十七日目:第二次城塞都市攻防戦6
美咲にとって、その報告は悪夢と共に齎された。
「人族軍は主力、別働隊共に壊滅的な打撃を受け壊走しているのです。主様、私たちも逃げましょう。ここはもう危険です!」
偵察から戻ってきたニーチェは、慌てた様子で美咲に撤退を促してくる。
状況を理解し即座に頷いて撤退を命じようとした美咲だったが、それより先に、悪夢が再来したのを見つけてしまった。
遥か上空から、急降下する爆撃機のように落ちてくる竜騎。その狙う先を見て、美咲は青ざめた。
「ミリアンさん、上です!」
声をかけた美咲の声に素早く反応したミリアンだったが、それ以上に蜥蜴魔将ブランディールと古竜バルトの突撃が速過ぎた。ミリアンに出来たのは己の獲物であるハンマーを頭上に掲げるのが限界で、飛び退く暇は与えられない。
「ぐっ──!」
出会ってから初めて、ミリアンが苦悶の声を漏らす。
体中に力を込めたミリアンは、一撃で絶命した人族軍指揮官エルバートとは違い、がっちりとブランディールの一撃を受け止めてみせる。
必殺の攻撃が止められたのを見て、ブランディールは表情を喜色満面に輝かせた。
「おいおい、これを受けるのかよ! 馬鹿力め!」
「私を誰だと思ってるのよ! この蜥蜴野郎!」
鱗肌に何本も青筋を浮かべ、全力を込めながらも、ブランディールからは強者との対決に心を躍らせるだけの余裕があるようだ。
対照的に、不意討ちを受けて凄絶な敵意をブランディールに向けるミリアンには、いつもの余裕は見られない。ミリアンでもこの急降下からの一撃をまともに受け止めるのは想像を絶する衝撃があるらしく、ミリアンは振り下ろされた大剣をハンマーを掲げて歯を食い縛って受け、下からブランディールを睨みつけている。
二人の力比べは拮抗していたが、先に地面の方が耐え切れなくなったのか、ミリアンの足元が割れ崩れて陥没した。いきなり踏ん張りが効かなくなったことにミリアンが驚いた表情を浮かべ、眼を見開いた。
「──あ」
「貰ったぜ!」
その勢いのままに、ブランディールが大剣を振りぬきミリアンを出現したクレーターの中に叩きつける。ミリアンの生死を見届けずにブランドールは己の騎竜であるバルトを駆り、急上昇をかけた。
「ミリアン! 大丈夫か!」
「おっと、余所見してると、死んじまうぞ!」
親友の安否が気になるのだろう。ミリアンが落ちたクレーター目掛けて駆け出したアリシャを空中から見たブランディールが、今度はアリシャ目掛けて急降下攻撃をかける。
反応して上空を見上げたアリシャの目に、冷たい光が宿った。
「──調子に乗るな!」
振り下ろされるブランディールの大剣を見て、アリシャが己の大剣に手をかけた。
次の瞬間、ブランディールとバルトは急制動をかけ、再び空へと舞い上がる。
間一髪ですれすれの空間を、凄まじい勢いで振るわれたアリシャの大剣が薙ぎ払っていった。
それだけで衝撃破が巻き起こり、空中のブランディールとバルトを激しく揺らす。
「あっぶねぇ! 死ぬとこだった!」
「調子ニ乗ルカラダ! タワケ!」
空を飛びながらぎゃあぎゃあと大騒ぎする二人を他所に、アリシャはクレーターに飛び降りてミリアンを助け出す。
そのままアリシャが美咲たちの元にミリアンを連れていくまで、ブランディールはアリシャたちに手を出さなかった。どうやら手痛い反撃を食らうのを覚悟で狙うのは割に合わないと踏んだようだ。
駆け寄ってくるセニミスに、アリシャが言った。
「すまんが、ミリアンの治療を頼む」
「いいけど、あの空の魔族をどうにかしないと。絶対治療中に狙ってくるわよ」
ミリアンを受け取って、触診で負傷の度合いを調べ始めたセニミスに、アリシャが笑みを浮かべた。
