表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美咲の剣  作者: きりん
五章 変わらぬ営み
317/521

二十一日目:激突! ピエラ戦争3

 うなりを上げて飛んでくるピエラを、美咲は間一髪で身体を反らして避けた。

 その回避行動をそのまま予備動作として用い、美咲はお返しとばかりにピエラを投げ放つ。

 ピエラを投げるというこの行動は、そのまま戦争における投石攻撃に置き換えることが出来る。

 元々が投石から始まったというからある意味それは当然だけれど、こんなお祭りの行事でも、戦争に繋がる道筋が垣間見えて興味深い。

 スポーツではないので、野球のピッチャーのように、綺麗なフォームを作っている暇は無い。予備動作は少なければ少ないほど良い。それでいて、飛距離は出来るだけ長くしなければならない。

 予備動作を少なくして飛距離を出すコツは、下半身の動きと体幹の連動、そして重心移動を意識することである。

 これは、要はどうやったら重いものを遠くまで投げることが出来るかを考えればいい。

 肩や腕の力だけで投げようとすると、力を篭めた箇所に大きな負担が掛かり、最悪関節を傷める。それを避けるため、身体全体を動かして力を生み出すのだ。


「ミーヤちゃん、次の弾よろしく!」


「了解! お姉ちゃん、今度は大きめだよ!」


 同じピエラでも、自然界で育つものである以上、その生育状況には多少の差が出る。

 すると、大きい石や小さい石のように、大きさが大小に分かれ、それぞれに特徴が出る。

 例えば小さいピエラであれば、より少ない力で速い弾を投げることが出来る代わりに、弾に威力を乗せにくい。元々が小さく軽いので、威力が低いのだ。

 大きいピエラはその逆で、重いから威力は出るが、速さを追求するには工夫が必要になる。

 もっとも、戦争において投石攻撃に重要視されるのは威力と飛距離、そして補給のし易さだろう。上手く頭に当てることが出来れば昏倒させられるし、より遠い距離から投げられれば安全性が高まる。この二つを追求すれば自然と弾が飛ぶ速さは上昇していく。何より、石はその辺にいくらでも転がっている。

 弾の速さよりも、投げる間隔の長さの方が重要だ。短ければ短いほど良い。勿論補給の問題もあるので連投した結果すぐに残弾が尽きてしまっては元も子もないものの、密度が高まるということはそのまま威力や命中率に直結する。

 下手な鉄砲数撃ちゃ当たるという言葉通り、試行回数が多ければ多いほど、命中する確立は高くなる。理論上は。

 実際には、受け手の技量によって防がれたりかわされたりもするため、一概には言えないが、一つの目安にはなるだろう。


「残弾尽きたわ! 私にもちょうだい!」


「僕も無くなっちゃったよ。くれるかな」


「すみません、私も弾切れです」


「はわわわわ! ちょっと待って!」


 ミルデ、マルテル、リーゼリットと次々に補充を求められ、ミーヤは慌ててピエラを取り出し、皆に配る。

 ピエラは一つずつ手渡ししなければならないルールなので、一度に行おうとすると時間が掛かる。

 補給係以外が持てるピエラの数は三個までと決まっているので、この場合は九回受け渡しの時間が発生する。

 そして補給は基本的に満タンにするのが決まりである。つまり、三人の補給が終わるまでは、攻撃出来るのは実質的に美咲だけになるのだ。


(投げるペースを決めておいた方が良かったかも……)


 反射的に美咲は身を屈める。

 後悔が頭を掠めると同時に、ピエラも頭を掠めていった。危ない。


「やっぱりリーダーだと狙われ易いですね!」


 ピエラを投げてきた「母親シスターズ」のクラムの母親を睨み付けながら、美咲は叫んだ。

 今はまだ両陣営とも魔法は使えないので、魔法で理不尽に威力を上乗せされることこそ無いものの、魔族の中でも身体能力が高い人狼族である彼女は、威力が乗ったピエラを次々と投げてくる。

