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美咲の剣  作者: きりん
六章 守るべきもの
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二十八日目:美咲の部下探し4

 無事にニーナとルカーディアを部下に加え、美咲の親衛隊はルフィミア、ニーナ、エウート、ルカーディアの四名が確保できた。

 残りは六名。当然選ぶのは今まで美咲が出会った魔族の中からになるだろう。


(他に面識のある魔族の軍人は、アルルグとクアンタ……は、無理だよねさすがに。仲良くなれてないし)


 当たり前だが美咲に面識がある魔族などそういないので、候補は自然と絞られる。

 すぐに思いつくのは、混血の隠れ里にいるミルデに、人族に占領された魔族の村でニーナたちと一緒に救出したカネリア、エリューナ、メイラ、マリル、ミトナ、ルゥの六人だ。

 カネリアは羊のようなふわふわした白い髪が特徴的にな魔族で、エリューナは陶磁器のようなつるつるとした肌を持つ女神像を思わせる魔族だ。

 翼が捥がれこそしたものの、金髪巻髪の天使のような美貌を持つ翼族であるメイラ、下半身が魚で人魚姫そのものの容姿のマリル、腕が六本あるエキゾチックな美女ミトナ、そして貝殻の中に引き篭もる貝娘ルゥ。

 彼女たちは軍人ではないが、魔族の間では軍人だろうと民間人だろうと直接的な実力の差に極端な違いがあるわけではないので、本人たちが了承さえすれば部下にすることは可能だろう。


