前回のあらすじ
同じ夢を毎日何度も見る。
私は地下鉄の線路の前に立っている。人もぞろぞろ通る、特徴もない風景の中、私はいつもそこで立っている。
そして私は誰かを待っている。確か……昔会った男だ。
来ないと分かっていたのに。来るはずがないのに、私はずっとその男を待っていた。
もうだめだ。私の人生は既に、終わったも同然だ。だからもう命を絶つしかない。死も、待っていた。
二通りの道、それは生か死。無謀な待機をただひたすら続けるくらいなら今、電車が通ると同時にここを飛び降りた方が、楽になれる。
そして案の定、私は待ちきれずに電車を選んだ。
死ぬ瞬間はいつもその夢から起き上がって、見ることはできない。
毎日同じ夢を見る。もう見飽きるほどにだ。
もうこの夢を見て三か月は経っただろうか、未だに同じ夢だ。
あの人はいつになったら私の元へ来るのだろう。
もう二度と会えないのだろうか?
それとも既に最近会っているのだろうか?
私はただひたすら、夢でその人を待ち続ける一方だ。
そしてある日、私はとどめを刺されたかのように絶望した。誘拐された。
酷い目にあった。もう嫌だ。私は絶対に生きる価値がない。少ないじゃない。ないんだ。生きてる意味が分からない。
その誘拐されたときに寝た時、またあの夢を見た。
その夢で初めて、死ぬ瞬間の感覚を味わった。死後の世界を見た。真っ暗だ。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。
でも、人生で一番楽な気持ちにもなれた。それが私が一番求めていた感覚だ。だから、もう命をやめることを決意した。
その日の正午、私は夢と同じような光景の地下鉄に立った。
もう待つ必要はない。ためらいなく、死のう。どうせ来ないのだから――。
こっちにくる電車は容赦なく進み、私は線路へとゆっくり足を踏んだ。
もう、諦めた。全部諦めた。色んな市民、色んな駅員さんに迷惑かけちゃうけど、ごめんなさい。
――前に向かって線路へと、倒れた――
しかし、倒れた感じも、夢で見たような光景は全くなかった。気が付くと私は、さっきまでの風景、周りが人々が盛んの地下鉄で、まるで何事もなかったかのような後だった。
今、夢を見ていたのだろうか? 私は、こんな時でも寝てしまうのだろうか?
ふと横を見ると、見覚えのある人がそこにいた。
彼は、疲れ果てた表情で、中腰になっていた。
涙が出た。夢ではずっと待っても来なかった彼が、現実ではすぐにやって来たのだから。
私は救われた人間だ。彼は救世主、命の恩人と言わざるを得ない。
彼は、前と同じ面影をもつ笑みで、こう言った。
「待たせたな」