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異世界ツーリング  作者: おにぎり
第三章~北東部
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125日目-幕間

125日目 幕間


 ジャハーンギールは海の街だ。

 地中海までつながったカスピ海。

 船がある。

 当然魚が美味い。

 相棒のような日本人にはうれしい。

 もちろん、アールにもうれしい。


 相棒とアールはジャハーンギールに来て一カ月以上になる。完全に腰を据えてしまった。

 正直、相棒もアールもファハーンよりもこの街の方が好きだ。主に魚料理の点で。

 なんと言っても刺身が食べられる。

 7日に一度、海沿いをツーリングし、景色を眺め、絵を描き、美味い魚を食べる。

 この時間は最高だと思う。


 相棒はこの街の戦闘士協会から軍の訓練の依頼を受けている。

 六日訓練して一日休み、というペース。時間の都合は無理をすれば、それなりにつく。

 この街は2万人程度の規模だから、能力のある戦闘士は少ない。

 アールも手伝うが、アールは武芸を使って戦っているわけではないので、基本的には相棒の仕事だ。

 大変な仕事だと思う。相棒はすごくすごく疲れている。でもアールの相棒なら大丈夫だ。アールだって支えている。


 アールは魚料理の習得に余念が無い。近所の主婦達から地元料理を習い、アールが日本や地球の料理を教える。互いに教えあいだ。

 今日は南蛮漬けのような料理を大皿に山盛りに作った。相棒に手伝ってもらって、パエリアモドキも作った。宴会の為だ。

 アフシャールさんの店の自操車をどかして、駐車場をつかって、ご近所さん達を呼んで、特に理由もないけど宴会だ。

 

 この国の人たちは宴会が好きだ。

 アールも嫌いじゃ無い。たくさんの人たちを見るのはとても面白いと思う。 

 以前、キルマウスさんの所であったような宴会は気疲れして好きではないけれど、よく知った人たちの中で食べるご飯は美味しいと思う。この街の人たちには変な気取りが無くて、人懐っこい気がする。


 相棒はアフシャールさんの部下のバスラーさんと何事か話しているし、レイラーさんは月を見てぶつぶつ呟いていたので、アールはそっと離れて料理を教え合っている奥さん達の近くに行った。

 大抵の話題は子供の事、夫の事、料理や家事の事、飼っている猫の事、ご近所のお見合いの事、そんな感じのありふれた事だけど、生まれて125日のアールにはすべてが新鮮で面白く感じる。

 アールには話題があまりないから上手くしゃべれないけれど、聴いているだけでもみんなの生活がわかって楽しいと思う。


 アフシャールさんは斜向かいのファリバーさんに話しかけに行った。なぜかいつもの彼と違って、元気が無い。でも、なぜか嬉しそうだ。

 ちょっと話して、すぐに旦那と男の子達の集まりに戻ってしまった。


 しばらく考えて、アールは気付いた。

 たぶん、アフシャールさんはファリバーさんの事が好きなんだろう。

 ファリバーさんは16歳だったと思う。はきはきしたしゃべり方をする、気の強い女性だ。でもアールにも良く話しかけてくれるし、とても気配りがきく感じがする。頭も良い。

 良い人だ。アールは彼女が好きだ。


 人が、他の人を好きになるのはとても良いと、アールは思う。

 アールには良くわからないが、皆うれしそうだ。鍛冶屋の娘のラヤーナさんもそうだった。

 アールの知識は相棒の記憶が元になっているので、良い事ばかりじゃ無い事を知っているけど、でも良い事も間違いなくあることも知っている。


 少し、離れてみんなを見た。30人くらいの人たちだ。

 この人たちの間でも、アールにはわからない色々な事があるのだろう。

 でも、今は楽しそうだ。

 無理だけど、全てがうまくいってくれればいいとアールは思う。


 遠くから、アフシャールさんがファリバーさんを見ている。たぶん、ファリバーさんも気づいているだろう。迷惑そうではないけれど、アールには良くわからない。


 レイラーさんは月と相棒を交互に見ている。何か聞きたい事があるんだろう。

 彼女は相棒の事が好きなのだろうか?嫌いではないんだろう。

 アールには良くわからない。

 どっちでもいいと思う。

 アールは相棒の相棒だから、相棒が幸せになってくれれば相棒として嬉しい。

 それだけなんだ。


 南蛮漬けとパエリアモドキはとても好評であったから嬉しくなって、寝る前になんとなく南蛮漬けの絵を描いた。

 




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