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美咲の剣  作者: きりん
二章 魔物の脅威
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八日目:魔物退治の準備をしよう2

 まず二人は、道具屋を回ることになった。

 商業都市というだけあって、露天を除いても道具屋だけでラーダンには三軒も店があるというのだから、美咲は何だかわくわくしてしまう。

 一つは大通りに軒を連ねる、三つの道具屋のうちでもっとも大きな店舗を持つ店で、高級志向を売りにしているらしい。

 さすがに美咲に効果を及ぼすような魔法薬までは扱っていないものの、既存の魔法薬の中では、高品質の品々を揃えている。

 また、冒険に必需品である薬類だけでなく、旅装から各種道具類まで豊富に取り揃えており、冒険者や傭兵、騎士などの武芸者のみならず、旅行者などにも人気が高い。客層はやはり旅人や冒険者、傭兵などが中心で、街の人々はあまり利用しないようだ。

 ラーダンの街の人々が利用する道具屋は、最初の道具屋から、大体二百ガートほど離れた場所にある。一バオルが二センチであり、五十バオルが一ガートに相当するので、分かり易く説明すれば、二百メートル先にあるということだ。

 この二軒目の道具屋も大通りに面していて、人の出入りは多い。ただ、店舗は少し小さめで、客層も一つ目の店とは違い、ラーダンの街で暮らす一般市民が殆どだ。置いてある品物も日々の生活に用いる生活必需品が殆どで、ルアンや美咲が必要とするような旅に役立つ道具は扱っていない。

 最後の一つはそもそも大通りに面してはおらず、ラーダンの街の片隅でひっそりと店を営んでいる。扱う品物は雑多、良品粗悪品が混在しており、その代わり全体的に値段が安い。目利きに自信があるなら、他二店で買うよりも、この店で買った方が同じ品物でも安く買えるはずだ。


「一応全部回ろうな。同じ品物でも、店によって微妙に値段が違うから」


 そういうところは美咲の世界と同じ感覚なようで、美咲は奇妙なおかしさを感じてくすりと笑みをこぼす。

 美咲の母親も、家計を節約するためにスーパーを何件も回って安い品物を探していたのを思い出す。


(会いたいな……。お母さん)


 じわりと涙が浮かびそうになって、美咲は慌てて目尻を擦った。

 今は泣いている場合ではないのだ。

 様々な商店があって賑わっている大通りをしばらく歩き、途中で脇道に逸れる。

 袋の絵が描かれた看板が下がっている店の前まで来るとルアンが立ち止まり、美咲を振り返った。

 場所は大通りを外れた路地の一角。

 安さが売りの店である。


「着いたぞ。一軒目はここだ」


 ルアンが扉を開けると、涼やかなベルの音が鳴った。

 続いて美咲も店内に入る。

 店内はランプで照らされていて、蛍光灯などの強い光の照明に慣れた美咲には、少し薄暗く感じる。

 もっとも、美咲にとっては城だろうが宿屋だろうがこの道具屋だろうが、どちらにしろ薄暗いということにあまり変わりはない。

 蛍光灯の明るさを知る美咲は、今だに蛍光灯が無い不便さに慣れない。蝋燭や窓から差す日の光程度の明かりしかないこの世界では、日中は外の方が明るく感じるくらいだ。

 自然と室内では目を凝らすようになってしまうので、目つきが悪くならないか美咲は密かに気にしている。

 それでもきちんと掃除はされているようで、そこかしこに埃がたまっている、なんていうことはない。

 年季の入った店ではあるものの、長年丁寧に磨かれてきたのであろうカウンターや陳列棚などは飴色に変色していて、中々情緒を感じさせる。


(まあ、接客するんだし、奇麗なのは当たり前だよね)


 異世界の道具屋などといわれると、どうしても乱雑に商品が置かれているみすぼらしい店内を想像してしまうが、やっぱりそれも偏見に過ぎないのだろう。

 物を売る商売なんだから、客が選びやすいようにするはずだし、衛生観念にだって気を使うはずだ。

 特に食事所の場合、衛生面が悪いと一発アウトである。営業禁止処分だけなら御の字、最悪は追加で逮捕されかねない。

 実際に中世ヨーロッパのように、汚物を窓から投げ捨てたりする習慣があったら、意味がないけれど。

 今まで美咲が街を回った限りでは、道端でそんな痕跡を見つけたことはないので、その心配は要らないはずである。もっとも、表には見えない場所に捨てるのがマナー、などという無駄な配慮が為されていたりしたら分からないが。

 並べられている商品は、薬草をはじめとする、様々な薬効を持つであろう草の束やら、羊皮紙やインク、羽ペンといった筆記用具に、たいまつやフックつきロープなどの旅の必需品などの数々だ。

 個人的に美咲が面白いと思ったのは、いわゆる元の世界でいう定規も売っていたのだが、単位そのものも元の世界のものとは全く違うということだった。

 メートルやセンチメートルは存在せず、代わりにガートとバオルという単位を使う。

 一メートルと一ガートがほぼ同じだったので、美咲は最初安易に「ああ、メートル法と同じなんだ」と早合点したのだが、実は一ガートが五十バオルなので、実際目にした定規の一バオルの目盛りは、一センチメートルよりも大きく、この世界の定規は目盛りにかなり隙間が空いている。

