十七日目:死の都市から脱出せよ3
しばらくして、脱出に適した窓が見つかった。
見つけたのは美咲とミーヤで、寝室の片隅にぽつんと備え付けられた小さな窓がそうだ。
下は城壁の下に切り立った崖が続いており、一気に城の入り口前までショートカットできる。
入り口前の死人の数は多いものの、それでも城内に犇く数と比べると、ずっと少ない。
比較対象となる城内に蔓延る死人の密度がおかしいので、少ないといっても程度の差でしかなくある程度の誘導は必要だろうが、馬鹿正直に城内を通るよりは遥かにマシなはずだ。
「美咲以外は魔法を使った方が早いな。教えてやるから、お前らこの場で覚えろよ」
「こ、この場でですか!?」
仰天したセザリーが、鸚鵡返しに聞き返す。
「そんなに難しい魔法じゃない。浮くだけの簡単な魔法だ。敵に狙われていれば自殺行為だが、その分習得も容易い。今の状況ではこれが一番適している。危険はあるが、な」
「……ミーヤ、やる。教えてよ」
唇を引き結んだミーヤはペリ丸、マク太郎、ベウ子の娘たち、ゲオ男、ゲオ美、ベルークギアの四兄弟姉妹を引き連れ、決意を宿した表情で、アリシャを見上げた。
ミーヤとて、今の状況をきちんと理解しているのだ。時間は限られている。全員で無事に脱出したいと思うなら、すぐにでも行動に移さなければならない。階段での戦いだって、いつまでも保つとは限らない。
「テナちゃんもやるよ。ミーヤちゃんみたいな小さい子だってやるって言ってるんだ。怖がってられない」
唇を噛んだテナが、悔しそうな表情で言った。実を言うと、テナは怖くて少し尻込みしてしまったのだ。下までの高さは十ガートを軽く超える。つまりは少なくとも十メートル以上あるということだ。
途中で精神集中が途切れれば真っ逆さまだし、死霊魔将がミリアンを倒して追いついてこないとも限らない。その場合、死霊魔将が乱入してくるのは、居館内の戦いではなく、こっちの脱出作業場所だろう。何しろ、降りている間は隙だらけである。空中にいるからろくに身動きも取れない。攻撃されればまず死ぬ。
それでも、やらなければどの道死ぬ可能性が高い。他は死人の数が多過ぎて、物音での誘導もできない状態だ。居館の扉も既に押し破られているし、礼拝堂や別棟の扉も同様だ。
だが、この物量は、ある一つの推測に信憑性を与える。
これだけ多いのだ。ヴェリートの街中の死人の数は、城よりも少ないと見ていい。
「私もやりますぅ!」
「お願いします。私にも、その魔法を教えてください」
イルマとメイリフォアがアリシャに頭を下げる。
「よし。じゃあ、覚えろよ。アゥキィだ」
サークレットをつけている美咲には翻訳されてしまうため分からないが、アリシャの言葉を聞いたミーヤ、セザリー、テナ、イルマ、メイリフォアの五人は、何度か呟くと宙に浮いてみせた。ずっと浮き続けることはできないようで、ゆっくりと地面に戻ってくる。
「上々だな。本来なら浮いたままゆっくり移動できるが、即席ならこんなものだし、降りるだけならこれで十分だ。ここは私が押さえておくから、美咲たちは梯子を作っているあいつらを手伝ってこい」
「分かりました。皆、行くよ」
美咲はアリシャに頷き、ミーヤ、セザリー、テナ、イルマ、メイリフォアの五人にミーヤのペットたちを加え、システリート、ディアナ、ニーチェ、アンネルを迎えに行く。
彼女たちは、客室と寝室のシーツや各部屋のカーテンなど、ありとあらゆる布を引っぺがし、各自の道具袋に入ったロープも使って、簡易的な梯子を作っていた。縄梯子のような、布梯子のような、微妙な感じだが、美咲としては実用に耐えるならそれでいい。
「皆、手伝うよ」
忙しく作業しているシステリートたちに、美咲は話しかけた。
