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阿呆な僕の物語  作者: いおら
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生きる理由

 僕は平穏を取り戻したと思っていました。しかし、お母さんと再開した村で仕事を手伝おうとした時、僕はダメな人間だという事を再度思い知らされたのです。

 この村でも僕は役立たずでした。常人以上の力を持つ僕は力加減というものを知らなかったからです。旅に出る前の、母親代りの人を殺した村と同じ様な失敗を繰り返してしまうのです。何かをやれば何かを壊す。船を漕げばオールを折り、網を引けば、網は引きちぎれてしまいます。村人にどうすれば良いか? と訊ねた時は力いっぱいやれば良いと言います。村の役に立ちたくて一所懸命に働きました。一所懸命やればやるほど、村に迷惑が掛かってしまいます。それでも村の人は優しく接してくれていました。僕は村の人に言われたように常に力いっぱい働きますが、役には立てませんでした。

 そんなある日、村の人は僕に一つの仕事を任せてくれました。それは、この村では採取できない胡椒を取りに行くという仕事です。リヤカーを引いての旅になります。少し長い旅にはなりますが、村の人が僕に任せてくれた仕事です。二つ返事で了解しました。

 僕が村を出てから何日も過ぎ、いくつもの山を越え、ようやく胡椒を取り扱う街へ辿り着きました。交換の品はこの街では貴重な塩です。滞り無く全てがうまく行きました。僕は何の失敗もせずに仕事をこなす事が出来て浮かれていたのかもしれません。僕も一人の男です。僕は一人の娘に声を掛けました。が、軽くあしらわれてしまいました。そして、違う娘に声を掛けましたが、この娘も先ほどの娘と同様の態度を取りますが、この娘は一つの情報を僕に与えてくれました。「この先に行った宿に行ってごらんなさい。流れ者の娘が一人働いていますので、もしかすると、その娘ならば貴方の様な田舎者の話を聞いてくれるかもしれませんよ」と。

 僕は言われた通りの宿へ向かいました。宿の主人に流れ者の娘について訊ねると今は井戸に水を汲みに行っていると言いました。僕は主人に礼を言い、井戸へと向かいます。

 井戸についた時、流れ者の娘は水を汲んでいる最中でした。僕は彼女を見た瞬間、恋に落ちたのです。彼女こそ僕の運命の人に違いない。僕は数日間、彼女の元へ通い、彼女の心を射止める事に成功したのです。

 村の人から預かった路銀が心もとなくなり、僕は彼女に告げました。

「僕と一緒に来てくれないか? 僕の村で一緒に過ごそう」

 彼女は天使のような笑みを浮かべ、涙を流しながら「ありがとう」と言ってくれました。

 僕たちは愛し合いました。それはもう熱く。

 街を出る日がやってきました。一人旅ではありません。人生の伴侶と一緒なのです。僕は幸せでした。彼女も幸せだったと思います。

 村へ帰る為の旅を始めて数日が過ぎた時、お互いの出生について話す事になりました。僕は正直に自分の事を話しました。

「僕が生まれた村はもう無いんだ。父親も殺され、母とは生き別れに。僕は母を探して旅を続けて、やっとの事で母を見つけたんだ。僕たち一族の名は……」

 僕が一族の名を出した瞬間、彼女の顔が曇ったように見えました。そして、彼女は僕の母の名を言い当てたのです。それからの旅は沈黙が続きました。その日、僕たちは川べりで野宿をする事に。

 翌朝、隣で寝ていた筈の彼女の姿が見えませんでした。彼女の代りに手紙が置いてあります。僕はそれを読みました。

『人生というものは残酷なものなのですね。私は山で奴隷商人に捕まり、命からがら逃げる事ができました。私はあの日逃げ出さなければ良かった。殺されていれば良かったと思います。そうすれば貴方と出会う事も無かった。運命というものはすごく残酷なものだと思います。両親には元気でやっているようだとお伝え下さい。貴方と過ごした日々は本当に幸せでした。ありがとう。そして、さようなら。兄さん』

 僕は手紙読んだあと、必死に彼女を探しましたが見つかりませんでした。そして、見つけてしまったのです。彼女の愛した花が咲き乱れる場所を。そこは激流の川のすぐ傍にありました。僕はそこで彼女はもうこの世にはいないと悟りました。その場所に、彼女の使っていた髪飾りが置いてあったから。

 僕は涙が止まりませんでした。天を見上げ僕は自分を呪います。どうして生まれてきたのか。幼い頃、あの時死んでいれば良かったと。

 僕が彼女を、妹を殺したようなものです。自らが手をかけ、愛してしまった彼女。この運命を僕は呪いました。そして、忘れかけていた復讐心が沸々と湧いてくるのを感じ取りました。僕の生まれた村を滅ぼした連中。奴らさえいなければこんなことにはならなかったんだ。

「僕の生きる理由。それは……」

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