 午前中に使われたピエラは前もって皮を剥いておいたものを使ったけれど、この競技で使うピエラは皮付きだ。当たったら痛い。


「仕方ないわよ! 美咲ちゃんを倒せば、私たちは拠点に強制帰還だもの! 一人一人を撃破していくよりも、遥かに効率がいいわ!」


 ちなみに、有効なのは胴体や頭に当たった時のみで、手足に当たっただけでは命中扱いにはならない。

 なのでミルデは、自分に飛んでくるピエラに関しては器用に足で掴み取っている。

 軽く羽ばたいて空中で身を捻り、優れた動体視力で逃さずキャッチする様は、さすがというべきか安定している。

 なお、地面に落ちる前にキャッチした場合はそのまま自分の弾にしてもいい。そういった意味でも、ミルデのこの技術は貴重だ。


「まあ、それも時と場合に寄るんだけどね。今みたいに拮抗してる状況だと、一発大きいのを狙うよりも、手足から狙ってじわじわ力を殺いでいくのも手だよ」


 朗らかに解説しながら、マルテルは飛んできたピエラを手で叩き落とした。

 意外にも、マルテルは運動神経が悪くない。むしろ、運動神経に関しては妹のリーゼリットの方が悪い。


「ひゃあ!」


「リーゼリットさんにピエラが直撃! 負傷判定ですぞ!」


 避け損ねたリーゼリットにピエラがヒットし、審判役のグモがそれを見て叫ぶ。

 負傷判定というのは、要は「一回当たった」という意味である。一回直撃で負傷判定、負傷判定を受けた後で二回目が直撃すると死亡判定となり、本陣送りになる。

 リーダーがそうなると言うに及ばず、補給係が落ちれば経戦能力が激減するし、それ以外のメンバーでも穴が開く分他への負担が増大して被弾する可能性が高くなる。

 となると、やはり被弾をしないに越したことはないわけで、そういう意味では、リーゼリットは美咲たちの班の弱点となっている。


「ご、ごめんなさい!」


「気にしないで! これくらいまだなんとも無いわ! いけるいける!」


 洋服をピエラで汚しながら半泣きになるリーゼリットを、美咲は気遣う。

 足を止めていると狙い撃ちされてしまうので、美咲は小刻みに立ち位置を変えて敵の狙いを定めにくくした。

 ミルデたちも美咲の意図に気付いており、無作為な移動を取り入れて被弾する確立を減らす努力をしている。


「美咲ちゃん、まずは弱い方から落としていった方がいいわ。あの子たちの父親で組んでる班の方が戦力としては価値が低いから、そっちが狙い目ね」


 敵のピエラが止んだタイミングで、ミルデが美咲に助言する。

 相手はピエラを投げるだけ投げ、残弾が尽きたら適宜補充するのを繰り返しているようだ。

 そのため補給が尽きるまでは密度の高い攻撃に晒されるものの、一度弾切れになってしまえばしばらくは無防備になる。

 ただ、その条件は美咲たちも同じなので、試合を動かすなら弾が尽きる前に行い、最低でもどちらかの班を壊滅に追い込まなければならない。

 どちらも落とせず弾切れになれば、逆に美咲たちが一気に不利に陥る。


「クラム君、クラム君、ちょっと相談があるんだけど」


「なんだ?」


 敵の動向を注視しながら、美咲は味方であるクラムに話しかけた。

 丁度敵が補給中なので、攻撃が止み作戦会議をする時間が生まれている。

 その間に攻め込むことも考えた美咲だったが、肉薄しても二班で力を合わせて攻撃を集中させなければリスクの方が高いと考え、攻め込むのは止めにする。

 話を詰めておかなければ、チャンスが来ても連携出来ない。

 何も言わずとも阿吽の呼吸で会わせられれば最高だけれど、流石にそれは高望みが過ぎるだろう。


「先に片方に集中攻撃して、落としちゃおうと思うの。そっちの残弾は今どれくらい残ってる?」


 尋ねた美咲に、クラムは宙を睨んで記憶を掘り返しながら答えた。


「俺が残り一発、ラシャが二発、マエトが一発、タクルが一発ってところかな。セラが後二十五発持ってる。姉ちゃんたちは?」


 問い返すクラムに、あらかじめ問いかけを予想して答えを用意しておいた美咲は、即座に受け答える。


「補給したばかりだから、全員三発あるわ。ミーヤちゃんは後二十発。そっちも残弾消費して補給して、一緒に仕掛けてみましょう」


 美咲の提案を聞いて、クラムは渡りに船とばかりに了承し、班のメンバーを激励した。


「分かった。ちょっと待っててくれ。そういわけだ! 皆手持ちは全部投げろ! セラはその後皆の補給頼む!」


「補給中は私たちで敵の気を引いておくわね」


 美咲が前に出ながら言うと、背後からクラムの声が聞こえた。


「助かる。終わり次第合流するぜ」


 補給中のクラムたちを庇う形で美咲の班が前に出ると、補給を終わらせた「父親シスターズ」と「母親シスターズ」が再び攻撃を再開してきた。

 狙われているのは、勿論美咲たちの班だ。

 幸い、これ見よがしに美咲の班が突出しているお陰で、敵の二班は美咲たちの班に攻撃を集中させてきた。


「さすがにちょっと、辛いわね!」


 未だ被弾を許さずとも、少し余裕が無くなった表情で、ミルデが吐き捨てる。

 その間もミルデは休み無く動き、自分に飛んでくるピエラを蹴爪がついた足で器用にキャッチしている。

 と、ピエラを投げようと手元のピエラを掴んだマルテルに、意表をついてピエラが飛んだ。

 不意を打たれたマルテルは、かわしきれずに白衣にピエラの染みをつけてしまった。


「マルテル氏、被弾一ですぞ!」


「ごめん、しくじってしまったよ」


 申し訳なさそうに報告してくるマルテルに、美咲は気にするなと首を横に振った。


「一回だけならセーフです!」


「わあああ、いつまでも回避できませんよ!」


「頑張ってください! 特に後が無いマルテルさんとリーゼリットは注意して!」


 ぎりぎりの綱渡りだったものの、なんとか美咲たちは時間を稼ぐことに成功する。


「よし、出来た! いつでもいけるぜ!」


 クラムたちが補給を終えると同時に、敵からのピエラ投擲もぐっと少なくなった。どうやら、「母親シスターズ」の方が補給に入ったらしい。

 今が好機である。


「攻めるわよ! 皆、行くよ!」


「よっしゃあ! お前ら姉ちゃんたちに負けるな! 追い縋れ!」


 美咲とクラムが同時に駆け出し、残りも後に続く。

 慌てて「父親ブラザーズ」が味方の援護をするために前に出るが、リーダーを務めるラシャの父親が撃破され、本陣へと撤退させられた。

 補給を終わらせた「母親シスターズ」が遅れてようやく動き出すものの、既に多勢に無勢。

 交互に補給を行う美咲たちに攻撃の目を潰され、止めの一斉攻撃でリーダーを落とされ、下の道は完全に美咲たちに流れが傾いた。

 その勢いのまま、美咲たちは敵のピエラ砦を破壊し、台車を占領することに成功した。

 結果、美咲たちが担当する下レーンにおいて、魔族軍の前線が上がり、人族軍の前線が下がる。これで、このレーンは美咲たちの優勢に傾いた。

 勿論、それだけでは終わらない。

 相手が復帰するまで、美咲たちは自由に動ける。

 つまり、他の道に乱入して奇襲するチャンスだ。 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