「助かります。では、そちらのシーツを適当な大きなに切って、ひも状に結んでいってください。私達がそれで梯子を作りますから」
「分かりました」
頷いた美咲は、自ら勇者の剣を抜いて積まれたシーツを一枚取り、引き裂いていく。
人海戦術の恩恵もあり、そう時間もかからずに、美咲のための梯子が出来上がった。
居間を出る前、セザリーが美咲に言った。
「美咲様はミーヤちゃん、システリート、ディアナを連れて先に行ってください。私達は螺旋階段で戦っている皆と合流してから参ります」
「分かった。気をつけてね」
首肯した美咲は、セザリーたちとは別の方向に走り出す。その後ろにミーヤとペットたち、システリートとディアナが続いた。
すぐ隣の寝室に入る直前、美咲はちらりと螺旋階段を見た。
よく持ち堪えている。見た所、誰かが欠けている様子も無い。死人が出ていないことに、美咲は心の底からほっとした。
寝室に入ると、アリシャが近寄ってくる。
「よし。こいつをこうして、柱に結び付けて、と」
何をどうしたのか側で見ていた美咲が分からないほどの手際で、アリシャは梯子を固定し、窓の外に垂らし終えた。
「最初に美咲が行け。お前が一番時間が掛かるからな。どうせ途中で追い抜くだろうが、一応だ」
「はい!」
返事をした美咲は、窓枠に足をかけ、部屋の外に出る。上の方はロープで作られた梯子になっていて、比較的順調に降りることが出来そうだ。だが、怖くて下は見れない。思わず足が竦むくらい、高いのだ。落ちればもちろん即死の高さである。とっさに風の魔法で勢いを殺せればいいが、それが失敗したら間違いなく死ぬ。死ぬことはなくても、周りの死人たちに食われるだろう。
(怖くない、怖くない……)
なるべく梯子だけを見るようにして、美咲はそろりそろりと一歩一歩降りていく。牛歩の歩みで、半分も行かないうちに、セザリー、テナ、イルマ、ペローネ、イルシャーナ、マリス、ミシェーラ、ニーチェ、ドーラニア、ユトラ、ラピ、レトワ、アンネル、メイリフォア、アヤメ、サナコが次々と美咲を追い越して着地し、下の死人たちを掃討した。
続いてペットたちと抱き合って団子のようになったミーヤ、システリート、セニミス、ディアナの四人が美咲を追い越して降りていく。
次にタティマ、ミシェル、ベクラム、モットレー、タゴサクが、改めてアリシャから魔法を教えてもらったらしく、悲鳴を上げながら少し早いスピードで降りていく。
どうやら安全な速度を保つには、魔法の練度が足りなかったらしい。まあ、セニミスもいるし、即死していなければ大怪我を負っても何とかなる。
最後にアリシャが降りてきて、美咲にニヤッと笑いながらウインクをして降りていった。誰も欠けていないことに、美咲は二回目の安堵を覚えた。
「行くぞ」
地面に降りた美咲は、走り出そうとするアリシャに話しかけた。
「待ってください。ミリアンさんは待たないんですか?」
「待っているとこっちが危うい。あいつ一人ならなんとでもなるさ。心配するな」
美咲の頭を撫で、アリシャが微笑む。
付き合いの長い友人なのだから、本当はアリシャ自身が一番心配だろうに、それを見せようとしないアリシャに対して、美咲は何も言えなくなってしまった。
そして、市街に出るための城門に着く。
城門には、まるで門番のように魔族が一人立ち塞がっていた。
一言で言い表すのなら、ミノタウロスのようだ、と表現するのが適切か。
牛面人身。分厚い毛皮に覆われ、足は蹄、顔面は紛うことなき牛である。そのくせ、体格そのものは良く鍛えられた人間のそれだ。毛皮の上からでも分かる筋肉の上に、乳房がついているのは何の冗談か。
「私は牛面魔将ディミディリア。魔王様より、この門を守護せよと命令を受けている。悪いが、ここから先へは行かせん」