「それについては心配するな。私が相手をする。私にとって、空の敵はカモだ」
きょとんとするセニミスにミリアンを託すと、アリシャが立ち上がった。
同時にようやく、バラバラと生き残りの人族軍が逃げてくる。
生き残りといっても、完全に敗走している彼らは補給をするでもなくそのまま逃げていく。補給物資の方に興味が移って追撃の手が緩めばいいとさえ思っているかもしれない。
「……私も、あの蜥蜴男と戦います」
瞳の奥に決意の炎を灯し、美咲がアリシャの横に並ぶ。
「正気か? 危険じゃ済まないよ。これほどの相手だと、私もお前をフォローできるかどうかは分からない」
「それでもです。弱かった私を逃がすために、ルアンもルフィミアさんも一人で残って戦ったんだ。なら、今度こそ私が戦わないと」
敗走する人族軍の誰かが魔族軍に奪われるくらいならと火をつけていったのか、気付けば多くの馬車から火が出ている。
「下手すれば死ぬぞ。怖くはないのか」
アリシャの言葉に、美咲が俯いた。炎の照り返しを受けて、美咲の表情がちらちらと赤く輝く。
まるで興奮しているかのような火の煽りを受けて、美咲は勇者の剣を静かに抜いた。
「何を今さら」
美咲はくすりと笑った。
「どうせ、私は魔王を倒さないと、あと十三日で死ぬんですよ? あいつと戦って死ぬのと、魔王と戦って死ぬのと、逃げ続けて呪刻で死ぬのと、何が違うんです?」
初めて、美咲の言葉に、アリシャが気圧されたように開きかけた口を閉じた。
視線を下げて、きゅっと眉を寄せた。
「足が震えてるじゃないか。怖いんだろ、本当は」
表情を険しくするアリシャに、美咲は笑顔を泣き笑いに変えた。
図星だった。
(──怖い。怖くてたまらない。本音を言えば、逃げてしまいたい。でも思い出せ。逃げた結果、どうなった?)
ルアンやルフィミアとの別れを思い出すたび、美咲の胸の内を炎がうねる。逃げるしかなかった不甲斐ない己への怒りが、美咲を突き動かすのだ。
「ごめんなさい。少しだけ、嘘をつきました。本心を言えば、怖いです。でも、それ以上に、私は逃げるしかなかった自分が許せない。本当に、我がままだけで言っているだけじゃないんです。どの道、アイツに勝てないと、魔王を倒せるはずもない。死ぬかもしれないなんて、そんなことは分かってます。だけど、今アイツと戦わないと、私は一生弱虫のまま」
美咲は逃げて、逃げて、ここまで来た。
まだ道半ば。
魔王は未だ影すら見えず、旅は終わらない。
「……こんな私に、託してくれたんです」
けれど、それでもたくさんの別れがあった。
エルナの死。
ルアンの死。
ルフィミアの死。
ピューミの死、エドワードの死。ディックの死。
それ以外でも、多くの人が死んだ。
道半ばで倒れた者
自ら犠牲になった者。
おそらくどうして自分が死ななければならなかったのか、分からなかった人だっていただろう。
魔王を倒してこの世界に救いを齎したところで、死んだ人たちが帰ってくるわけでもない。
魔法が存在するこの世界でも、死は覆らない。
ならせめて、魔王を倒すことで、彼らの死に、意義と名誉を捧げたい。
「お願いです。全身全霊を以て、私にあの男を打倒させてください」
じっと上空のブランディールを睨んだまま懇願する美咲から目を逸らし、アリシャはため息をつく。
「仕方ないな。やれやれ、私の弟子は、強情だ。分かったよ。一緒に戦おう。だが、敵は蜥蜴魔将と古竜だけじゃない。魔族軍の相手もしなきゃならん。そしてそれは、あいつらの仕事だ」
アリシャがちらりと、美咲を慕う女性たちと、美咲を助けに駆けつけた男たちを見る。
「あいつらも死ぬかもしれん。命惜しさに、美咲を捨てて逃げ出すかもしれん。それでも」
一度、アリシャが言葉を切る。
「信じられるか?」
「──はい」
