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美咲の剣  作者: きりん
六章 守るべきもの
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二十八日目:美咲の部下探し9

 つかの間の水遊びが終わり、再び服を着た一行は、避難所の建物のロビーに戻って休憩する。


「それで、話って何でしょうか」


 そう美咲に尋ねてくるマリルの服装は、肩がむき出しのワンピースで下半身がマーメイドラインになっているものだった。

 人魚にしか見えないマリルが人間の足の状態でマーメイドワンピースを着ているというのも、それらしくて何だか面白い。

 なお、ルゥについては一応人型を取ることも出来るが、基本的に貝殻の中に引き篭もっているし、身体が軟体なので服を着るという習慣がそもそも無かったようだ。まさかの裸族である。

 それでも、やはり回りが服を着ていれば自分も着たくなるようで、上半身だけ、それも胸元までしかない下着のようなシャツを着ている。下半身は当然すっぽんぽんである。というか不定形である。


「うん。実は上の意向で部下を持つことになっちゃって、それをマリルちゃんとルゥちゃんにお願いしたいんだ」


「え!? 私たちが、ですか!?」


「ルゥも?」


 驚くマリルとルゥに、美咲は誠実に頼み込む。


「他にも、カネリアちゃん、エリューナさん、メイラさん、ミトナさんの参加が決まってるの。二人が良かったらだけど、マリルちゃんとルゥちゃんにも力を貸して欲しい」


 頭を下げる美咲に、マリルが慌てた。


「そんな……頭を上げてください。むしろ、私たちなんかで、美咲さんのお役に立てるかどうか……」


 謙遜するマリルに、美咲は微笑んでみせる。


「大丈夫だよ。だって二人とも、私なんかよりもずっと強いもの」


 それは間違いなく美咲の本心で、ある意味では事実でもあったが、全てでもなかった。

 対魔族に限定すれば、美咲はこの中で一番強いかもしれない。


「さすがにそれは言い過ぎだわ。あなただって凄く強くなってるのよ、美咲ちゃん」


 かつての美咲と今の美咲を両方知っているルフィミアは、誰よりも美咲の成長を見抜いている。

 だからこそ、美咲の自分を下げる発言に反論した。

 自分を思ってくれるからこそのルフィミアの言葉に、美咲は嬉しげに微笑んだ。


「ありがとうございます。……でも、確かに自分で実感できる時もあるのは確かなんですけど、全然足りないんですよ。……守れないんじゃ意味がないんです」


 美咲の表情に自嘲が混じり、笑顔が翳った。

 確かに美咲は強くなった。

 ただ守られるだけだった最初の頃から比べても、格段に。

 それでも、掌から零れていった命は、あまりにも多い。


「それは……!」


 声を荒げて反論しようとするルフィミアを、美咲は首を横に振って押し留める。


「分かってます。一人で得られる強さには限界があります。死出の呪刻に縛られている私じゃ、なおさら時間は掛けられない。だからこそ、私は仲間を作るんです」


 目的を察し、マリルが青褪めた。


「まさか……美咲ちゃん、魔王様を殺そうと……?」


 当然、そう思われるのは予想のうちだ。

 なので美咲は慌てずに否定する。


「私の目的は、身体に刻まれている死出の呪刻を解呪すること。魔王の殺害は手段の一つではあるけれど、さすがに今の時点でその選択を真っ先に選ぼうとは思わないよ。あくまで最後の手段だね。まずはディミディリアとかに相談してみるつもり。魔王が自分から解呪してくれるなら、それに越したことはない。もしそうできるなら、今までのことはグーで一発殴るくらいで水に流してもいいとさえ思う。少なくとも、私の感情としては」


 実際には、そう上手く割り切ることはできないだろう。

 美咲だけの感情としてはそれで良くとも、背負った仲間たちの思いや願いを捨てることになる。それはしたくない。

 だから、魔王を殺さないにしても、せめて平和を勝ち取りたい。

 つまりは種族間戦争の終戦だ。

 まあ、言うは易し、行うは難しの典型だけれども。


「ルゥもその方がいいと思う」


 貝殻の中から顔だけ出して、ルゥが美咲の発言に同意する。


(アズールとは魔王を殺す協定を結んでいるけど、状況は変わった。穏便に済むならそれに越したことはない。……気が進まないけど、アズールとも打ち合わせをやり直さないと)


 もう一度アズールと面会するのは本当に気が進まないけれども、引き伸ばしにするのもあまり良くない。


(そもそも、どうして魔王は私を生かしたんだろう。どうせ、死出の呪刻がそのままなら、後三日もない命なのに)