瞳に確かな知性が宿った瞳で、牛面魔将と名乗った魔族は美咲を見据えた。
「こんな時に……!」
反射的に、美咲は勇者の剣を構えて身構える。
並んで立ったアリシャが、美咲に笑みを含んだ視線を送る。
「新手の魔将か。蜥蜴魔将に死霊魔将に加えて、牛面魔将まで出てくるとは、大盤振る舞いじゃないか。どうやら魔王はよほどお前を殺したいように見えるな」
「此処を出れば、すぐ市街地だよ!」
土地勘があるミーヤが言う。
生まれたのも育ったのもこのヴェリートなので、ミーヤは詳しいのだ。
弓を握って感触を確かめながら、セザリーが牛面魔将ディミディリアを険しい表情で見つめる。
「一戦を、覚悟せねばなりませんか」
いつでも矢を射掛けられるようにしておきながら、セザリーはディミディリアの様子を窺っている。
既に戦いを避けられないことを悟っているのだろう。隙を探っているようだ。
「でも、時間をかけ過ぎたら死人に囲まれて逃げ場が無くなるよ? 大丈夫なの?」
セザリーと同じように弓を持ち、テナは背後を気にしながら言った。
まさにテナが危惧した通り、美咲たちを追って辺りの死人全てが集まってこようとしていた。
「ひええ、あちこちから死人たちが出てきてますよぅ」
イルマも死人が気になるようで、弓を構えはするものの、完全に牛面魔将に注意を固定できず、あちこちに焦点が揺れている。
「相手はたった一人なんだから、全員で掛かれば何とかなるんじゃない?」
懐に手を忍ばせて投げナイフを抜きながら、ペローネが一斉攻撃を提案する。
単純だが、現実的ではない意見に、イルシャーナが反論する。
「ですが、魔将ですわよ。まだ実力も手の内も分かっていないのですから、下手をすれば全員殺されて終わりかねませんわ」
例えば加速の槍を持つイルシャーナは、武器の恩恵もあり速度だけに関して言うなら、図抜けている。同じように牛面魔将も見た目からは分からない手札を隠し持っている可能性がある。
異を唱えたのはイルシャーナだけでなく、マリスも一斉攻撃を否定する。
「一人対全員なんて、かえって戦いにくいよ。飛び道具は誤射する可能性の方が高いから使えないし」
既に双剣を抜き放っているマリスは、隙あらば斬りかからんと狙っているようだが、その隙が牛面魔将に全く見付からず、攻めあぐねている。
「かといって、一人ずつ戦うのも論外ね。時間が掛かりすぎるし、その間に間違いなく死人に囲まれるわ」
綺麗に巻いて腰に括りつけていた有刺鉄根鞭を手に取り、ミシェーラは振った。巻かれていた鞭が解かれ、鞭の先が地面を叩いて鋭い音を立てる。大きな音は死人を引き付けてしまうとはいえ、既にたくさん集まりつつあるので気にしても意味が無い。
鞭を携え、ミシェーラはやる気のようだ。
「何が何でも、ヴェリートから逃がさないつもりみたいですね。私達は、罠に嵌ってしまいましたか」
構えを取らずに、自然体でシステリートが牛面魔将を観察する。
骨格も人と牛を足しで二で割ったような感じで、同時に地面を二本の足で支える必要性からか、牛よりも遥かに後ろ足が発達しているようだ。この世界に牛そのものはいないので、例えるならば、牛を髣髴とさせる魔物であるグルダーマに似ているというべきだろうか。
「嵌ったも何も、元から罠感は満載だったとニーチェは記憶しています」
冷静に、システリートのボケをニーチェが指摘した。
誤魔化すようにシステリートが頭をかく。
確かにニーチェの言う通り。ヴェリートに入った時点で何かあるのは明白だった。人っ子一人いないのだ。警戒しない方がおかしい。
ニーチェは油断なく牛面魔将を睨みながらも、無手のままだった。暗器使いだから、ニーチェが無手なのは特におかしくは無い。敵を欺く戦略の一つだ。