とても穏やかな気持ちで、美咲は頷いた。
どうしてルアンもルフィミアも、自分なんかに後を託して死んでいったのか、今まで美咲には理解できなかった。
……今なら少し分かる。
きっと美咲が死ねば、主を失った彼女たちは死にもの狂いでブランディールを殺し、例え自分たち全員の命と引き換えにしてでも魔王を殺そうとするだろう。
もちろんそんなことには美咲はさせない。
でも。
例え自分が此処で倒れたとしても、後に続いてくれる人がいる。遺志を継ぎ、願いを背負って戦ってくれる仲間がいる。これから死闘に身を投じるに当たって、これほど心安らぐことはない。
とはいえ、美咲とて死ねない理由がある。家族の下に帰るのだ。そのために、美咲に想いを託してくれた人たちと同じ結末は辿れない。
何に代えても、帰りたい世界があるし、自分と同じような十字架を、誰にも背負わせるつもりは無い。
美咲が鋭い目で、ブランディールとバルトを見上げた。
(──だからアンタはここで私が殺す)
「コォイテェアリィエレオィアゥン、ツゥオヅルキィエオィケェアザァウトォイヌヒコリコユゥ」
美咲の殺意を乗せて、空を積乱雲が覆った。
威力を高めるために、雷に関係する言葉をこれでもかと並べた魔法。
今まで使った魔法の中でも、会心の手応えを美咲は感じた。
「落雷カ。当タッタラ飛ベナクナル。降リルゾ」
「仕方ねえな」
ブランディールを乗せてバルトが矢のように飛んだ直後、先ほどまでいた場所に稲光と共に轟音が轟き、雷が落ちる。
一方、地上ではディアナが回りを見回して焦りの表情を浮かべていた。
「不味いですね」
同じ補給部隊の人族も次々と逃げていく中、完全にブランディールに補足されている美咲たちは、ミリアンの治療をしなければならないセニミスのこともあり、逃げるに逃げられない状況に陥っている。
馬車に乗り込んで逃げ出すのは下策だ。
背に魔族一人を乗せているだけの竜を振り切れるとは思えないし、ブレスの一発でも撃たれれば、装甲馬車本体は無事でも、馬車を引くバルガロッソと美咲たち人間は焼死を免れない。
つまり、勝利の勢いを駆って追撃をかけてくるであろう魔族軍を食い止めつつ、ブランディールをどうにかしなければ、逃げることすらままならないのだ。
「あたしは魔族軍の相手をするわ。自分で言うのもなんだけれど、それくらいしか役に立てそうもない。あんな化け物をあたしにどうこう出来るとも思えないし」
いつもと同じような静かな口調に僅かに緊張を滲ませて、ペローネが呟く。
獲物が短剣という特製上、確かにペローネにはブランディールの相手は荷が重い。ブランディールだけでなく、竜であるバルトも加わるとなればなおさらだ。
「わたくしはもちろん美咲様の隣で……」
「ボクたちは全員で魔族軍の迎撃だよ」
何か言いかけたイルシャーナの言葉を、マリスが遮った。
「魔族軍がどれだけいると思ってるのさ。ボクたちの誰が欠けても、ここの防衛は圧倒的に苦しくなる。何としてもボクたち全員で、持ち応えるよ」
「ですが、美咲様とアリシャの二人だけで、あの魔族を相手にするのは……!」
どうやらイルシャーナは普段のように抜け掛けを狙っていたわけではなく、純粋に美咲のことを心配しているらしい。
それが分かり、マリスは僅かに微笑む。
「セニミスの回復が終わり次第、あのミリアンって人だって戦線復帰してくれるはずさ。ボクの見たところ、アリシャとミリアン、この二人の実力は、ボクたちを含めても別格だ。二人に任せておけば、お姉さんについては問題ない」
「そうね。問題があるのは、むしろこっちだわ」
マリスの話をミシェーラが引き継ぐ。
ミシェーラの顔色は青く、表情は厳しい。今の状況が良くないことを知っているのだろう。
