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美咲の剣  作者: きりん
六章 守るべきもの
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二十八日目:お買い物2

 結局、服飾店にディミディリアはいなかった。

 まあ、いない可能性の方が高いのは分かりきっていたし、元々駄目元だったから、美咲はそれほど悲観していない。

 それに、他の皆は目当ての洋服を買うことができて、それだけでも一定の意義はあったといえるだろう。

 美咲自身はラーダンで仕立ててもらったオーダーメイドの服があるし、それより前に古着屋で買ってもらった掘り出し物の加護つき服もある。

 魔都の店でも加護つきの服は取り扱っていて、むしろラーダンなどよりもよほど種類が多かったのだが、値段も相応に高く手が出なかった。

 ラーダンでは傭兵団の制服に装甲馬車と高額の買い物をしたが、それもアリシャとミリアンの資金援助があってこそだ。

 援助がなければこんなものである。


(ま、仕方ないよね)


 無いもの強請りをするべきではないし、援助を前提としてもいけない。

 援助をしてくれたのは、あくまで好意からなのだから、それを裏切るような行動をするべきではない。

 そしてそのためにも、やはり魔王は倒すべきである。

 魔族そのものについては和解の道を探るのはいいが、魔王だけは絶対に倒すべきだ。

 それだけの助力を、美咲はされてきたのだから。

 とはいえ、そう簡単にはいかないのが実情である。

 魔王に挑むこと自体は簡単だ。何しろ美咲は今、魔王のお膝元にいて、いつでも魔王に牙をむくことができる立場にいる。

 どうして魔王が美咲を魔将という立場につけたのかは今でも分からないけれども、お陰で懐に潜り込めているのだから、それはそれで悪くない。

 同時に部下を持つことを命じられて、美咲も魔族に知り合いなんてほとんどいなかったから顔見知りから選ぶしかなく、部下に守られると同時に動き辛くなってしまった。

 そしてそもそも、誰が美咲に死出の呪刻をかけたのか? という疑問すら湧き上がってきた。

 ずっと魔王がかけたとばかり思っていたが、当の本人には否定されたし、そもそも殺すつもりなら魔将になんてつけるはずがない。生かすつもりなら死出の呪刻なんて邪魔にしかならない代物、すぐに解呪するはずである。