「まあ、これみよがしに誰も居なかったからなぁ。あたいは戦えるなら、罠でも何でもいいけどよ」
バトルアックスを担いで、ドーラニアが牛面魔将を見据える。一方、牛面魔将は注意の大部分をアリシャに向けている。正しく相対している者たちの実力を推し量ることが出来ているようだ。
間違ってはいないが、歯牙にもかけられていないことに、ドーラニアは上等だとばかりに歯を剥き出しにして笑った。
「それで、どうするの? 攻めるにしても逃げるにしても、決断は早いほど良いわ」
言いながら、ユトラが美咲に買ってもらったメイスを抜き放つ。
死人たちの動きは鈍いものの、それでも確実に包囲の輪は狭まっている。今はまだ脱出できる程度であっても、これから先もそうだとは限らない。
いつでも戦闘に入れるように身構えながらも、ユトラは自分からは仕掛けずに美咲の判断を待つ。
全体の方針が固まる前になし崩しに戦いが始まるのが一番危険だ。意思統一が出来ずに各個撃破されてしまう。
その代わり、そろそろと歩き、牛面魔将の注意から逸れられるよう試みる。
「グルダーマみたいな顔してる……じゅるり」
腰に交差するように差した二本の片手鎌を引き抜き、レトワは口元にたれそうになったよだれを拭った。
乳は美味しいし肉も美味しい。革も色んなものに加工できるし、内臓は薬の原料になる。魔物の癖に、無駄なところがない優秀さだ。魔物というより、もはや家畜として扱われている。まあ、魔物なので家畜としての牛よりも遥かに気性が荒いのだが。
実際には有り得ないと分かっていても、レトワは普段の行動が行動なので、グルダーマと同一視して牛面魔将を食欲的な意味で食べてしまいかねない。
「レトワってぶれないよね。さすがに私はこの状況で寝るとか言えない。あー、早く帰って寝たい」
珍しく、アンネルは真面目だった。いくらなんでも、敵を目の前にして熟睡は無理らしい。愚痴を零しながらも、片手でスリングショットを持ち、幻影魔法を放てるように準備をしている。
「これ、市街の外壁門でも誰か待ち構えたりしないわよね」
ふと何かに思い至った様子で、セニミスが呟く。
わざわざ主塔最上階に誘い込んでからの襲撃な辺り、念には念を入れていそうだ。
かなり酷い怪我でも、即死でなければセニミスの頑張り次第でなんとかなるものの、そんな頻度は少ない方がいいに決まってる。
「……不吉なことを言わないで。本当にそうなったらどうするの」
怖い想像をしてしまったらしいメイリフォアは、自分の二の腕を摩る。
一応戦うつもりはあるものの、武器の性質上メイリフォアは多数への攻撃を得意としており、一人に対して戦いを仕掛けるのは誤爆の危険性がある。なので、いざ戦いとなるなら、メイリフォアは様子を見るつもりでいた。
「可能性があるのならば備える必要はあるだろう。いざその時になって慌てても遅い」
刀を抜いて、いつでも斬りかかれるように牛面魔将を見つめるアヤメの視線は、刃のように鋭い。それに対し、牛面魔将は一瞬だけ目を向けたのみで、それ以外はアヤメが目に入らないかのように振舞っている。だがアヤメが動こうとすると機先を制するようにプレッシャーが増大し、アヤメは二の足を踏まされた。
「アヤメさんの言う通りです。心構えをしておくだけでも随分と違うはずですよ」
追随するサナコの言葉のキレも、普段より鈍い。牛面魔将が只者ではないことに気付いているのだ。
「全員、馬車まで無事に辿り付けるでしょうか……」
戦うことのできないディアナは、祈るしかない。
「で、誰から掛かってくる? 複数来ても一向に構わんぞ。なんなら全員で来るといい」
からかうような口調で美咲たちを見据える牛面将軍ディミディリアは、背中に差した獲物を引き抜いた。
