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美咲の剣  作者: きりん
六章 守るべきもの
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二十八日目:美咲の部下探し7

 メイラを仲間に加えた美咲は、次の人物を求めて再び廊下に出た。


「他の候補も決まってるんでしょうね?」


 尋ねてくるメイラに、美咲は頷く。


「うん。後はエリューナさんに、マリルちゃん、ミトナさん、ルゥちゃんにしようと思ってる」


 美咲の人選を聞いたメイラは呆れた表情を浮かべた。


「全部うちの元村人じゃない。まあ、あんたに魔族側の交友関係が広いとは思えないし、そうなるか」


 呆れ顔を苦笑に変えるメイラに、美咲も苦笑を返す。

 確かにメイラの言う通り、助けた魔族を片っ端から誘っている感は否めない。


「そうだねぇ。私が知ってる魔族の人ってそんなに多くないし、その中でも私の部下になってくれそうな人ってさらに限られちゃうから」


 しかも何の因果か、またしても女性ばかり。

 美咲としては、頼り甲斐のある男の人が一人くらい居てもいいと思うのだが。


(でも、私が知ってる魔族の男性っていうと、生きてるのはアレックスさんとアルルグ、クアンタの三人しか居ないしなぁ)


 アレックス分隊には元々岩男のゾルノ、全身針男のアルベール、鮫頭のスコマザ、二面のオットーという四人の男性魔族がいたのだが、生憎占領された魔族の村に囚われたニーナ、エウート、ルカーディアの三名を助けに潜入して逆に殺されてしまっている。


(ゾルノさんとか、副官を務めていただけあって凄く頼り甲斐がありそうだったのに)


 本人が引き受けてくれたかというと未知数とはいえ、男性魔族もそれなりにはいたのだ。死んでさえいなければ。

 さすがにアレックス本人は引き抜けないし、アルルグ、クアンタも誘ったところで頷かないだろう。あの二人は美咲を嫌っている。

 個人を見て美咲を嫌っているのではなく、人族だからという理由で美咲を嫌っているのだから、美咲としては遣る瀬無い。

 まあ、最初はアレックスの部下全員がそんな態度だったので、ニーナ、エウート、ルカーディアの三名と和解できただけでも僥倖と思うべきだろう。

 ツンしかなかったエウートに、無関心だったニーナ。そして露骨に憎悪を露にしていたルカーディア。よくここまで変わったものだ。

 その変わった一人であるエウートが親しげに美咲の肩を叩き、背中に身を寄せてくる。


「むしろ私は十人もいる方が驚いてるわ。何だかんだ揃いそうじゃない」


 和解してから、美咲は彼女たちにこういうスキンシップを取られるようになった。

 ニーナも美咲に頬を寄せて微笑んだりしてくるし、ルカーディアは背後から美咲の背筋に息を吹きかけたりして悪戯してくる。

 悪気はないようなので別にいいのだが、距離の詰まり方にちょっと吃驚する。


「軍人教練については私たちが経験あるし、基礎は教えられると思うよ」


 軽く自分の胸を叩くニーナは、気負いを自慢も見せず、当たり前のこととして美咲に告げた。


「私は軍歴長いし、教導経験もあるからむしろそういうのは得意よ。任せなさい」


 逆に盛大に頼ってオーラをかもしているのがルカーディアだ。

 胸を張っているので大きな乳房が服越しにはっきりと盛り上がっている。


「うわあ、皆さん頼り甲斐がありますねぇ」


 無邪気にカネリアが笑顔で感心した声を上げ、ミーヤがしょんぼりした。


「何か、ミーヤ除け者みたい……」


 何故か気落ちしてしまったミーヤを見て、美咲は慌てて元気付けようとする。


「そ、そんなことないよ!」


「じゃあ、ミーヤも参加していい?」


「え? それは……」


 言い淀んだ美咲は、言葉につかえて答えあぐねる。


(どうなんだろう……)


