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美咲の剣  作者: きりん
四章 死闘
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十七日目:嵐の前の静けさ11

 各自自分のロープをしまい、主塔を探索するために、館を探索した時と違う班に班分けをする。


「私、ミリアン、美咲で地下牢を探索する」


 最初にアリシャが宣言をすると、美咲に従う女性たちからざわめきが起きた。人数の少なさを危惧するもの、自分が含まれていないことによる不満など、理由は様々である。

 一番早く異論を述べたのはミシェーラだ。


「三人だけでは危なくないですか?」


 相手がアリシャでも臆面無く尋ねるミシェーラは、肝が据わっている。


「心配ない。私とミリアンがついているからな」


 二人の実力は先の戦争でよく分かっているためにミシェーラが反論できないでいると、今度はミーヤが立ち上がって叫んだ。


「ミーヤも行く!」


 その声に反応して、働きベウたちに運ばれてきたマク太郎が反応して振り返る。

 働きベウたちは意外と力持ちで、マク太郎だけでなく、ペリ丸やゲオ男とゲオ美、ベル、ルーク、クギ、ギアのベルークギア四兄弟姉妹など、ミーヤのペットたち全員を協力して運んでいた。


「駄目だ。聞き分けろ」


 断るアリシャに、ミーヤは断られるとは思わなかったのかきょとんとした表情になると、むっとした顔をして地面に身を投げ出し、手足をばたばたさせ始めた。


「いーやー! ミーヤも行くのー! アリシャと二人きりになんてさせないんだから!」


 無意識にか除外されたミリアンが、遣る瀬無さそうに自己主張する。


「あのー、一応私もいるんだけど」


 じたばたじたばたしているミーヤを見て、システリートが呆れ顔になった。


「これは完全に駄々こねモードに入ってますねー。連れていけばいいんじゃないですか? 話が進みませんよ」


 ミリアンもまた、システリートの意見に同調する。


「いいんじゃない? ミーヤちゃんは美咲ちゃんと一緒に居たがってるんだから、居させてあげれば?」


 どうでも良さそうな口調のミリアンは、ミーヤを思ってというよりも、時間の無駄だから、という思いが強い。


「だがな……」


 逡巡するアリシャを、ミリアンが鋭い目で見つめる。


「今さら、一人増えたところでどうということもないでしょう」


 視線を向けられたアリシャは、ため息をつくと頷いた。


「そうだな。ここまで来たんだから、確かに今さらだ。ミーヤ、そういうわけで特別に許可してやる。だから駄々をこねるのは止めろ」


「やった!」


 先ほどまで泣き喚いていたはずのミーヤは、けろりとした表情で起き上がり、喜んだ。


「……まさかの嘘泣きに、ニーチェは戦慄しているのです」


 ミーヤの目が全く腫れている様子もなく、泣いた痕跡が確認できないことに気づいたニーチェが、愕然とした表情になった。


「全くコイツと言う奴は」


 呆れた目でミーヤを見下ろすアリシャに、ミーヤは照れた様子で頭をかく。


「えへへへ」


 アリシャの表情が渋面になった。


「褒めてないんだが」


「何だかすみません……」


 得意げなミーヤに代わって、苦笑した美咲がアリシャに謝った。

 微笑を浮かべたミリアンが、自分の顔の前でぱたぱたと手を振る。


「別に美咲ちゃんは謝らなくてもいいのよぉ。ミーヤちゃんの気持ちだって、尊重してあげなきゃね」


 そうしてミーヤも美咲、アリシャ、ミリアンと一緒に行くことが決定したところで、ドーラニアが口を挟んでくる。


「四人だけでいいのか? もう少し足した方がバランス的にいいと思うぜ」


 思案したアリシャは、セニミスを手招きして呼んだ。


「そうだな。じゃあ、お前もこっちに来い」


「え!? 私!? ……まあ、美咲がいいならいいけど」


 呼ばれて吃驚したセニミスは、美咲の判断を窺う。


「構わないか?」


「え? あ、はい」


 アリシャに確認され、反射的に美咲が頷くと、セニミスもそれ以上は反対せずに同行が決まった。


「……よし、美咲と一緒の班になれたわ」


 こそこそとセニミスが呟き、拳を握る。彼女とて美咲を好いている一人だ。美咲と一緒に探索することが決まって、嬉しいのである。


「どうも、何かあるなら地下牢の可能性が濃厚なのよねぇ。私たちだって無敵じゃないし、いざという時回復魔法を使える子が居てくれると助かるわぁ」


 ミリアンが満足そうに笑って言った。

 どうやらアリシャも適当に決めているわけではなく、バランスを考えて同行メンバーを決めているらしい。確かに戦力としてはアリシャとミリアンがセットになっているならそれだけで間に合うので、後は補助要因でもバランスは取れているだろう。


「後は美咲が決めろ。地下牢以外の危険度はどこも同じだ」


「へ? わ、分かりました」


 もうすっかりアリシャに決めてもらう気満々だった美咲は、アリシャに決定権を戻されて素っ頓狂な声を上げ、あたふたと班分けを始める。


「えっと、じゃあ続いて第二班はミシェーラさんリーダーで、イルシャーナちゃんとマリスちゃん、ニーチェちゃんとアンネルちゃんにやってもらおうかな。三班はユトラさんがリーダー、セザリーさん、テナちゃん、イルマちゃん、レトワちゃんで。四班が引き続きタティマさん、ミシェルさん、ベクラムさん、モットレーさん、タゴサクさんで、普段通りでお願いします。五班はシステリートさんをリーダーに、ディアナさん、ペローネさん、ドーラニアさん、ラピちゃん、メイリフォアさん、アヤメさん、サナコちゃんかな。五班がこのフロアで待機して退路を確保しつつ、場合によっては地下牢に行った私たちの援護。残りの二班、三班、四班で、主塔の攻略。こんなところかな」