「防衛に割ける私たちの人数が、子どもも全部投入しても二十人と少しにしかならないのに対して、敵は物凄い数よ。何人くらい居るのかしらね」
「ニーチェが数えた限りでは、魔族軍が五千、ゴブリン軍が四千程度だと思います。でも、戦闘で消耗しているから、実際の数はもう少し小さくなると思うのです」
最初に敵の情報を集めて回っていたニーチェが、ほぼ正確な数字を伝える。彼女の活躍も馬鹿にはできない。ニーチェが居なければ、ろくに情報が無いまま戦わされていただろう。
「非戦闘員だから、とは言っていられないですね。私も馬車から援護をしましょう。いやぁ、あの馬車に誰でも使える武装があって良かった。本当に良かった」
本来なら戦いには参加しないシステリートも、参加への意欲を示す。苦手でも、四の五の言っていられる状況ではない。
「あたい一人で百人くらいは引き受けてやるよ。さすがにそれ以上は厳しいが、死にさえしなければセニミスが傷を治してくれるんだろ。なら大丈夫さ。たぶんな」
そんな心強いことを言うのはドーラニアだ。さすが戦闘においては他よりも一歩も二歩も抜きん出ている彼女である。
「そうね。私たちは多少の怪我なら無視しても問題ないし、致命傷でも即死じゃなければセニミスの治癒魔法で戦線復帰できる。……問題は、敵も同じような条件なことね」
ドーラニアの言を肯定しつつ、同時にユトラが懸念も示す。
治癒魔法を使えるのは魔族も同じだし、魔法を使える人数自体は魔族の方が圧倒的に多いのだ。
実際は魔族軍側の治癒部隊は奇襲で壊滅していて機能していないのだが、さすがに彼女たちとてそこまでは分からない。
「なら、確実に仕留めていけばいいんでしょ。いくら魔法で怪我は治せても、死人は生き返らせられないわ」
小柄なラピが、不釣合いに大きな盾を手にして言う。
防具屋で買った、いわく付きだった盾だ。今では美咲の手により解呪され、ただの盾になっている。
「さっき他の馬車に積んであった食べ物たくさん食べたから、お腹いっぱい! 思いっきり戦えるよ!」
レトワが何気なくおかしなことを言った。
ちなみに今は、美咲の装甲馬車以外の馬車はほとんどが燃えている。アリシャの馬車やミリアンの馬車も、今はもう炎の中だ。
どうやらレトワはどさくさに紛れて、どうせ失うものならばと、焼ける前に馬車に積んであった騎士団の糧食を持ち出して平らげたらしい。
「私も幻影魔法を全力で使えば、敵と同規模の軍団がいるように見せかけられる。規模が大きくてそれ以降は魔法の維持で手一杯になるから、それで魔法は打ち止めだけど」
さすがにアンネルもこんな状態で寝るような暴挙には及ばず、しっかりと目を見開いて自分に出来ることを告げた。
「それなら……! 膠着状態を作り出せるかもしれませんわね!」
喜ぶイルシャーナに対して、アンネルは真剣な表情で頷いてみせた。
「うん。ただ、いつまでも持つわけじゃないし、ハリボテには違いないから、時間稼ぎにしかならない。そのうちに敵将を討ち取って瓦解させるか、無理でも反撃態勢を整えるべき」
「となると、今みたいにてんでばらばらに追撃されてる状況はまずいわね。普通、これだけ隊列が乱れてると伏兵で強襲するいい機会なんだけど、皮肉ね」
セニミスがため息をつく。
人族軍さえ健在ならば、打つ手はいくらでもあったのに、指揮官が死んだ途端あっさり潰走してしまった。何気に、ヴェリートが落ちた時とほとんど同じ状況である。
「私は受け持てると断言できるのは三十人くらいですね。それ以上は自信がありません」
弱気なメイリフォアに、イルシャーナが絡む。
「あら、随分弱気ですわね。わたくしは七十人は行けますわよ?」
「まあ、ボクも七十人くらいなら大丈夫かな」
宙を睨んで考え込み、マリスも同意する。
「七十人だけなら、まあ」