剣や槍ではなく、巨大な鈍器だ。柱のような太さの支柱の先には、これまた柱のような円柱形の金属がついている。そんな冗談みたいな凶器を、ディミディリアは軽々と持ち上げた。
一見すると軽いようにも見えるが、そんな目の錯覚を、膨張したディミディリアの筋肉が否定する。人間など、掠っただけで腕や足が千切れかねない。
「美咲。お前は仲間たちを連れて先に行け。奴は私が引き受ける。問答の時間が惜しい」
アリシャがそう言って前に出たので、美咲は慌てて引き止めた。
「一人でなんて危険ですよ! 私も戦います!」
前に出ようとする美咲を、アリシャは遮る。
「優先順位を間違えるな。お前はお前の目的を果たせ。そのために、死に物狂いでここまで来たんだろう。何、私もミリアンも、そう簡単には死なんさ。安心しろ」
無骨なアリシャの手が、乱暴な手つきで美咲の頭を撫でる。
母性と父性を同時に感じられる手だ。一人きりになって孤独だった美咲は、この手にたくさん心を癒されてきた。
だからこそ、優しくぶっきらぼうなアリシャの言葉に隠された嘘が分かってしまう。
「嫌です」
唇を噛んで、美咲は血を吐くような心持ちで言った。
「そう言って、皆死んだんです。エルナもルアンも、ルフィミアさんさえもこんなことになってて。これじゃあ私、何のために強くなったのか分かりません。お願いですから、一緒に戦えって言って下さい。アリシャさんのためなら、私、ここで死ぬことになっても」
美咲の言葉は、不自然に途切れた。アリシャが当身を当てて意識を落としたのだ。
「……それだけは、思っていても言っちゃいけないよ。積み上げてきた犠牲を、無にする言葉だ」
悲しそうに、愛おしそうに美咲を見つめ、アリシャは呟く。
魔法に対してほぼ無敵ともいえる体質の美咲も、物理的な攻撃には弱い。それが、気を許している相手からの不意打ちならば、なおさらだ。
ぐったりとなった美咲を、アリシャはセザリーに押し付けた。
思わず美咲を抱き止めたセザリーと、彼女を含めた美咲の傭兵団の仲間たちに、アリシャは命令する。
「おい、お前ら。死ぬ気で美咲を守ってヴェリートの外に送り届けろ。外には馬車もあるし、蜥蜴魔将の竜がいるはずだ。外に出れば、美咲を逃がせる。こいつは私が引き付けるから、戦いになったら行け。美咲はミーヤのペットにでも運ばせればいい。決して死なせるな」
「……言われなくとも」
固い表情で、セザリーが頷く。
「ああ、ついでに起きたら伝言も頼む。美咲はまだまだ未熟だからな。これから先、さっきみたいに志がぶれることもあるだろう。そうなったら、誰かが叱ってやってくれ」
もはや、誰も言葉が出なかった。ここをまともに突破しようとするなら、おそらく被害は一人では済まない。それを、アリシャは自分一人で賄おうとしているのだ。出来るだけ多くの戦力を、美咲のために残そうとしている。
誰もが神妙にしていた。
セザリー、テナ、イルマといった女性たちは言うに及ばず、タティマたちのような、あくまで協力関係にあるだけの人間も、俯いて黙って話を聞いている。
「いい話だな。でも、それは私がここを退くことを前提とした話だろう。果たしてお前たちに私を退かせるかな?」
牛面魔将は笑いながら、己の武器を構えた。同時にアリシャの姿が消え、立っていた場所の地面が弾けた。
「ぐぉっ!?」
次の瞬間牛面魔将ディミディリアが派手に吹っ飛び、強制的に門から退かされる。
「退かしてみせるさ」
代わりに門前には、アリシャが立っていた。振り抜いた大剣をゆっくりと引き戻し、アリシャは牛面魔将ディミディリアを睨みつける。
「お前こそ、後を追いたければ私を退かしてみせるんだな」
美咲を守りながら門を潜って走り去る一団を背に、アリシャは凄絶に笑った。