 疑問は尽きなかった。



■ □ ■



 マリルもルゥも、美咲の部下になることを承諾してくれた。

 こうして部下が十人集まったので、ディミディリアに報告に行く。


「って、ディミディリアって普段どこにいるんだろ」


 いざ探す直前になって、美咲は根本的な問題に気付いた。

 アズールならば私室を知っているが、ディミディリアの私室を美咲は知らない。


「皆、知ってる?」


 美咲が全員を見渡すと、ミーヤとルフィミアが揃って首を横に振った。


「ミーヤ、分かんない」


 口をへの字に曲げるミーヤは口惜しそうだ。役に立つチャンスなのに、生かせないのが嫌なのかもしれない。


「私もちょっと分からないわねぇ」


 そんなミーヤの頭を撫でながら、ルフィミアが苦笑する。


「軍人なら知ってるかな?」


 もしかしたらと思い、魔族軍の軍人であるニーナ、エウート、ルカーディアの三人に美咲は目を向けた。


「私たちは軍人といっても、任務地が違いますから、そこまでは」


 しかし、どうやら美咲の思惑とは違ったようで、ニーナは申し訳なさそうな顔になる。

 確かに、ニーナもエウートもルカーディアも、働いていたのは魔都ではなく別の街だ。ミルデとアレックスの故郷である魔族の街に駐屯している魔族兵だった。

 知らないのは無理もないし、それを責めることもできない。当然だ。


「もし軍人で知ってるとしたら、魔王城警備とかしてる奴らじゃない? 聞いてきてあげようか?」


 どこかそわそわと落ち着き無い様子で、エウートが美咲に申し出る。

 素っ気無い態度で視線もあらぬ方向を向いているが、時折ちらちらと美咲の方を見ているので、単なるパフォーマンスであることが分かる。

 エウートは気の強い性格で、他人に好意を示すのが苦手だ。それが、元々嫌っていた人族である美咲ならばなおさらである。

 もちろん美咲だから嫌いなわけではないし、美咲自身を嫌っているわけではなくむしろ美咲だけで見れば好いているのだが、いかんせん意地っ張りなので伝わり難い。

 その分、関わりのあるニーナやルカーディアがエウートの感情に聡く、エウートをからかったりするので、実は美咲にもエウートの感情は割と伝わっている。

 そういう場合は気がつかない振りをするのがマナーだ。でないとエウートが恥ずかしがって最後には怒り出すので。


「いい考えね。行ってきなさい」


 同じように人間を嫌っていても、エウートとは真逆の変化を見せた者もいる。

 ルカーディアだ。

 彼女は過去に同じ軍属の夫を人族軍との戦争で失い、復讐のために魔族軍に身を投じた過去を持つ。

 夫は当時の最前線勤務で、ルカーディア自身はある程度治安が保たれていた魔族の街が勤務地だった。

 人族を殺したいという復讐心とは噛み合わない、どちらかといえば平和な場所だったのだが、もしかしたらそれは上層部の温情だったのかもしれない。

 復讐心をそのままに前線に身を投じていれば、復讐鬼となったまま戦死していたとしてもおかしくなかっただろうから。

 少なくとも、美咲に出会って美咲限定とはいえ、人族に対する復讐心を捨てた今のルカーディアだからこそ、そう思う。


「はいはい。ちょっと待ってなさいよ」


 気安い様子でエウートが答え、小走りで避難所を出ていった。

 年齢に差こそあるが、ルカーディアはニーナやエウートを下に置かず同格として扱っている。

 軍歴はルカーディアの方が長いから先任なのだが、それを傘に着るようなこともしない。

 対等な関係の仲間だと思っているのだ。


「ところで、美咲さんの部下になるのはいいんですけど、具体的にどんなことをすればいいんでしょう。いまさらですけど、私戦うのはあまり好きじゃないです」


 不安そうな表情のカネリアに、美咲はきょとんとした。


「そうなの? 魔族だから皆強いものだとばかり……」


 美咲は今までの間に、魔族という種族の脅威を嫌と言うほど味わってきたので、誰であろうと魔族は強いと思っていた。

 それはある意味では間違いではない。

 魔法を使えるということは、それだけで魔法を使えない人間に対して優位に立つことができるというのも、確かな事実だ。


「そりゃ、魔族なんだし人間に比べたら強いと思うわよ。でもそれと戦いが好きかどうかはまた別の問題」


 メイラが呆れた様子でため息をつく。

 カネリアと同じく、どちらかといえば争いごとは嫌いなメイラは、本当は軍人になるつもりはなかった。

 それを翻したのは、美咲のためだ。美咲の頼みだからこそである。

 そしてメイラ本人が認めるかどうかはともかく、実はメイラは性格そのものは軍人に向いている。

 真面目で気が強いというのは、それだけで素質があるといえるし、それでいていざとなれば冷静に周りを見ることができるというのは、戦う技術とはまた別の貴重な才能だ。

 気の強さと理知的さを併せ持つのがメイラという女性なのである。

 同じ気の強さを上げるならばエウートやルカーディアもそうなのだが、エウートは理知的というには頭に血が上りやすいし、ルカーディアはただ単に理知的というには陰気で険が強い。


「私たちは元々村人ですから。私やミトナくらいの年齢になるとそれなりに経験がありますし、軍歴があったりもしますけれど」


 穏やかな様子を崩さず、エリューナが美咲と会話をする。

 美咲の部下になった者の中では最年長のエリューナは、さすがに年の功というべきか、落ち着いている。


「確か、私たちの中で軍歴があるのはエリューナさんとミトナさんだけですよね」


 宙を見つめて記憶を辿るマリルに、ミトナが肩を竦めた。


「昔取った杵柄だけどね。現役と同じように動ける気はしないかな。ブランクあるしリハビリしないと」


 密かに、ミトナは自分たちの村が人族軍に占領されてしまった時、ろくな抵抗が出来なかったことが口惜しかった。

 それは相手が魔法を扱う虎の子の精鋭部隊だったためだが、そんなことはミトナにしてみれば言い訳に過ぎない。

 自分を磨き直す。

 ミトナが美咲の部下になることを了承したのは、そんな目的も含まれている。


「ルゥ、防御力には自信ある」


 貝殻から顔だけ出して、ルゥがむふんとドヤ顔をした。

 確かに硬そうな貝殻である。

 叩けば物凄い手応えが返ってきそうだ。

 美咲は皆と雑談して親睦を深めながら、エウートが戻るのを待った。


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