ミシェーラも同じ意見のようだ。
「私たちで二百人受け持つわ。セニミスにだいぶ負担をかけさせてしまうけれど」
「このテナちゃんに任せなさいっ!」
「が、頑張りますぅ」
セザリー、テナ、イルマ合わせて、二百人を引き受けられるようだった。
近接戦闘の心得がある者は戦闘が得意なせいか、引き受けられる人数が大きい。
「戦えない分、治療については任せて」
多少硬い表情になりながらも、セニミスは胸を張る。
静かな表情でアヤメが告げる。
「百は引き受けよう」
「アヤメさんのようには戦えませんけど、七十くらいなら何とか」
腰の後ろに差した鉄扇を後ろ手に撫で、サナコがはにかむ。
次に、タゴサクが言った。
「拙者らで四百人ほど引き受けるでござる」
「おいおい、マジかよ。逃げた方がいいぞ、絶対」
タティマがぎょっとした顔で、タゴサクを見る。
「とはいってもなぁ。女子どもが残るってのに、俺たちが逃げたら男がすたるってもんだよな」
いつもの髭面に、ミシェルがニッと男気のある笑顔を浮かべた。
「まだ借りを返してないしね。まあ、生き足掻く努力はしてみるさ」
とんでもない状況に頭をかきつつ、ベクラムも生への執着を捨ててはいない。
「一人八十人倒せってことでやんすね……。」
若干腰が引け気味なモットレーだった。
「装甲馬車の御者はお任せください。……とはいっても、この状況では、これくらいしか私にはできることがないですけれど」
ディアナが馬車の御者を受け持ち、それぞれが動き出す。
「ミ、ミーヤも戦うよ!」
「あんたは馬車の中にいなさい」
戦うのは怖いけれど、それでも勇気を振り絞ったミーヤの頭に、そっと手が置かれた。
振り仰げば、ミリアンが立っている。
驚いてミーヤがセニミスを見れば、セニミスがミーヤに向けて親指を立てた。
どうやらミリアンの治療が完了したらしい。
唇を噛み、ミーヤはミリアンに叫ぶ。
「ミーヤだって戦えるもん!」
「いや、無理でしょ。それより、あんたにしかできないことをしなさい。あの魔物たちに言うことを聞かせられる? それだけでも、私たちにとっては凄く助かるのよ」
「う……。や、やってみる!」
魔物たちの下へ走り出したミーヤを見送ったミリアンに、ペローネが声をかけた。
「意外だね。こっちに来るなんて」
「あんなヤツ、アリシャがいれば十分よ。それよりこっちの方がやばいでしょ。何、二十人対七千人って。無謀を通り越して笑えてくるわよ」
澄ました表情で言葉を返したミリアンは、ちらりとブランディールと相対する美咲に目をやった。
この短期間で、よくここまで成長したものだ。
アリシャが竜を相手取ってくれるお陰とはいえ、ここまで美咲が勇気を振り絞るとは、ミリアンは思っていなかった。
やはり、それほどまでに、人間というものの成長は早い。それこそ、成長速度においては魔族など歯牙にもかけないほどに。。
見たところ、美咲はブランディールと因縁があるらしい。他人の手助けは望まないかもしれない。
なら、ミリアンは彼らの戦いに水を差させないように戦うべきだ。
「まあ、ここまで手を出した以上、あんたたちには最後まで手を貸してあげる。私もアリシャに付き合うことに決めたわ。とりあえず、あのゴブリンたちは私が潰してあげる。他は自分たちで何とかしなさい。それくらいなら出来るでしょ?」
獲物のハンマーを抜き、迫りつつある魔族軍を見て、ミリアンが凄絶に微笑む。
「悪く思わないでよね。ワェアリィエヘゴォイヤァゥアゥミンヌゥオゾヤウォア。ウォルゥオケェアアラァウムヌヅムユ、ワェアゲバァウヌゥオメイェノォイホリィエハサゲオィオ!」
魔族語を唱えた次の瞬間、ミリアンは暴風となって、彼我の距離を詰めゴブリンたちのただ中に飛び込んでいた。