 多大な犠牲を払って魔王を倒し、だが呪刻は解けなかったでは冗談では済まされない。

 死んだ仲間たちは無駄死にだし、美咲の努力全てが無為になる。

 そして誰が美咲死出の呪刻を刻んだのか? という疑問を思い浮かべた時、一番怪しく見えるのが死霊魔将アズールだ。

 よりにもよって、現在美咲と魔王を倒すことで目的が一致し手を組んでいる相手である。

 魔王を殺した後で、用済みとばかりに暗殺されかねない。そうでなくとも、魔王を倒して呪刻が解呪されなければどの道美咲は死ぬのだ。


「次はどこに行きますか?」


 カネリアに話しかけられ、美咲は我に返った。


「そうね。とりあえず歩いてみようか。それで気になる店があったら入ってみる感じで」


「随分あやふやねぇ。本来は牛面魔将様を探してることも、忘れてないわよね?」


 じっとりとした視線を送ってくるメイラに、美咲は思わず苦笑した。


「それはもちろん。というか忘れてたら本末転倒じゃない」


「大丈夫よ。メイラじゃないんだから」


 にっこりと微笑むエリューナの台詞は、笑顔に反して黒い。


「ちょっとそれどういう意味!?」


 凄むメイラに、マリルがジト目を送る。


「メイラさん、私たちが手早く選ぶ中一人だけ凄く時間使ってましたよね……美咲ちゃん時間ないのに」


「うぐっ」


 迷いまくって美咲を散々待たせていた自覚があるメイラは、痛いところを突かれたとばかりに閉口する。


「私、別に気にしてないし大丈夫よ」


 形勢が不利なメイラを気遣って美咲が声をかけると、呆れた表情のミトナに軽く窘められた。


「気にしていいのよ。今のあなたは私たちの上司だし、命に関わることなんだから」


 至極もっともである。

 美咲としては、自分が彼女たちを使う立場にあることに、違和感しか感じないのだが、なってしまったものは仕方ないので慣れるしかない。

 それよりも、ディミディリアの居場所だ。


「服飾店で聞いても、ディミディリアの居場所は分からず、か」


 次に入る店を見繕いながら美咲が一人ごちると、ニーナ、エウート、ルカーディアの軍人組三人が口々に口を挟んでくる。


「まあ、来てなければそもそも知ることもできないですし」


「知り合いがいるならもしかしたらっていう可能性もあったけど、外れたわね」


「やっぱり、武器屋とかそっち系の方が良さそうよ」


 ミーヤが無邪気な表情でさらっと毒を吐いた。


「牛のおばちゃん、腰蓑一枚で棍棒とか振り回してるほうが似合いそう」


「あなた、たまにとんでもないこと言うわね……」


 偶然ミーヤの台詞を聞きつけたルフィミアが唖然としている。

 こう見えて、ミーヤは案外したたかな一面もあるのだ。

 精神的に揉まれて成長したのは美咲だけではない。


「あった。武器屋、入ってみようか」


 魔族文字は分からなくても、看板に剣や槍などの武器のマークがあれば、それが武器屋だということくらいは想像がつく。

 美咲は振り返って、仲間たちに告げた。



■ □ ■



 魔族が営む武器屋の品揃えは、ラーダンで見た武器屋と比べて独特だった。

 まず飛び道具の類が一切無い。

 弓矢も投擲武器も何もかもだ。

 これは魔法が関係していて、そういう武器を使うよりも魔法を使う方が魔族にとっては安上がりかつ安定性が高いという理由がある。

 それこそ物心つくころから魔族語に慣れ親しんでいる魔族は、皆が皆息をするかのように魔法を使う。

 弓に矢をつがえて射る、投擲武器を投擲する、そんな動作よりも、魔族は魔法を発動させる方が早いのである。

 例え魔法が使えるようになっても、人間ではこうはいかない。

 故に人間の間では遠距離武器はまだまだ現役なのだが、魔族の間ではすっかり廃れてしまっているというわけだ。


(投げナイフ、補充したかったけど無いなら仕方ないか……)


 直接の有効打にはならなくとも、牽制としては中々便利なのだが、売ってないので今持っている分を使い切ってしまえばそれでおしまいだ。

 回収すれば使いまわせるが、戦闘状況によっては回収する余裕が無かったり、見失ってしまったりすることも多々ある。


「お姉ちゃん、こんなのあった!」


 ミーヤが声をかけてきて、振り向いた美咲は思わず仰け反った。

 一番最初に目に付いたのは、ゲームで蛮族がかぶっていそうな、独特なデザインのお面だった。

 お祭りで売られているお面のように、おでこに引っ掛ける形でつけていてミーヤ自身の顔が見えているからいいが、普通に顔を隠してかぶっていたら、完全に呪いの仮面である。

 自我を乗っ取られてしまいそうだ。実際そうなっても「ああ、やっぱりな」とか思ってしまいそうなほど禍々しいデザインをしている。


「ど、どうしたの? それ……」


「あそこにいっぱいあるよ」


 引き攣った表情で尋ねる美咲に、ミーヤは店の一角の陳列棚を指差す。

 確かにそこには、同じような仮面がいっぱい置かれていた。


「これが武器なの? とてもそうは思えないわね」


 元人間であり、現在は不本意ながらアンデッドになっているルフィミアも、初めて見たようで唖然としている。


「ああ、それは魔法発動補助用の仮面ですね」


 謎の仮面の用途を教えてくれたのはニーナだった。

 さすが魔族だけあって、知識があるようだ。

 もっとも、魔族の間では常識であるようで、彼女だけでなく他の面々も知っているようだったが。


「拡声の魔法がかけられてて、それで魔法の発動範囲を広げると共に、口元の動きを隠すことで発動する呪文の種類を悟られにくくする武器よ」


 エウートが仮面のうち、おそらくは狐をモチーフにしているであろう仮面を手に取る。

 狐の耳や尻尾が特徴的なエウートには、禍々しい仮面でも同じ狐という共通点がある的な意味では違和感がない。

 ただし、味方としてではなく敵キャラとしてだが。


「うん。気に入ったわ。私これ買おう」


(買うんだ……)


 魔族の間では、あの禍々しいデザインでも問題ないらしい。

 種族間の常識の差というものを、美咲は少し知った気がした。


「私は仮面は別に要らないわね。特にピンとくるデザインのものも無いし」


 ルカーディアはどうやら仮面に興味が無いようで、ちらりと一度視線を向けたきりで別のものを見ている。

 美咲も気を取り直して店内の観察を続ける。


(近接武器は充実してるんだね……。そういえば、ブランディールも大剣持ってたし、ディミディリアも大きなハンマー持ってたなぁ。どっちもいかにも重量級な)


 よく見れば、美咲でも持てそうな小さめの剣などは種類が少なく、多く並べられているのは、どれもこれも大きく器用さよりも純粋に腕力が求められるようなものばかりだ。

 当然それらには理由がある。

 一つは魔族は個人によって程度の差こそあれ皆強化魔法が使えるので、それで筋力を強化すれば本来なら持てないような重さの武器を問題なく扱えてしまうこと。

 もう一つは、強さのほとんどを魔法に頼りがちな魔族は基本的に懐に潜られると脆いので、そもそも懐に飛び込まれないようにするか、飛び込まれても問題ないように相手よりも破壊力で勝る武器を持つ必要があるということだ。

 重量武器はその重さゆえに当たり難い欠点があるが、それも魔法で筋力を強化すれば問題なくなるので、ただ純粋に破壊力を追い求めればいい。

 ブランディールやディミディリアなどは、破壊力を重視した武器を持った典型的な例である。


「あ、良い物あるじゃない」


 何かを見つけたルカーディアが、弾んだ声を上げた。

 マイクつきヘッドフォンを彷彿とさせるデザインのカチューシャのようなものと、空飛ぶ小型スピーカーとしか言い様がない代物。

 当然機械ではないので、あくまで美咲の主観で見て似ているというだけでしかない。


「何ですか、それ?」


「魔法発動媒体の一種よ。親機と子機に別れてて、子機に飛行魔法が掛かってるの。親機には声を子機に伝える魔法がかけられてて、本来なら自分の周囲だけとか限られた範囲にしか効果を及ぼせない魔法でも、好きな場所で発動させられるようになる武器よ」


 なんというか、魔族特有の武器はやはり魔法がらみで、しかも発想がかなり斬新だった。


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