「やっぱりミーヤは邪魔者なんだ……」


 さらにずーんと落ち込んだミーヤを見て、迷っている場合じゃないと悟った美咲は素直に自らの思いをぶつけることにした。

 ミーヤは本格的に落ち込んでいる。ならば、美咲も取り繕ったりするべきではない。


「そんなことないから! 絶対ないよ! それだけはない! 忘れないで。皆は私の部下だけど、ミーヤちゃんは私の相棒なんだよ」


 それは、かつてミーヤが美咲に叫び、激励したのと同じ内容の言葉だった。

 辛いことばかりで挫けそうになった時、ミーヤを巻き込みたくないと思った時、ミーヤはいつもそう言って、美咲を叱咤激励して支え続けてくれた。

 それが、相棒でなくて何なのか。


「……あいぼう!」


「そう。相棒。だから皆は私の後ろを歩くけれど、ミーヤちゃんは私の隣を歩いて欲しい。同じ目線で、同じものを」


「……うん!」


 晴れやかな笑顔を浮かべる美咲とミーヤを見ながら、半眼でエウートが呟く。


「どう見ても背の高さ的に同じ目線じゃないって突っ込むのは野暮なんでしょうね」


「そういうのは思っても言っちゃいけないんだよ、エウートちゃん」


「はあはあ。良い眺めだわぁ」


 苦笑しながらエウートをたしなめるニーナの横で、ルカーディアが美咲とミーヤのやり取りを見て何故か頬を蒸気させ興奮している。


「良い台詞ですねぇ。常に隣で、同じ目線で同じものを見て欲しいだなんて。異性に言われたらプロポーズも同然ですよこれ」


「くさいわ! 台詞がくさすぎるわ! 聞いてるこっちまで恥ずかしくなってくる!」


 ほのぼのしているカネリアの横では、顔を真っ赤にしたメイラが悶えながら身を捩っていた。



■ □ ■



 次はエリューナのところに向かうことにした。


「エリューナさんって今どこにいるんだっけ?」


 尋ねる美咲に、カネリアがにこやかに答えた。


「さっきも言いましたけど、今の時間ならミトナさんと一緒に庭の手入れをしているはずですよ」


「そっか。じゃあミトナさんとも一緒に会えるね」


 一石二鳥だと喜ぶ美咲に、メイラが肩を竦める。


「二人とも、庭の手入れが好きみたい。ここに来てからほぼ毎日欠かさずやってるわ」


 美咲とカネリア、メイラが会話をしている横で、ニーナ、エウート、ルカーディアの元アレックス分隊組も会話を交わす。


「確かに、ちょっと見ただけでもここの庭綺麗でしたね」


 ニーナはちらりと見た避難所の庭を思い出していた。

 色取り取りの季節の花が咲き誇り、色彩に溢れた綺麗な庭だった。


「そうねぇ。軍の駐屯地も整備はされているけど、景観のための庭とかないしね」


 ため息をつくエウートの脳裏には、駐屯地の光景が浮かんでいる。

 基本的に景観は二の次で、空きスペースがあれば鍛錬場などに使われてしまうので、基本的に土がむき出しか、精々下草を刈るくらいのことしかしていない。

 木も邪魔なものは切り倒してしまうので、実用一辺倒なのが徹底している。

 こんな状態で庭を整備しても、絶対にそこで鍛錬を始める者が現れて魔法の流れ弾などで破壊されたり炎上したりする可能性が高い。

 明確に禁止すれば別だろうが、戦闘能力を高めるのが軍人としてのあり方の一つなのに、それを禁止しては意味がない。

 別の場所を使えばいいかもしれないが、別の場所でも同じことがいえるのだから、結局はどこでも一緒だ。

 それでも女性としては、やはり殺風景なのには思うところがあったらしい。


「花とかあるだけでも心が安らぐから、あってもいいと思うわ」


 ルカーディアが苦笑し、今だからこそいえる不満を口にした。

 今のルカーディアたちは、軍人であることに違いはないが、人魔将の親衛隊員という扱いであり、厳密に言えば軍の指揮系統から離れている。

 魔将は魔王の腹心なのだから、おのずと魔将の親衛隊員も軍とは別の指揮系統に属する。


「じゃあ、庭に出てみようか。綺麗な庭だったから、じっくり見てみたいし」


「ミーヤも見る!」


「うん。じゃあ一緒に見よう」


 相変わらず美咲とミーヤは仲が良く、ともに魔将となった今でもその仲の良さは代わらない。

 というより、二人とも魔将となった自覚はあまりない。

 もちろん事実として魔将になったことは認めているが、それで魔王に従うかどうかはまた別の話だ。

 美咲の目的はあくまで死出の呪刻の解除であり、そのためには魔王を殺さなければならない。

 魔王と敵対しなくなって、解呪してくれる可能性も出てきたから今は従っているが、そうでなければまた戦うだけだ。

 部下になってくれた魔族たちを裏切ることになるが、死出の呪刻を解除するという目的だけは美咲は譲れない。

 絶対に。

 それを願って、旅を続けてきたのだから。

 庭に出て美咲が見たのは、ちょっと異様な光景だった。

 女神像みたいな女性と阿修羅みたいな女性が剪定ばさみを片手に植木の枝を切っている。

 前者はエリューナであり、後者はミトナだ。

 他の人物もそうだが、魔族は見た目のインパクトが強過ぎる。

 魔族に比べれば、人族の個性など全て霞み全員同じに見えるだろう。

 それくらい、多種多様すぎるのだ。


「あら、美咲ちゃんじゃない。カネリアとメイラも。どうしたの?」


 美咲に気付いたエリューナが手を止めて振り向く。

 その背後では、ミトナが三本の剪定ばさみをそれぞれ三対の腕の片手に持って自在に操っている。

 常人の三倍のペースで見るからに早い。

 思い切りその様子に目を奪われそうになった美咲は、エリューナに注意を戻して居ずまいを正した。


「実は、お願いがあってきたんです。カネリアとメイラにはもう話してて、同意ももらえたんですけど」


「あら、ということは私たちにも?」


 首を傾げるエリューナの横で、ミトナが静かに手を止めた。


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