 実物が手元になくあやふやな記憶が頼りな美咲にさえ分かる違いなのだから、その差は相当大きいものと言っていいはずだ。


「本来なら遺跡探索用なんだけどな。最近は戦争の影響で地形そのものが変わったり、そうでなくても悪路や通れない道が多くなったから、旅するだけでも必要になったんだ。意外と役に立つんだぜ」


 不思議そうな表情になっていたのか、美咲の顔を見たルアンがフックつきロープやたいまつを一瞥してそんな説明をした。

 他にも魔法薬らしき液体が入った瓶があるが、同じ色のものが一まとめにして並べられているのを見る限り、おそらく量産品で美咲に効くようなものではない。

 ベルの音に気付いた店主が、奥の部屋から顔を出して美咲とレオンがいることを確認すると、カウンターの前にまで出てくる。


「いらっしゃい。何をお求めで? 必要な物がお有りなら、言ってくださればお出ししますよ」


 店主は老人だった。

 しわくちゃの顔に愛想のいい笑顔を浮かべ、美咲たちの反応を待っている。


「ああ、まだしばらく見ていたいから、気にせずに」


「そうですか。では、お決まりになりましたら声をおかけください」


 ルアンが応対すると、店主はまた奥に引っ込んでしまった。

 全くこちらの動きに注意を払っていない様子を見て、美咲はやましいことをしているわけでもないのに少し動揺してしまう。

 もちろん美咲自身はそんなつもりはないものの、もし良からぬ客だったら、この状況は好都合に思えるはずだ。


(えええ、万引きとか疑わないのかな……)


 美咲は疑問に思ったが、ルアンは店主の対応が当たり前な様子で熱心に品物を見ている。

 手っ取り早く、美咲はルアンに尋ねてみることにした。

 困ったときのルアン先生である。


「店主さん、私たちにどうして注意を払わないのかな。私たちはしないけど、悪い人に品物盗まれたりするかもしれないのに」


 振り向いたルアンは怪訝な顔をするが、不思議そうな顔の美咲に彼女が常識に疎いことを思い出したらしく、小声で説明した。


「こういう店は認可制だから、大抵防犯目的で国が魔法をかけてくれるんだ。会計を通さずに商品を持ち去ろうとしたら、感知して騒音と追尾の魔法が発動することになってる。すぐさま衛兵が飛んでくるぞ」


 魔法が存在しているおかげか、きちんと防犯態勢は整っているようだ。

 なるほど、と美咲は納得した。そういう機能があるのなら、確かに店主も安心して奥に引っ込むことが出来る。


(私が対象でも感知するのかな)


 ふと興味を覚えるが、いくら何でも確認するだけに万引きを試みるわけにもいかないので、美咲は疑問を疑問のまま放置することにした。

 こればかりは、ルアンに尋ねるわけにもいかないし、試すなどもっての外である。

 ただ時間を浪費するだけでも許し難いのだから、わざわざ罪人として捕まるつもりは美咲にはない。


(あとで余裕があったらアリシャに聞いてみよう)


 事情を知る人間がいるというのは、意外と便利だ。

 他人には漏らせないことでも気軽に相談できる。

 欠点はいつもアリシャが美咲の近くにいるとは限らないことだが、こればかりは仕方ない。美咲の都合でアリシャを束縛するわけにもいかない。

 だからこそ、事情を話せなくても、聞いたことには必ず的確に答えを返してくれるルアンに、美咲は感心した。


「ルアンって物知りだね」


 感嘆の溜息を漏らす美咲にルアンは面食らったようで、そっぽを向いて頭をかいた。

 どうやら照れているらしい。


「物知りって大げさな。一般常識だぞ。……いや、お前には当てはまらないか。お前の国ではどうだったんだ?」


 浮かんだ疑問を尋ねてくるルアンに、美咲は元の世界のコンビニやスーパーマーケット、デパートなどを思い出して答える。元の世界では、これらがこちらの世界の道具屋に近いだろう。もっとも、規模は扱う品々の種類と数が段違いだろうけれど。


「基本的にはお店の人が注意して見てた。後は死角に鏡を置いてたりしてたかな。商品を外に出したら感知して音が鳴るようにしてるところもあったよ」


 美咲が元々いた世界は防犯関係は機械がほとんどで人の目はおまけみたいなものだったが、ベルアニアでも機械が魔法に変わっただけで、ほとんど変わらない。

 意外に近代的だったものの、売り物が売り物としては見慣れないものばかりだったので、美咲は充分異世界の情緒を感じることができた。


「鏡を使うなんて、贅沢だな。それこそ盗まれるんじゃないか?」


 この世界、エルファディアでは鏡は価値の高い貴重品に含まれるので、ルアンには防犯に鏡を使う、というのは本末転倒に思えるようだ。

 まあ、美咲がいた世界での防犯の要は監視カメラやセンサーだったし、鏡が効果実際に効果があったかどうかはただの女子高校生でしかない美咲には分からない。


「そろそろ出るか。次の店に行こう」


 話していた間も熱心に品物の値札を確認していたルアンは、一通り確認したらしく美咲を促して店を出た。


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