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くわばらくわばら

作者: 赤リンゴ

どこかの町の夏のある日、山の祠から声がする


「なぁ、ほんとにあったんか?」

「ある、兄ちゃんが言っとった。」

「でもないよ、たっちゃん」

見たところ齢10から11といったところだろう。小さな三人組の子供だ、

「こらぁ!ガキども!山神様の祠で何しとるかぁ!」

おっと、向こうから走ってくるのは田山のじいさんじゃあないか、あっはっは、一人捕まってしまったか、確かたっちゃんと呼ばれていた奴だな、

おっと、そろそろ時間だ。私は行かなくては、頑張れ少年、あのじいさんの拳骨は痛いからなぁ。


「いってーー」

たんこぶを押さえながらそううめくと何故か誇らしげに田山のじじいが言った。

「安心しろクソガキ、後であの二人も同じ目にあわせちゃる、全く…なんであんなところを覗いてたんだ?」

「………兄ちゃんが言ってたんだ、山神様の祠に綺麗な石があるって、」

それを聞いたじじいは、いきなり険しい顔になってから

「お前、まさか盗ってはいねぇだろうな?そんなことしたらおとろし様が来るぞ!」

その顔があまりにも怖かったので手を降りながら叫ぶ

「と、盗ってないよ!あ、後、山神様じゃないのかよ?おとろし様って誰だよ!」

すると田山のしじいは山を一緒に降りながらおとろし様について話してくれた。

「いいか?おそろしいという言葉はおとろし様の為にあるような言葉だ。それほど怖い神様だ、山神様は優しいお方だからあの美しい石を盗んでも何もなさらないが、そのかわりに、おとろし様が来られるのだ。」

(待てよ、そんな石どこもなかったぞ!)

必死に兄ちゃんが言っていた事を思い出す。

(「あんな綺麗な石見たことないぞ」「喉から手が出るほど綺麗なんだ…」)


   兄ちゃん…


それから2日後、一人の坊主が山道を歩いていると、たたたっと一匹のトカゲが坊主の脇の岩に登り坊主に話しかけた。

「やぁきつねどん」

それを聞いた坊主が立ち止まると白い煙が坊主をモクモクと覆い、煙のなかから出てきたのは袈裟を人間のように着こなした後ろ足で歩く狐だ。

「よォ、トカゲどン」

トカゲは狐の姿を一瞥すると呆れたように言った。

「お前はまだ人の真似事なんてことをしているのか」

「いやいや、人間というのもまた面白いものだヨ。トカゲどン」

「全く、この変わり者め」

二匹は並んで歩きながら世間話を続けた。

「そうダ、トカゲどン」

「なんだい、きつねどん?」

「最近おとろしの奴を見なかったかイ?」

それを聞いたとかげはしばらく黙考してから答えた。

「たしか、狸の小僧が一昨日見たと言っていたな、普段は山の奥に閉じ籠りきりなのに珍しいとも」

「おォ!そうカそうカ、では狸の小僧の所に案内してくれるかイ?」

「もちろんだとも、こっちだ」

二人は山道から竹林の獣道へとそれていった。

「………………」

「…………」

「………………」

「おい、きつねどん」

「なんだいトカゲどン」

「いつもはやめろと言っても話を止めないお前がやけに静かじゃあないか、いったいぜんたいどうしたんだい?」

「うーム、それがねェ…」

そう言いつつきつねが天を仰ぐ

「もしや、おとろしが…また…?」

トカゲが恐る恐る聞くと狐は頷いた。

歩き続ける二人のまわりを絹切れのような沈黙が覆う、さっきまでやかましく鳴いていた蝉達も二匹の言葉に耳をすますかのようにシーンとしている。


最初に口を開いたのはまたもトカゲだった、

「全く、愚かなものだな、人間というのは、あの石を盗ってはいけない事ぐらいこの土地の者なら誰でも知っているはずじゃあなかったか…」

狐が薄い目を開き答える

「それだけその話を知っている奴が減ったのだろウ、歳をとったということダ、この土地も、我々も…」

「親族はなんて言ったんだい?」

「私には特別に見せてくれたが、見事な狂い死にだったヨ、親族は白布を顔にかぶせて顔は見せないようにしてたネ」

「まぁ、そいつは運が悪かったということだろうな、おとろしの奴の怒りをかうなんて俺でもいやだ。」

「いヤ、全くダ、次にこの世に下りてくる時は気をつけることだネ」

狐は数珠を持ちつつ、トカゲは小さな前足の平を合わせながら二匹一緒にくわばらくわばらと呟いた。


「ほら、そこに」

トカゲが指差した先には古びた地蔵…のような物が見受けられる、ようなといったのは地蔵の後ろから太い狸の尻尾が出ていたからだ。

「おォ?狸の坊、お前はまた化けるのがうまくなったなァ」

狐がそう声をかけるとポンという音と共に狸の小僧が姿を現した。

「でしょ!?これで僕、人里に下りても大丈夫だよね!」

「ん~、もうちょいかねェ」

「えーーー、」



狐は自分の寺に帰りながら、狸の子供の話を思い出していた、

「うん、おとろし様でしょ?見たよ!おととい?ぐらいに人間の子供の方をみてさ!手を合わせてたんだよ!くわばらくわばらってやるようにさ!なにか怖かったのかねぇ?」

狐はまたふいと空を見上げて呟いた。

「こりゃア、あの世に行けたかも怪しいねェ…」


   いやぁ、全く…くわばらくわばら…

ごちそうさま、

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