 美咲が発言を終えると、方々からざわざわと声がする。

 三班のリーダーに決まったユトラが驚いた表情になった。


「また私がリーダーなのね」


「あーあ。私は居残りか」


 続いて居住棟の時と同じく、今回も待機の班に入ったラピが、若干残念そうに言う。しかしメリットに気付いて、すぐに明るい声になった。


「でも人数多いし、いざとなったら美咲のところに応援に行けるから、悪くは無いかな」


 よく考えれば結構良いことも多く、ラピは概ね満足した様子だ。

 一方で、目の前の欲求にひたすら忠実に従っている者もいる。

 言うまでもなく、レトワとアンネルである。

 彼女たちは、食べたり寝たりマイペースだった。


「とりあえずおやつ食べようっと」


「スヤァ」


 呆れてセニミスがレトワとアンネルを注意する。


「そこの自由人二人、会話に参加しなさいよ」


 肝心の本人たちは、注意など聞いておらず、セニミスが舌打ちをした。

 周りをきょろきょろと見回して同じ班のメンバーを確認しているメイリフォアが呟く。


「私が所属する班は総勢八名ですか……。多いですね」


 アリシャとミリアンが新しく美咲と同じ班になったことで、二人分の席が潰れてメイリフォアと同じ班に移動してきた計算になる。

 メンバーよりも、自分たちに対する決定そのものに、意外さを感じたのが、アヤメとサナコだ。


「意外だな。私たちを待機班に回すとは」


「その分、地下牢に重点を置いているということなのでしょう」


 非戦闘員もいるが、その分戦闘ではドーラニアとアヤメを揃えることで、戦闘能力の低下を防いでいる。

 班分けが決まると、それぞれが班ごとに集まった。


「あら、今度はあなたたちと一緒なのね。よろしく」


「ええ、よろしく。義妹二人ともども、支えるわ」


 ユトラとセザリーがにこやかに握手を交わしていると、横から笑顔のテナが、ユトラに挨拶した。


「よろしくね、ユトラおばさん!」


 突然のおばさん呼ばわりにユトラ本人と、容姿的には同年代のセザリーが凍りつき、イルマが義姉の暴言にぎょっとした表情になった。


「テ、テナちゃあん! そんなこと言っちゃ駄目ですよぅ!」


「え? 何で? おばさんはおばさんじゃん」


 テナはニコニコ笑っている。

 慌ててイルマがテナに詰め寄ろうとすると、今度はレトワが元気な声で挨拶した。


「よろしくね、ユトラおばさん!」


 浮かべていた笑顔が消え、ぴきりとユトラの額に青筋が浮かんだ。


「レトワちゃんまで何言ってるですぅ!?」


 目の前のユトラから発せられる怒気を感じて目を剥いたイルマがレトワを叱るが、レトワは何も分かっていない様子でけろりとしている。


「え? 何かここでは言っても許される気がして」


 ここで切れても大人気ないと判断したのか、怒りをため息で押し流したユトラが、眉間の皺を揉みながら苦言を呈した。


「……とりあえず、おばさん呼ばわりは止めてくれないかしら」


「先が思いやられるわ……」


 テナとレトワに拳骨を落とし、セザリーが溜息をつく。

 二班では、ミシェーラが集まったイルシャーナ、マリス、ニーチェ、アンネルに声をかけていた。


「よろしくね、皆」


 奇しくも、ミシェーラ以外は皆年下だ。ミシェーラがリーダーに指名されたのは、ある意味当然かもしれない。

 年齢層は偏っているものの、戦力としては近接戦闘が得意なイルシャーナとマリス、近距離中距離両方に対応できるミシェーラ、様々な暗器を駆使してオールラウンダーな戦い方が出来るニーチェ、補助に優れ、遠距離攻撃も可能なアンネルと、射程の隙が無く中々バランスも良い。


「よろしくお願いしますわ。あなたとこうして組むのは初めてですわね? ミシェーラさん」


「そうね。他は子供ばかりだし、頼りにしているわ」


 イルシャーナとミシェーラが挨拶をかわす。


「おほほほほほほ! 任せてくださってもよろしくてよ!」


 いきなり高笑いを始めたイルシャーナを見てミシェーラがぎょっとした表情になると、マリスがイルシャーナの後頭部を引っぱたいた。

 「ぶげっ」と少々愉快な声を立てて、イルシャーナが後頭部を押さえた。


「あまり褒めると調子に乗るから、あんまり褒めない方がいいよ」


「どういう意味ですの!? マリス!」


 復活したイルシャーナがマリスに掴みかかるが、マリスはするりと交わしてしまう。


「スヤァ」


 気持ち良さそうに寝ているアンネルに、ニーチェが平手を振り下ろした。


「とりあえず起きやがれです」


 起きたことには起きたものの、アンネルは涙目で額を押さえている。


「痛い」


 カオスな状況に、ミシェーラは不安になってもう一度確認した。


「……頼りにしていいのよね?」


「当たり前じゃありませんの」


 きょとんとした表情で、イルシャーナが趣向する。

 太鼓判を押されても、いまいち安心できないミシェーラだった。


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