?」


「ちょっと待ってね、聞いてみる」


 美咲がミーヤに尋ねると、ミーヤはペリトンを一匹呼び寄せて尋ね始めた。

 本来なら魔物でありどんな言語も解さないペリトンと意思の疎通をするのは難しいのだが、ミーヤは翻訳サークレットの効果で意思の疎通を行うことができる。

 元はこの世界の言語が喋れない美咲のために用意されたものだから、効果は覿面だ。

 しかも、異世界人の体質でも打ち消されないように、わざわざ魔法がかけられただけの安物ではなく、魔法の効果と同様の効果が物質そのもに宿っているものを用意してもらえた。

 当然、ベルアニアの国宝扱いの至宝であることは間違いない。

 事実を聞いたわけではないから全ては美咲の推測に過ぎないが、可能性は高いはずだ。


「一番奥に魔王の私室があるって」


 ペリトンはとても重要な情報を美咲とミーヤにもたらしてくれた。

 お礼を言ってペリトンを再び放す。美咲のお礼は伝わらずとも、ミーヤのお礼は伝わっただろう。

 放されたペリトンは一度美咲とミーヤの方に振り向くと、再びどこかへと走っていった。

 道なりに進むと、いかにも公の場っぽかった雰囲気が薄れてくる。

 数が多かった警備もまばらになり、少なくなった分だけ美咲とミーヤに向けられる視線も減る。

 いくつか扉を通り過ぎた先に、魔族兵が二人警備している部屋があった。

 深く考えずに扉を開けようとした美咲の手を、ルフィミアがそっと押さえた。


「全員で入るのか、誰か残るか、それくらいは決めておいた方がいいと思うわよ」


 ルフィミアの発言に、美咲はもっともだと思った。


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