「そういえば、私が皆さんと一緒に保護した村の女の人たちはどうしてます?」


「今も魔都にいると思うわよ。そもそも村は変わらず人族に占領されているから戻れないもの」


 美咲の質問にエウートがすぐさま答えた。

 もしかしたら、事前に美咲が疑問を抱くことを予想して調べていたのかもしれない。

 エウートだけは異動命令で事前に部下になることが本人も分かっていたのだから、調べる時間は多少なりともあったはずだ。


「いるとしたら避難所かな。難民を受け入れるために魔族軍が管理してる避難所があるから、多分そこにいると思う」


 積極的に、ニーナも美咲に対してアドバイスをしてくる。

 仲良くなったのはニーナの方が早く、美咲に対して一番に心を開いたのだから、ニーナはもっと美咲と仲良くなりたいという願望があった。

 特に、ニーナは二度美咲にその身を救われているので、三人の中では一番美咲に傾倒している。

 エウートとルカーディアが美咲に心を許すのに多少なりとも時間が掛かったのに比べ、ニーナはあっという間に美咲と仲良くなった。

 その理由としては、元々ニーナは人間に対して無関心だっただけで、エウートやルカーディアのように明確な憎悪や嫌悪を持っていなかったこともあるだろう。

 ある意味では無関心というのはただ嫌いであるということよりも酷いが、この場合はプラスに働いたといえる。


「ちょうど六人だし、あの人たちを誘ってみようかと思うんだけど、どうかな? 意見があったら聞かせて欲しい」


 美咲の申し出に、真っ先に追従したのはニーナだった。


「私はいいと思うよ? 確か今は除隊してるけど元軍人もいたはずだし」


 ニーナは美咲によく懐いていて、基本的に美咲のいうことに対して異を唱えない。

 それはそれでいいのだが、美咲が間違ったことを言っても盲目的に従う傾向があり、慕われすぎるというのも考え物である。


「誘う分には構わないと思うけど、承諾してもらえるかどうかはまた別よ。他の候補も一応見繕っておいた方がいいと思うわ」


 それに比べ、エウートは美咲に心を許しながらも言うことははっきりと言ってくれる。

 判断を誤ればずけずけと指摘してくるし、言わなければいけないことはきついことでも構わず口にする。

 これはもう性格の違いで、ただ一途に慕い嫌われたくないと思うニーナと、仲が良くても基本的にはツンツンしているエウートとの性格の差が現れている。


「どうしても見つからなかったら、私たちの知り合いを当たってみるのもいいかもしれないわね。説得なら私たちでもできるし」


 一番敵対的だったルカーディアは、一度蓋を開けてみれば美咲にクソ甘い保護者と化した。

 甘さ加減ではニーナといい勝負である。

 最後に美咲は事態を見守っていたルフィミアとミーヤに確認を取る。


「ルフィミアさん、こんな感じでどうでしょう。ミーヤちゃんもこれでいいかな?」


「いいと思うわ。問題は私が受け入れられるかだけど、それは私が努力すればいいことだしね」


「ミーヤも知らない人より、知ってる人がお姉ちゃんの側にいる方が安心できるからそっちがいい!」


 二人の賛成を取り付けた美咲は、ニーナ、エウート、ルカーディアの三名に向き直る。


「じゃあ、その避難所に行ってみようか。誰か案内してくれる?」


 三人の間で誰が案内役を引き受けるかを巡り、また少し揉めたのだが、全くの余談である。



■ □ ■



 現在避難所で暮らしているのはカネリア、エリューナ、メイラ、マリル、ミトナ、ルゥの六人だけらしい。

 彼女たちがやってくるまではもっといたのだが、入れ違いになるように行き先が決まって退所していったそうだ。

 カネリアたちも、このまま何もなければ魔都か他の街で新しい仕事を見つけることになるだろう。

 美咲はそうなる前に、何とか彼女たちをスカウトしたいと考えている。

 もっとも、本人たちの同意が一番なので、彼女たちが嫌だと言ったら仕方ないけれども。


「わあ、お花がいっぱい咲いてる!」


 避難所の回りには花壇が広がり、色取り取りの季節の花が咲き誇っていた。


「魔都のお花屋さんからの寄付らしいですよ。避難してきた方々の心の慰めになるようにって」


 ある程度知識があるニーナが美咲に説明をする。

 元の世界の花の種類ならば美咲も多少なりとも知っていたけれど、この世界の花の名前は全然分からない。

 しかも会話に使用しているのが魔族語なので、日常会話はともかく固有名詞になると美咲にはまだまだ分からない単語が多過ぎる。

 なので、美咲は申し訳なく思いつつも、分かったような振りをして聞き流すしかなかった。

 全てが終わったら本格的に魔族語を学ぶべきだろうかと一瞬思うものの、終わればそれはこの世界との別れを意味するわけで、そんな努力は無意味であり、美咲は心中うなだれる。

 ずっと帰りたいと思っていたのに、いざ終わりが見えてくると急に名残惜しくなってくるのだから業腹だ。

 そもそも帰るためには魔王を倒さなければならないので、まだ最大の障害が残っている。


「避難所の運営は営利目的じゃないから補助金があるけど、それでも寄付がないと中々厳しいみたいね」


 この程度は魔族の間では一般常識なのか、エウートもすらすらと述べる。


「結構色んなところから寄付が出てるのよ。ニーナが言った花屋もそうだし、食べ物もお店から寄付されることが多いの。他は家具屋とかかしら。ああそう、建物自体も大工屋の好意でかなり安く建ててもらったそうよ」


 さすがに一番歳かさなだけあって、三人の間ではルカーディアが一番詳しいようだ。


「へえ、そういうところは人間と変わらないのね」


 感心した様子で、話を聞いていたルフィミアが相槌を打つ。


「向こうにもこういう避難所があったんですか?」


「王都やラーダン、ヴェリートみたいな大きな街には大体あるわよ」


 不思議に思って美咲が尋ねると、ルフィミアが美咲に向けて苦笑を浮かべた。


「全然知りませんでしたし、行ったこともありませんでした……」


 美咲としては自分が物知らずであったことを思い知らされ、少し恥ずかしい。


「まあ、美咲ちゃんに関係のある場所じゃなかったからね。無理もないわ。私も常識として知っていただけで、行ったことがあるわけじゃないし」


 肩を竦めるルフィミアの横で、ミーヤが感慨深げに呟く。


「ミーヤもお姉ちゃんと出会わなかったら、避難所に行けばよかったのかなぁ」


 出会った当初、ミーヤはラーダンに辿り着いたはいいもののそこから先が続かない状態で、子どもの知恵で野花を摘んで売って僅かな小銭を得ようとしていた。

 当然子どもの浅知恵で上手くいくわけもなく、美咲が気まぐれから買わなければ餓死しているか、誰か悪い大人に騙されてどこかに連れて行かれていたかもしれない。

 というか、実際に攫われて奴隷にされかけたことがあるから、本当にそうなっていた可能性は割と高い。


「考えてみれば当たり前なんですけど、人間も魔族もそういうところは変わらないみたいですね」


 美咲やルフィミア、ミーヤの話を聞いたニーナが感心した声を出した。


「今までは考えてもみなかったことだから仕方ないわよ。というか、そんな風に考える方が異質よ」


 個人として美咲を認めてはいても、人族に対する感情自体は変わっていないエウートは、美咲が好き過ぎて人間自体に対しても脇が甘くなりつつあるニーナに釘を刺す。


「私たちも美咲ちゃんに会わなければ、こんなことを思うこともなかったでしょうね」


 ルカーディアが微笑んで美咲の頭を撫でてきたので、そんな扱いをされる歳ではないという自覚がある美咲は恥ずかしさに顔を赤らめる。

 それでも、悪い気分ではなかった。


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